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エピソード2 『トランク1つで生きていく』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月9日
  • 読了時間: 3分

家族から5分遅れて、私は家を後にする。

カギはしっかり掛けた。家族には迷惑をかけないようにせねばね。

夜道が暗い!そうか、停電しているんだ。

懐中電灯を取りに戻ろうかとも考えたけれど、

スマホに簡易ライト機能があることを思い出して、進むことにした。

まずは大通りを目指して歩く。なるべく車通りの多いところへ。

県道までくると、ポツポツと明りがある。なんで?

近寄ってよく見ると、小さなソーラーパネルが備えつけてある。便利な時代になったね。

私はその下に陣取って、クロッキーノートを取り出す。

「山口方面」マジックで大きく描く。ヒッチハイク、してみようかと思って。

外灯の下なら、車のドライバーからも見えるだろう。そうであってほしい。

車が通りかかるたびに、私はノートを派手に振って、猛アピールを続けた。


ものの5分。1台の車が停まってくれた。

大きなファミリーカーだから、私の乗るスペースも残っていそうだ。

運転手の男性は窓を開けて、私に言った。

「君、何してんの!」

「県外に出ようと思って。乗せていってくれませんか?途中まででも…」

「何言ってんの!俺らこれから避難所向かうんだよ!

 君も避難所に行きなさい!乗せていってあげるから。」

「い、いえ。いいんです。ごめんなさい!」私は後ずさりしながら言った。

「何考えてるんだ!正気じゃないのか!?」

「いや。正気なんです。とにかく県外に出たくて…」

「旅行とかしてる場合じゃないんだよ!君、酒でも飲んだのか?

 ついさっき、バカでかい地震があったんだ!」

「知ってます!」

「だったら…」

「あなた!」助手席の奥さんが、男性の剣幕を止めてくれた。

「彼女にも何か考えがあるのよ。けんかしてもしょうがないでしょう。」

「そうだが…。」

「お嬢さん。ヒッチハイクはいいけれど、フードで髪を隠したほうが良いわ。」

「え?」私はパーカーのフードに手を触れた。

「女の子だってことが、極力わからないようにね。

 女の子だってわかったら、運ぶ気もない男があなたを連れ込むかもしれないから。」

「あ…!」

「生き延びるためのヒッチハイクでしょう?慎重にやらないと。」

「ありがとうございます!」私はフードをかぶりつつ、大きくお辞儀をした。

車は行ってしまった。

後部座席の子供たちは、不安そうに私のことを見つめていた。



車が見えなくなって、私は我に返った。

襲われる危険があるんだ!

私は急に、怖くなってしまった。

心臓が締め付けられるように苦しい。寒気がする。

どうしよう?やめたほうが良いのか?襲われるなんてたまったもんじゃない。

ためらっているうちに、

幸か不幸か、新たな車が徐行しながら近づいてくる。

ど、ど、ど、どうしよう…!

白い安っぽいミニバンだ。無骨なおじさんとかが乗っていそうだ…まずい…

私は思わず、スケッチブックを力なく下ろしたり上げたり、オドオドした。

それを見て、運転手はなおのこと、車を私に寄せてくる。

窓が開く。ゴクリ…



『トランク1つで生きていく』

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