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エピソード177 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月22日
  • 読了時間: 3分

更新日:7月30日

エピソード177


普通、鳥が盗まれても行方を掴むのはそう難しくない。狭いところに閉じ込められればなおさら、鳥はピーチクパーチクと騒ぐ生き物だからだ。しかしあろうことか、このロイドという種は、とても利口で、ほとんど鳴かない・・・。

ロイドの窃盗は街中で噂になり、皆がロイドの行方を捜したが、その気配は見つからないのだった。

窃盗団は何かの箱にでも入れて、どこかにひっそりとキープしているのだろう。

おそらく山賊が街から逃げるのは、人目が付かなくなる今日の夜半!それまでに探し出せるのだろうか!?


昼、れいは昼食を摂るために街に戻ってきた。

すると、食堂でも盗難について人々が騒いでいる。

れいはマヤの愛鳥が心配になってすぐに宿に駆け戻ったが、この宿のチルは無事であった。建物の中で飼われていたことが功を奏した。

しかし「ロイドの盗難事件で街中が騒いでるよ!気を付けて!」とれいはマヤや店主に忠告した。建物の中で飼っていれば大丈夫ではあろうが、マヤは不安でいっぱいである。そして街の他のロイドたちのことを思案して心を痛める。

マヤ&チル
マヤ&チル

マヤがあまりにも沈んでいるので、「ちょっと楽しい歌でも歌ってみれば」とハッパを掛けてやった。

マヤは「そうね」と言って、お気に入りの歌を適当に歌いはじめた。

すると・・・

やはり温室の中のチルは、マヤと競うようにケーとキューと鳴くのだった。


れいは閃いた!

れ「ねぇマヤ!あなた、思いっきり大きな声で、気が済むまで歌を歌ってみたくない!?」

マ「えぇ??」


れ「あなたが歌うと、虹色の鳥さんたちが反応するかもしれないわ!」

マヤとれいは街に出た。

マヤはちょっと恥ずかしそうに、でも気持ちよさそうに歌を歌いながら、石畳の道を練り歩いた。れいも、恥ずかしいのを堪えてマヤの手を握ってその行脚に付き添った。

街の人々はそれを見てポカンとするが、別に怒るでもない。よし、大丈夫だ!

マヤは緊張が解けてくると、さらに大きな声で、大胆に、気持ちよさそうに、歌声を街に響かせた。

マヤの歌を覚えてくると、れいはささやかに、ルルルとハミングでそれに合わせてやった。

マヤはそれに気づくとさらに幸せそうに微笑み、大きな声で楽しそうに歌った。

この日、なんとも奇妙で可愛らしい大道芸人が、クスコの街を練り歩いた。


すると・・・!


街はずれの酒場の裏側を通りかかったときだ。酒場のタルから一斉に、キューキュー!ケーケー!とけたたましい鳴き声が騒ぎ立てた!

れ「いたわ!」

マヤの歌声に反応するのは、チルだけではないようだった。

酒場のタルの中には、住民から盗まれた12羽のロイドが詰め込まれていて、見事奪還された!


マヤとれいによる大道芸人のような練り歩きは、まさかロイドを探し出すための作戦だとは誰一人気づきはしなかった。もちろん、山賊も!れいはそれを狙ったから、誰にもこの行動の真意を説明しなかったのだ。付き添う自分も恥ずかしい晒し者になるが、その恥を覚悟で、隠密のままマヤの助手を務め続けた。

盗んだ山賊は近くの宿で眠り呆けており、タルから鳥が奪還されてもそのことに気づきもしないのだった。

れいは、山賊と鉢合わせたら自分が奴らと戦う役割になると覚悟していたが、街の中に血を流すことなく、悲鳴も起こすことなく、戦闘も危険も見せることなく、この事件を解決することが出来た。

マヤとれいは、素晴らしい探偵コンビとなった!


・・・ただ一つ困ったことに、救出された12羽のロイドが、どれが誰の家のペットか、みんな判別が付かないのだった・・・。


マ「わたしはあなたのことわかるからね♪」とマヤはチルに口づけをした。



あなたがその美しい声で歌うことで、誰かが暗いタルの中から出てくるかもしれない。

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