エピソード18
次は防具屋だ。
何を買うのが良いのだろうか?さっぱり見当がつかない。
強そうなのは180ゴールドの《皮の鎧》なのだが、そんな戦士じみた格好になるのは少々抵抗がある。
そんなれいの戸惑いを察したのか、防具屋は声を掛けた。
防「《皮の盾》が良いんじゃないか?女の子らしい服装に支障が出ないよ。
盾なんて慣れない者には大変かもしれんが、まぁじきに慣れるさ。慣れたほうがいいしね」
なるほど。確かにそうだ。
れいは90ゴールドを払って、《皮の盾》を購入した。
れ「どうもありがとう」
武器や防具は、日常生活に比べれば非常に高い買い物だ。
そして、街によっては無用に高いアイテムを押し売りされることもある。王都サントハイムは、サランやテンペに比べれば殺伐としているが、まだ良心のある街だったようだ。無知なれいにとって、彼らが適切なアドバイスをしてくれて幸いだった。色々な人に支えられて、旅をしている。
れいは改めて、《銅の剣》と《皮の盾》をしっかと構えてみた。
うーん。どんどん魔法使いから遠ざかっている気がする・・・。まぁ仕方ない。コツコツ行こう。
れいは再び街の外に出た。
武器屋の男の言うとおり、この大きな剣に慣れるためにしばし戦闘を重ねてみよう。そして盾を巧みに使って魔物の攻撃を防ぐ訓練もしよう。
なるほど《銅の剣》は重い!《聖なるナイフ》の比ではないのだった。1日でこの重さに耐える筋力が付くとは思えない。が、今日は今日で頑張らなければ始まらない。
《銅の剣》はよく見ると、あまり切れ味の鋭い剣ではないようだった。型にとった量産品だと武器屋は言っていたが、「斬る」というよりも「叩く」ニュアンスで戦う武器と言える。「切れ味」という点では《聖なるナイフ》が勝るかもしれないと思えるほどだ。後でわかったが、《聖なるナイフ》のほうが市場価値としては高いものだった。
しかしとにかく、戦士としての立ち回りを求められる今のれいにとっては、《銅の剣》のほうが都合の良い剣であると言えた。この重さに慣れさえすれば。やはり少し遠くから攻撃できたほうが良い。
れいは《銅の剣》をしゃにむに振り回し、腕が筋肉痛でくたびれ果てると自分の腕に《ホイミ》をかけた。
普通は攻撃されて受けたダメージを回復するために《ホイミ》を使うものだが、れいは戦闘の基礎を知らないがゆえに柔軟だった。れいのその考え方は、悪いものではなかった。腕力は、筋肉痛と再生を繰り返すことで鍛えられるものだから、普通の冒険者たちが2~3日かけて修復する筋肉痛を《ホイミ》で治すれいは、他者よりも速く腕力を鍛えられたのだった。これは意外とすごいことだったが、比較対象を持たないれいは気づくこともないのだった。
そして、盾を巧みに構えて魔物の攻撃を防ぐ作業は、意外と「面白い」と感じた。反射神経を競うゲームのようだ。
最初のうち、敵が攻撃してきそうになると1メートルも前からもう、怖くて目をつむってしまうことが多かった。そして腕をかざしたり背中を向けたりして適当に攻撃を喰らう。
盾を得てからは、その盾で攻撃を弾くために、敵の攻撃をギリギリまで凝視する意識がついた。動体視力が養われたし、敵に攻撃されることを無暗に怖がらなくなってきた。「盾が弾いてくれれば痛くないな」と思っていたが、盾を構えることで度胸が身に付くというのは、意外な発見だった。
逆に言えば、身をかわせば済む攻撃すら盾で受け止めようとしてしまうので、無駄な衝撃を受ける過ちも犯す。盾で防いだところで、攻撃の衝撃を受けることは体に負担がかかるのだ。
相手が攻撃してきたとき、盾で防ぐのか、ひらりと身をかわすのか、剣でいなすべきなのか、瞬時に判断して身をこなせるようにならなければいけない。「戦闘は奥が深いな」と思った。「少し楽しい」と思った。これは意外と頭を使うものだ。
さらに2時間も戦闘を重ねると、今日は満足した。