エピソード29
…ちなみに、
どうして僕が4時間しか歩けないフヌケか、話しておこうかな?
僕、足に障害があるんだよ。
障害なんていうと大げさなのかもしんないけど、
右足の付け根の関節が、ちょっとヘンなんだ。
子供の頃から、
「キミって、右足だけちょっと内股じゃない?」って言われてた。
内股ってのは女々しさを連想するから、それはちょっと気にしてたけど、
でも、肉体的な異常そのものは、あんまり気にしてなかった。
普通どおり体育を受けて、普通どおりに生活してた。
でも高校くらいになると、どうも長時間立ったり動いたりするのがキツい。
右足の付け根に、やたら痛みが集中するんだよ。
んで、整骨院に行ってレントゲン撮ってみたら、
「股関節に、先天的な異常がありますね」って言われたんだ。
とりあえずその診断のおかげで、
体育の持久走とかはやらなくて良くなった。助かった!
かといって、世の中ってのはそんなに甘くナイんだよ。
「障害があるんです」なんて言ったって、
それが外見的にわかりにくいモノであるなら、みんな、怪しむんだ。
「どうせサボりの口実だろう」みたいな、さ。
社会に出ようもんなら、
「足が悪いので肉体労働はキツいです」とか説明したって、
「オトコなのに何言ってんだよ!」ってコトになる。
家族さえも、そうやって僕を突き放した。
日本社会は、男という生き物に対しては、
「多少カラダに異変があろうとも、根性で乗り切るべき」
と強要してくる。
もちろん、この程度の障害では、生活保護が支給されたりもしないし。
すると僕は、
足の障害なんて存在しないものとして、生き抜くしかない。
骨の痛みは、筋肉と根性でカバーするしかないんだよ。
(実際、筋肉と根性でそれなりにはカバーできる)
かといって、僕は気質的にインドア系で、文化系さ。
必然的に、家で座って過ごす時間が多くなる。
すると、外回りの営業マンみたいな無尽蔵の体力は、培うのは難しいんだな。
つまりさ?
お遍路歩きなんてのは、僕にはサッパリ向いてないんだよ。
ドクターストップかかってるわけだし。
でも僕は、挑戦してみようと思ったんだ。
全ての言い訳を排除して、全ての苦痛を我慢して、
足の障害を克服してみようと思ったんだ。根性だけを頼りに、さ。
「お遍路にはご利益がある」なんて言ってるヒトもいるけど、
僕はそんなの信じちゃいなかった。
ご利益で克服するんじゃなくて、根性で克服するんだよ。
誰にも話さなかったよ。
誰に褒められたいわけでもないし、応援されたいわけでもないし。
そういうのはあくまで、ジブンとの戦いだよね。
「精神修行」って、そういうことじゃないの?
「僕は病人だから」とか「私は女だから」とか、
そうしたあらゆる言い訳を振り払って、ジブンと対峙するのさ。
『名もなき町で』