top of page

エピソード19 『トランク1つで生きていく』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月9日
  • 読了時間: 4分

翌日私は、とりあえずもう1泊の延長を申し出た。

まぁ1,000円ならそんなに痛くはない。

これからの身の振りは、あせらずじっくり決めればいい。


私はふと、フロントに置いてあったガイドブックを手にとった。

「なんならそれ、借りてってもいいよ」と、

TOKIOの山口くんみたいなお兄さんは言った。

私はお言葉に甘えてそれを手に取り、

そして山口くんに、「オススメの観光地はどこですか?」と尋ねた。

「昨日来たばっかりなんだよね?

 国際通り行った?沖縄来たらまずは、国際通りっしょ!」

彼が即答で断言するので、私はそれに乗ってみることにした。

けれど、残念なことに、

国際通りとやらはまったく、私のお気には召さなかった。

そこは全くの都会で、まさに私がゲンメツした沖縄そのもので。

ひととおり歩いてはみたし、紅いもチップスもつまんではみたけれど、

私にとってはもう、これで充分。お土産を買う必要性が出てきても、

きっとここには頼らないでしょう。



夕方、私はまた、リビングに出てライター仕事を始めた。

昨日と同じように、出入りする人々を人間観察しながら。

そして、この宿の異様なほどの青さや「めんそーれ!」のやかましさも含めて、

「やはりここは、私の居場所ではないな」と感じるのでした。

1ヶ月も半年も居続けたいとは、思えない。


やがて、昨日と同じように、タカユキさんがやってきた。

今度は私も、「こんにちは」と声に出して会釈をした。

「あれ?観光はしないの?」と、彼は私に尋ねる。

「それが、

 『まりりん』の人に国際通りっていうのオススメされたんで行ってみたら、

 ぜんぜん期待外れで、ちょっとショゲてたところなんです。」

「あははは!

 人にアドバイスを求めるなら、相手をよく選ばなくちゃいけないよ。

 自分とぜんぜん違う感性の人に尋ねたって、

 ぜんぜん趣味に合わないものをオススメされちゃうだけさ。」

そのとおりだと思った。

それぞれが善意で答えてくれるだろうが、良いと感じるものがそもそも、

十人十色なんだ。そして、役に立たない答えがある。


「あの…」

今日は私のほうから、思いきって言ってみた。

「良かったらまた、夕食作りましょうか?」

言ってからハっとした。お金巻き上げてると思われないかな!?

「あ、300円とかいいです。昨日の食材もまだあまってるし。」慌てて付けたした。

「あはは、いいの?

 じゃぁまた、お言葉に甘えちゃおうかな!」

昨日よりずいぶん早いが、私はまた、スーパーに買出しに出た。

…なんだろう?このウキウキした気分は。


また、ささやかな食事を囲んで談笑をした。

私は要らないと言ったのに、タカユキさんは300円を私に差し出した。

そのコインを見つめながら、私は言った。

「自分から申し出て助け合うような関係性って、気持ちいいですね。」

「そうだね。

 恋愛ってもともとは、そういうものだったらしいね。

 そういうことの喜びを体験するために、神は2つの性を作ったらしいよ。」

「そうなんですか?

 『もともとは』って、今は違うんですか?」

「『結婚』とか『扶養義務』とかを考えはじめるようになったら、

 それはもう、『申し出て助け合う』のとは違うよね。

 文字通り、『義務』で相手に助けを『強要』してる関係だから。

 だから人は、結婚するととたんに、苦しくなってきちゃうんだね。

 だから僕、結婚したいとは思わないね。

 人助けるのは好きだけどね。強要されたくはないんだ。」

「結婚かぁ。」

「結婚願望ある?ハナちゃんは。」

「私、あんまり考えたことありませんでした。」

「あんまり興味がないんだろうね。それでいいと思うし、

 結婚するにしても、よっぽど慎重に決めたほうがいいと思うよ。」

「はい。イケメンでも、生活費入れてくれない男かもしれないですからね。」

「いやいや、そうじゃないんだってば。

 まったく逆なんだと思うよ。

 『助けてくれるか』はあんまり重要じゃないんだよ。

 『トキメいていられるか』が重要なんだ。

 『助けてもらう』っていう欲求なら、別に恋愛の相手に求めなくてもいいんだよね。

 隣のおばあちゃんに料理作ってもらったっていいわけだし、

 国に養ってもらったっていいわけだし。

 必然的に、 助け合えるような精神性のある人に、惹かれるとは思うけど、

 かといって、それは副産物に過ぎないんだと思うよ。恋愛においては、ね。」

「じゃぁ何が主産物なんですか?」

「だから、トキメくことだよ。

 ドキドキしたりワクワクしたりすること。

 それを提供してくれるんだったら、ある意味では顔がいいだけのダメ男でも、

 いいんだろうと思うね。

 ただし、そういう男に対するトキメキは、長くは続かないだろうけど。

 トキメかなくなったら、ほかの男に変えればいいのよ。

 顔がいいだけの男は、すぐ飽きられるし、若いうちしかモテない。女性も同じだよね。」

「京都に飽きたら、沖縄に行けばいい。そういうこと?」

「そう!そういうことだよ。」



『トランク1つで生きていく』

bottom of page