エピソード31 『名もなき町で』
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- 2023年3月16日
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エピソード31
そうして、20キロばかしもボーっと歩いてみたら、
もうわかちゃったんだ。
お遍路ってモノが何なのか、真の目的(ゴール)が何なのか、
お遍路文化の現状がどれほどゲンメツか、わかっちゃったんだよ。
それでもう、
精神修行としてのお遍路には、あんまり興味がなくなっちゃったな。
それでも歩く。
どうせ他にはやることナイし、泊まるところナイし、
お遍路道沿いのほうが野宿もしやすいし、
それに、誰かや何かに出くわすかもしれないし♪
僕は、経験的に知ってるんだ。
パワースポットに類するような場所って、
そこの神職者や管理者は大して魅力的じゃないんだけど、
そこに集う人々の中には、面白い人が多いんだよね。
まるで釣り堀に糸たらす釣り人みたいに、何かが食いつくのをワクワク期待しながら、
僕は黙々と歩いた。
それから3日目だったか4日目だったか、
とにかく、お盆の暑い盛りだったよ。
僕はまだ、四国の南の海岸沿いを歩いてた。
夕方になっても気温は下がらず、照りつける太陽は暑かった。
僕は、「ひこうき」という喫茶店の前をとおりかかったんだ。
店の前では、小さな女の子とおばあちゃんがケラケラ笑ってた。
女の子は、ホースを振り回しながら、いたずら半分に打ち水をしてた。
僕の通行に気付いたおばあちゃんは、
「ほらほら!ホースを内に向けなさい!」と女の子に注意した。
女の子は聞き分けがよく、すぐにハシャぐのをヤメた。
けれども僕は、その子にこう言ったんだよ。
「ちょうど良かった!暑くってさぁ。
お兄ちゃんの顔に、バーっと水をかけておくれよ♪」
イタズラが公認された女の子は、満面の笑顔になって、
そして潔く僕にホースを向けた。
僕は本当に気持ちがよくて、そして高らかに笑った。
おばあちゃんは、
「お遍路さんなのね?
良かったら、お店に寄っていきなさいな。涼しいわ。」
と、僕を促した。
僕はもう、飲食店に対して、「お接待」は期待していなかった。
残金が1万円もないから迷ったけど、
「コレも何かの縁だなぁ」と思って、店に入ることにしたんだ。
店の中は涼しかった。内装はシックで、好感が持てる。
夕方の中途半端な時間で、お客はほとんどいなかった。
店のおばさんが僕に気付き、そしてカウンター席に座るよう促した。
僕は、野菜炒め定食を、肉抜きで注文した。
おばさんは、料理を待つ傍ら、話をはじめた。
「あなた、お遍路さんなの?そうは見えないけど…」
「えーと、一応、お遍路さんですね(笑)
ここ5日くらい、しこたま歩いてますけど。」
「どうしてそんなに身軽なの!?
お遍路さんってフツウ、大きなリュック背負って歩くのよ?」
「ですよね(笑)
でも、みんなと同じことやっても面白くないじゃないですか♪」
僕は、いつもの調子でヘラヘラと持論を述べた。
「は?みんなと同じだろうが同じじゃなかろうが、面白いもんではないでしょう!
お遍路って、修行なのよ!?」
「そうかもしれないけど…
修行を楽しみながらやっちゃ、ダメなんスかねぇ?」
「!?」
お遍路修行者にしてはあんまりにも突然変異なので、
おばさんは、えらく僕に興味を持ったらしかった。
そのまま、旦那さんも交えて5時間くらいも話し込み、
食事どころか、寝床の提供まで申し出てくれたんだ!
おばさんは、近所の友人に電話をかけた。
その友人が、更に良い寝床を提供してくれるかもしれないから。
話はすぐにまとまり、閉店後に近くの海岸で落ち合うことになった。
店が閉まると、おばさんは僕を、車で海岸まで送ってくれた。
海岸に待っていたのは、
1つの家族だった。
お姉ちゃんに、お姉ちゃんに、お兄ちゃんに、お姉ちゃんに、少年に、お父さんに、
…あれ?お母さんは??
と思ったら、
お姉ちゃんだと思った女性の一人が、その一家のお母さんだった(笑)
お母さんは、もう48歳だとのことなんだけど、
尋常じゃないくらい若く見えた!
若いだけじゃない。ものすごい美人だ!
声もかわいらしく、愛想も良い。
『名もなき町で』



