top of page

エピソード25 『トランク1つで生きていく』

エピソード25


「そういえば、旦那さんは?」

「旦那さんはね、離婚しちゃった。

 私は価値観が変わったけれど、旦那さんは変わらなかったから。

 私は子供たちのために、甘やかしすぎるのはダメだと思ったし、

 かといって、もう少し誠実な町に移動したいと思ったんだけど、

 旦那さんはそれを理解してはくれなかったのね。

 もともとあまり、きゅんきゅんする相手ではなかったし。」

「きゅんきゅんって、トキメキのこと?」

「そう。トキメキのことね。あまりトキメキを感じる相手ではなかったの。

 とてもお金持ちだから、私の『家庭ごっこ』欲求を叶えてくれるから、

 それで結婚したようなものなの。

 大変だったわ。離婚も。

 彼は離婚を望んでいないし、沖縄への引越しも望んでいない。

 民泊も望んでいないし、子供を厳しく育てることも、望んでいない。

 かといって、

 彼に服従し続けるのは、自分を殺して生きるのと同じ。それも耐えられない。

 ノイローゼになっちゃった。いろんなことの板ばさみで。

 でもそれも他人のせいじゃないの。結婚を選んだ私の責任よ。

 結婚ってそういうものだから。たくさんのしがらみがセットで、結婚っていうものなの。

 『交際』なら離れるのも難しくないけど、

 『結婚』は、離れるのがとても大変。親族も口を挟んでくるしね。

 そういうのもぜーんぶひっくるめて、覚悟して、結婚を決めるべきなのよ。

 私は、結婚に関しても、軽はずみすぎたわ。ろくに考慮できてなかった。

 だから、離婚したくなっても、それが拒絶されても、

 むやみに旦那さんを責められないわ。私が決めたことだもの。 

 だから私は、『お金も子供も何も要らないから』ってお願いしたの。

 全てを捨てる覚悟で、離婚を懇願したの。

 離婚が成立したのは、ホント最近のことよ。」

やっぱり、壮絶なプロセスがあったのね…


「じゃぁもう、再婚はしないんですか?」

「そうね。もう結婚はしないと思う。

 裕福じゃないけれど、経済的に支えてくれるという人が現れても、

 きっと結婚はしないと思うわ。

 自分の力で、どうにかしていきたいと思ってる。

 きっと民泊だけでは生計が立てられないから、外部労働もするつもり。

 だからお留守番の人が居てくれると、私とっても助かるの。」

私も、麗子さんの役に立てるんだ。なんかうれしい。


「麗子さんは、トキメくことってないんですか?」

「え?トキメくって、男の人に対して?」

「そうです。恋愛感情っていうか。」

「あるわ。ウフフ。

 だからこそ、結婚はしないと思うの。」

「だからこそ?」

「そうよ。結婚したら、ほかの異性とはデートできないのよ。

 それが日本の決まりだから。

 私、トキメキを感じる男性はそう多くないわ。理想は高めだと思う。

 でも、一人だけに決めることも、難しいと思うのね。

 そういう自分の感情や、トキメキや潤い?を大事に尊重するなら、

 やっぱり結婚は、しないほうが良いんだと思うの。

 人は誰しも、本質的に、恋愛を求めていると思うわ。

 ステキな異性を見つめていたいし、手をつなぎたいし、体が欲しい。

 それが得られなくなると、枯れてくるし、グチばかりになるのよね。

 アイドル追いかけるくらいなら、素直に恋愛したほうが良いんじゃないかしら。

 でも結婚したら恋愛はできなくなってしまうからね、

 結婚をするかどうかは、慎重に決めなくちゃよね。」

「でも、家族を持ちたいんですよね?」

「家族を持ちたいわけじゃないの。

 『家族じゃない人と、家族以上に愛し合う』という暮らしがしたいの。

 家族や結婚には、義務が多すぎるでしょ?

 私はそれを背負いきれないし、他人に何かを強要したくもないの。

 もっと自然で自由な関係性がいいのね。

 だから民泊を選んだの。ゲストハウスでも良かったんだけどね。

 基本は素泊まり宿。何もお世話する義務はない。

 その中で、昨日みたいに手作りお菓子でもてなしたり、ドライブに連れていってあげたり、

 そういうことをしたいの。」

「300円のおだちんで、夕食作ってあげたり?」

「え?」

「いや、何でもないんです。」

きっとそういうことだ。麗子さんの言っていることは。



『トランク1つで生きていく』

最新記事

すべて表示
bottom of page