エピソード30 『名もなき町で』
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- 2023年3月16日
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エピソード30
さて、お遍路道に戻ろうか。
たしか、
日和佐駅の近くの楽王寺が、僕にとっての最初の札所だったと思うよ。
札所っていうのは、お遍路道のチェックポイントみたいなものだね。88あるやつさ。
けっこう大きなお寺だったと思う。参拝者がたくさんいて、お遍路さんもいただろう。
「宿坊あり」とかなんとか、デカく書いてあったんだよ。
宿坊ってのはつまり、「お寺で泊めてあげますよ」って意味さ。
僕は、お金がなくても泊まれるものかと思って、そこに行ってみたんだ。
でも違った。
お金を取るんだよ。雑魚寝なのに5,000円も。お遍路相手に、ボロ儲けしてんだ。
お遍路さんって、空海大師の分身(と言われているん)だよ?
それを語り継いできた張本人たちが、神職者たちが、
空海大師相手にボッタクリ商売してんの(笑)
楽王寺の近くには、うどん屋さんがあった。
安そうだったから、行ってみたんだ。
店の入り口には、「お遍路さん歓迎!」って書いてあった。店主の似顔絵と一緒にさ。
僕は、「お接待」してくれるのかと期待した。
お金払わなくてもうどん食べさせてくれるのかなって。
それでうどん注文してみたけど、フツーに750円請求されたよ。
オレンジジュースがサービスされただけさ。
お遍路さんだけ特別に、オレンジジュースをサービスするんだ。
この店は空海大師様に、原価5円のオレンジジュースをサービスしてくれる。
だから誇らしげに、「お遍路さん歓迎!」って画用紙に書く。
由岐の駅で牛丼をめぐんでくれた店主のこと、覚えてる?
彼の店には、「お遍路さん歓迎!」なんて書いてなかったよ。
書いてないけど、彼は僕に牛丼をめぐんでくれた。
僕はお遍路さんじゃないかもしれないのに、それでも恵んでくれた。
知ってる?
「お遍路道」という修行場は、
お遍路さんたちの修行場ではないんだよ。実はさ。
お遍路さんたちの修行場でもあるんだけど、
実は、それ以上に、「周辺住民」のための修行舞台なんだ。
周辺住民たちが、ストイックなお遍路さんたちを目の当たりにしながら、
ジブンの未熟さに気付き、改めることが大切なんだ。
すると、お遍路さんをカモにしてる商売人たちってのが、一番未熟なんだよ。
立派な老舗のうどん屋だろうが、札所を任された寺社だろうが、
金儲けに必死な彼らは、最もモウロクしてんだよ(笑)
最もお遍路さんを目の当たりにしておきながら、
最も何にも気付いてないし、何の努力もしてない。
生まれた頃から空海思想にどっぷり漬かってきたのに、
「何が仏陀な境地であるか」それをサッパリ理解してない(笑)
『名もなき町で』



