エピソード26 『名もなき町で』
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- 2023年3月15日
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エピソード26
お客は週末くらいしか来なかったけど、
それでもすごく楽しかった。
彼らはたいてい、僕をその遊びに混ぜてくれて、
そしてフレンドリーに接してくれた。
礼儀やマナーはしっかりしてて、僕が手を焼くことはほんと皆無だった。
店もなく不便なことも多い施設なのに、
クレーマーなんて一人も居やしないしないし。
小言を言うのは、お客じゃなくてタコ八だった。
タコ八はとにかく、僕の顔を見れば小言を言わなきゃ済まないらしかった。
そして、言葉の1つ1つが、とても乱暴だ。
彼は、僕が最もニガテな人種だったりする。権威的な上司。
そう。彼は上司だったんだよ。
僕がこの地で出会った第一村人は、
偶然にも、ここ伊座利の会長さんだったんだ。
だから、こんなに口うるさいし、
だから、ほとんど彼の鶴の一声で、
僕を管理人に任命したり、できたのさ。
逆を言えば、
僕は、彼に嫌われれば、すぐにここを追い出される運命にある。
でもなぜか、不思議なことに、
僕はタコ八をあまり恐れてはいなかった。
彼がどれだけ怒鳴っていても、縮こまったりはしなかった。
思いのほか、何でもかんでも彼にぶっちゃけた。
それはタブン、
タコ八が伊座利の会長である事実を知る前から、
彼にアレコレ思想をぶつけていたからだと思う。
スピリチュアルな言葉はあまり使わなかったけど、
僕の理想主義的な人生観から博愛的な恋愛観まで、たいていはぶっちゃけていた。
彼は、「ここに住民票を移すならもっと手厚くしてやる」と言ってくれたけど、
ここに定住するかどうか、それは僕には約束できやしなかった。
イザリーヌがエコビレッジの最適地なのか、それはまだ判別しきれなかったから。
だから僕は、タコ八に取り付くようなことは何も言わなかった。
タコ八は、僕に対して、
「何かお金を生むような労働をしろ」と言った。
「この管理棟を使って良いから、何か賃金労働をしろ」と。
冬になるとキャンプ場に客は来なくなるので、
食費などをジブンで賄わせたかったんだと思うよ。
僕は、賃金労働をせずに暮らしたかったけど、
仕方なく、彼の指示を受け入れることにした。
即座に無金社会を造るのは、ムリがありそうだ。
そして、ここでオーラソーマのカウンセリングやレイキ伝授を行うことにした。
僕は、友人に預けていたオーラソーマのボトルセットを送ってもらい、
スピリチュアルな本なんかも送ってもらって、空間作りに取り組んだ。
同時に、ハーブティのカフェもやることにした。
なにしろ、この管理棟の玄関横には、立派なバーカウンターがあるんだよ。
並べられていたお酒のビンは全部取っ払って、カフェ用に可愛くリフォームした。
それに必要な小物代は、食費と同じように経費から出して良いと言ってくれた。
まぁ、「儲けが出たら返せよ」みたいなことは釘刺しされたけど。
『名もなき町で』