エピソード18 『トランク1つで生きていく』
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- 2023年3月8日
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変な話を振られたり、変なことを頼まれると、「は?」と思うけれど、
何気にこれが、面白い。
熊本の暮らしでは、会話する人はいつも限られていて、
会話する内容もほとんど同じで限られていた。日々に刺激がなかった。
それが、熊本を出てきてからというもの、
ほとんど毎日新しい誰かと会話をし、新しい話を耳にする。
これは何か、小学2年生くらいのときに閉じてしまった心のつぼみみたいなものを、
優しく柔らかく、刺激してくる。
そのたびに、そのつぼみは、虹色に色めく。
孵化を待つ卵のようなものが、私の中にあるのだ。
私はスーパーに行って、ミートソースの材料を手に取った。それとサラダ野菜。
こんなもんで良いんだろうか?かといって、あまり背伸びして失敗しても、迷惑かけてしまう。
私は足早に「まりりん」に戻り、調理にとりかかった。
何だか、妙なことを押し付けられている気もするが、
人のために料理をするのというは、心地よくもある。
…押しつけられてはいないのだ。彼は私に、強要はしていない。
彼の提案に対して、私は自分の意思で、「YES」と答えた。
熊本の実家で、親に夕飯の支度を押し付けられるときのそれとは、
感じ方がずいぶん違っていた。
どちらかといえば、彼氏に料理をもてなしたときの感覚に似ていた。
なんだかワクワクして、そして優しいキモチになるのだ。
粗末なミートソースだったけれど、彼はとても喜んでくれた。
その笑顔を見て、私はまた、嬉しくなってしまうのだった。
不思議な感覚だ。何やっているんだ?私は。
そして食事を共にすると、会話ははずむ。
彼は、名前をタカユキさんといった。年は聞いていないけれど、30は超えてると思う。
タカユキさんは、あまり自分の話をしなかった。
それよりも、私に質問ばかり投げかけてきた。
話の大半は、震災の日からの私のトランク・ライフについてだ。
ノマドライフと言ったほうが良いのか?でもノマドというのはピンとこないので、
私にとってはトランク・ライフだ。
私は、どんどん自分のことを話した。
なぜか、どんどん話してしまうのだ。そして、そこに心地よさを感じてしまう。
彼はどうも、とても聞き上手なのだ。
彼はよく、「それで、そのときどう思ったの?」と聞いてくる。
私はそれに答える。すると私は、「あ、そう思ってたんだ!」と、
自分で自分にビックリする。
私たちは22時頃まで話をして、そして解散した。
『トランク1つで生きていく』