top of page

エピソード179 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月22日
  • 読了時間: 4分

更新日:6月15日

エピソード179


思い残すことはないな、と確認すると、れいはマヤを抱きしめてからクスコの街を旅立った。

そして北方へと向かう。サマンオサに戻って船に乗らねば。長い旅の中で、いつの間にか所持金は3万ゴールドを超えていた。普通に客船の乗船券を買うことは出来た。

客船の雰囲気は行きの貨物船とはずいぶん違う。とても上等だし快適だ。ご馳走がたくさん出てくる。昼も夜も食べ放題だというからたまげる。しかし、客船のほうが貨物船よりも良いのかと問われれば、れいはそうとは言い切らない。「貨物船のほうが良い」とも言わないが、あの日貨物船での渡航を経験出来たことは、とても幸せだったと思う。


サンマリーノに到着すると、れいは雑多な店の中から世界地図を探して購入した。れいはガーデンブルグから気球に乗って北の地にワープしてしまったゆえ、それ以外の道のりでガーデンブルグに赴く方法がよくわからない。単純に来た町を戻ってしまうと、温泉宿で行き詰まってしまいそうだ。

幸いガーデンブルグへは、サンマリーノから南西側に円を描いて赴くことも出来た。そして新しい町を幾つかお目にかかりながら、ガーデンブルグを目指した。


20日足らずで、れいはガーデンブルグに辿り着く。

山間いの関所では、最初の訪問とは打って変わって、番兵たちは満面の笑顔で、抱擁と握手でれいを出迎えた。本当は優しい人々なのだ。

そしてガーデンブルグの城下町の人々も同じだった。大体みんなれいを知っている。れいが近々戻ってくるであろうことも、女王から聞いている。みんな笑顔で、れいの帰還を喜んだ。



女王に謁見する。

女「まぁ、よくぞ戻ってきてくださいました!きっと戻ってくるとは思っていましたけどね。うふふ。

 竜の月の11日まではもう少し日数があります。少しこの国でゆっくりしておいきなさいね」

れ「ありがとうございます。

 気球の調子はどうですか?私が旅立ったあと、ガスの補給が出来ているか、心配していました」

女「あぁ、その件は心配いらないのよ。

 ルビス様はあなたの代わりを、この城に派遣してくださったのですから!」女王はいたずらっぽい、意味深な笑顔で言う。

れ「えぇ?」れいはその意図を請う。

「お久しぶり、れい。更にたくましくなったようだわ?」

れ「えぇ!!なんでここに!?」

『世界樹』 サーヤ
サーヤ キャラデザイン絵夢さん

れいを出迎えたのは、なんと魔法使いのサーヤであった。サザンビークの王位継承問題で、事件を共にした冒険者の一人だ。

サ「あーだこーだ、諸事情あってね。今はここのお抱え魔法使いになっちゃったの。とりあえず、今はね」

れ「そうだったの!あなたの話も色々聞きたいわ」

サ「私も色々あなたとおしゃべりしたいけど、まずは女王様、ちゃんと事情を説明してさしあげたほうがよろしいのでは?」

女「そうね。まずは私のほうから説明が必要でしょう。

 れい?あなたは招待状を読みましたね?」

れ「は、はい。マスタードラゴンから招待された、と」

女「そうなのです。

 天空城のマスタードラゴンは、あなたの雄姿を見ておいでです。そして、自分の城に招待したいとお考えになったようです。その器に達したと、お考えになったようです」

れ「!!わたしが?」

女「えぇ、あなたがです。

 ガーデンブルグの気球を使って、あなたを天空の城にお届けして差し上げますよ」

れ「えぇ!でも気球では天空の城には行けないと伺いましたが・・・」

女「そう。普通はそうなのです。天空城はとても高い高度を飛んでいます。

 しかしね、あるひと時だけ、人類にも手が届きそうな高さに降りてきます。

れ「それが、竜の月の11日?」

女「その通り。察しが早いですね。ですから急いで戻ってきてもらいました。

 私はあなたが世界のどこにいるか知らないので、ハラハラしましたよ!でもきっと大丈夫だと、信じていましたけどね」

れ「はい。どうにかなりました」

女「ここガーデンブルグ城は人里離れた地です。だから天空城がかなり低いところを飛んでも、大勢の人間に知られることはありません。それが竜の月の11日の1日だけとなれば、なおさらです。

 こうして、啓示を持つ者だけが神の地へと誘(いざな)われていきます。強いだけでは天国に行けない。富や科学にものを言わせても、天国には行けないのです。

れ「なるほど・・・!」

女「気球での送迎は、国の者たちが準備しますからね。

 あなたはその日まで、この国でゆっくり過ごしていてくださいな。

 いえ、出来れば国の者たちに、あなたのお話を聞かせてあげてください」

れ「いいえ、私に語れることなど何もないのです」

女「じゃぁ、国の者たちと遊んであげてください。うふふ」

bottom of page