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エピソード21 『トランク1つで生きていく』

エピソード21


翌日の晩にもまた、夕食を作ろうかとお誘いをしてみたけれど、

彼は笑って、それを断りました。

「今日は外食の日だから」と。

自炊だと食べる食材に偏りが出てくるので、

週に1度は外で夕食を食べるんだそうです。

私はそれに、同行させてもらうことにしました。


彼が連れていってくれたのは、公営市場の中でした。

庶民的な、昔ながらの食堂が並んでいて、

国際通りとは比べ物にならないくらい、安い値段の店があります。

私は、沖縄名物の1つであるタコライスというのを、350円で食べました。


雰囲気になじんでくると、私は会話をはじめました。

「タカユキさんは、すごく『語れる』人だと思うんです。 

 昨日話してて、そう思ったんです。

 でも、

 一昨日の…初めておしゃべりした日には、ぜんぜんしゃべらなかったでしょ?

 私に質問ばっかりしてたし、あいづちばっかりでした。

 そのギャップみたいのが、不思議だなと思ったんです。」

「あはは。僕ね、カウンセラーをやっていたんだよ。」

「カウンセラーって、心理カウンセラー?」

「そう。サイコロジー。」

「だから聞き上手なんですね。」

「うん。カウンセラーには聞き上手タイプと話し上手タイプがいるけど、

 僕はそれを、臨機応変に使い分けるようにしてるよ。

 たいていは、まず聞くことが大事じゃないかな。

 そうじゃないと、その人が今、どんな風を必要としてるか、わかんないもんね。」

「カウンセラーやってると、いろんな人の本音が聞けるのですか?」

「そうだね。ある意味それ、すごく面白いよ。

 みんなみんな、内と外のギャップがすごいなぁってビックリする。」

「たとえば?」

「何よりも、不倫率の高さに驚くよ。浮気も含めて、ね。」

「不倫が!?そんなに、ですか!?」

「そんなに、だね!

 とにかく不倫率が高いし、みんな不倫願望が強いんだなってのを、痛感させられるよ。

 すごく清楚な人も、真面目に子育てしてるような人でも、

 不倫願望を口にするし、不倫歴を打ち明けるから、

 人ってそういうものなんだなって、知ったよ。

 表向きは『不倫なんてありえない!』って言ってても、本音は違うのね。

 それに対して僕は、善いも悪いも言わない。

 社会モラル的に言えば褒められたものではないわけだけど、

 でも人生って、社会モラルだけでは割り切れないからさ。」

「家族見捨てて、被災地から抜け出してくることとか?」

「そうそう。そういうこと。

 実際のところ、不倫の経験がその人を成熟させることもあるようだよ。

 堕落させるだけのこともあるけれど。」

「成熟させるんですか?不倫が?」

「相手選びが、上手い場合はね。

 ダンナや友人からは得られないような知識や愛を、

 不倫相手から得ることがあるんだよ。」

「わかるようなわかんないような…

 じゃぁ、堕落するだけの不倫っていうのは?」

「出会い系とか援助交際とかっていうのは、そうなることが多いだろうね。

 フランス料理おごってもらったり大金もらえたりするかもしれないけど、

 裸の動画をネット上に流されたり、妊娠させられちゃったり…」

「想像したくもないです!」

「とにかく、色んな恋愛があるし色んなセックスがあるよ。

 いくつかは経験してみないと、何が良質で誰が良質か、わからないよね。」

「かといって…」

「そう。『かといって』なんだよ。

 いろんな異性やいろんなセックスを垣間見たいなら、

 うかつに結婚しないほうが良いんだろうとは、思うね。

 結婚前なら、誰にも咎められずにいろんな恋愛をする権利があるからね。

 誠実でありたいなら、

 『一途であろうとすること』よりも、

 『うかつに一途を誓わないこと』が大事なんじゃないかと思うね。

 人間にとって、色んな異性を知りたい欲求は、抑えきれないんだろうからさ。

 ノマドライフとフリーラブは、よく似てると思うよ。

 家を買う前なら、いろんな土地に住んでみる権利があるよね。

 …権利っていうか、それがしやすいさ。家買っちゃうと、難しいよね。

 生活にせよ異性にせよ、

 『いろんな世界を見たい』のか、

 『1つの世界に留まりたい』のか、

 自分のハートによく聞いてみたほうが良いんだろうと思うね、みんな。

 家を買うことや結婚をすること、交際をすることは、

 『寝床やぬくもりが安定する』っていうメリットがあるけれど、

 そのぶん足かせが増えるし、義務や責任も増えるし、自由は減っちゃう。

 ノマドやフリーラブは、 

 1年に10回でも違う世界を見られるけど、

 その代わり、根無し草っていうか、ね。安定が無いよね。

 まぁ、家に関しては、案外みんな、1つの場所で満足してるっぽいね。

 大災害のときに困ってるくらいで。

 でも恋愛に関しては、かなりみんな、1つじゃ満足できていないよ。

 善いか悪いかの問題じゃなく、それが実情みたい。」



『トランク1つで生きていく』

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