エピソード167
プカシェル村に戻って一晩ゆっくり休息を挟んだ後、れいはアズランの街へと向かった。
「アドルという貴族はいますか?」と人探しをすると、貴族というのかはわからないがそういう名前の金持ちがいる、と大きな屋敷を案内された。
屋敷に赴くと、「ご主人様はいますか?」と尋ねる。それで出てきたのは眼鏡の老人だった。
ア「なんだね?どこの誰だね?私は研究に忙しいのだ!」
れ「あ、すみません。
でも、盗まれた財宝をお返しにあがりました」
ア「何?君はうちの屋敷から何か盗っていったのか!」
れ「いえ、私ではありません。
海賊に財宝を盗まれたのではありませんか?」
ア「何を言っているのだ?
君はそんなわけのわからないことを言って、うちの屋敷に侵入するのか?」
れ「いえ、違うんです。
財宝をお返しにあがったんです」
メイドの中年女性が慌てて口を挟んだ!
メ「ご主人様!悪い人には見えませんよ!
もう少し落ち着いてお話を伺ったらよろしいんじゃないですか!」
メイドのおかげで主人は興奮を鎮めた。
れいは客間に通され、アフタヌーンティーでもてなされた。
ア「それで君は、何を言っているのだね?
盗っ人が入ることは稀にあるがね。海賊が何だって?」
れ「アドルという富豪が他にもいるのでしょうか?」
ア「この街には私だけだが」
れ「もう少し南に、大きな鍾乳洞があります。
その奥に、海賊が隠した財宝がある、という話を聞きました。
私は、友人の宝物であった剣を取り返すつもりで潜りました。
奥まで行くと、そこには数えきれないほどの金貨や財宝があったのです。
宝の地図には『アドル家の財宝』と書かれていたもので・・・」
れいはなるべく端的に、状況説明を試みた。
しかし・・・
ア「数えきれないほどの金貨を海賊に?そんな記憶はないぞ」
アドルは腕を組んで首をかしげる。
れいは呆気にとられる。どうなっているのだ?
するとまた、メイドのおばさんが助け船を出した。
メ「ご主人様!それは遥かご先祖様のお話では?
たしか、200年くらい前にアドルの屋敷が海賊に襲われた、という話を聞いたことがありますよ」
ア「あぁ・・・!先祖の話か。
たしかにそういう話は聞いたことがある」
れ「同じアドルでも、ご先祖様のお話だったのですね。
それでも返却は現在のアドルさんでよろしいのだろうと思います」
れいはそう言うと、客間に莫大な財宝を物質化してみせた。
メ「まぁ!!」
ア「こ、こんなにか!?」二人とも呆気にとられる。
れ「はい。お返しいたします。少なくとも私が持っていくべきものとは思えませんから」
メイドがまた口を挟んだ。
メ「もしもし?あなた、どれだけ人が善いのです?
普通、海賊の財宝というのは盗った人が持っていくのです。その宝物を返却したなんて話・・・1つも聞いたことがありませんけど!」
ア「た、たしかに・・・!」
れ「よくわかりません。
海賊の文化に育つと、そういう考えになるのかもしれませんが。
私は西の大陸の生まれでして、海賊のことは絵本の中でしか知らないのです。
私の頭で考えると、海賊に盗まれた財宝は持ち主にお返しするのが良心かなと、思ったのですが」
ア「偉い・・・!!君は偉い!」
メ「ご主人様。落とし物の拾得は普通、1割の謝礼をするのですよ」
ア「そうだ。1割でも持っていきなさい。
私は別にカネに困った身分ではない。本を買える貯蓄さえあれば充分だからな」
れ「えぇ!一割でも相当な額になってしまいます!
ア「いいだろう。1割持っていきなさい」
れ「いえ、なんだか私には分不相応です。お金は必要な分くらいは稼げますし」
ア「むむ。なんて欲のない女なんだ!」
メ「ご主人様!そういう言葉を怒り口調で言ってはなりませんよ!」
ア「むむ。済まない。ついすぐに興奮してしまう。
じゃぁそこに2、3転がっている武器を持っていったらどうだ?」
れ「いえ、武器も私は気に入ったものがあるのです」
ア「じゃぁ魔導書ならいいだろう。ほら、分厚い本が転がっている。それは魔導書だろう。
魔法を習得することが出来るはずだぞ。それなら価値があるだろう」
れ「えぇ!それは助かります!」
れいは魔導書を1つ拾って、ぱらぱらとめくってみた。
れ「残念ながら、まったく意味がわかりません・・・」
ア「そうか。残念だな。
いや、まだ手があるぞ。ちょっと一緒に教会に行こう。
教会の神父が何か手助けしてくれると思うのだが」
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