エピソード34 『名もなき町で』
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- 2023年3月15日
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エピソード34
…つまるところ、
大の大人が4人も同居してるわけなんだけど、
そのうち誰一人、まともな賃金労働をしていない(笑)
タカちゃんは流しのミュージシャンだから、時々どっかに呼ばれて歌いにいくけど、
1ヶ月に1回くらいなモンだ。報酬も1~2万円だろうし。
ニールは、
こないだまでゲストハウスで住み込み管理人をしていたらしいんだけど、
なぜか出てくることになったらしい。
そうして家に留まる僕たちは、
朝から晩まで、ヘンなことばっかりやっている。
まず、ニールが一番早く起きる。
そして、軒先のウッドデッキで、火をおこす。
ウッドデッキにはウッドテーブルがあり、
その真ん中にバーベキュー用の網が仕込まれているんだ。
ニールはその原始的な火でやかんのお湯を沸かし、お茶を淹れる。
みんなは、起きてくると順々に、その火でパンを焼く。
知ってる?
直火で焼いたトーストは、トースターで焼いたトーストよりも美味しいんだよ!
その火をキープするには、何が必要?
そうさ、木炭だ。
僕らは、その木炭すら手作りする。
薪木を大量に拾ってきて、それをツボの中で燃やすんだ。
梅干を貯蔵するような、フタ付きの陶器ツボでさ。
酸素の少ない状態で燃やすと、木は灰にならずに、炭になるらしい。
炭になった木片は、すばやく取り出してやらなきゃならない。
この木炭作りは、なかなかメンドクサイ。
一日5時間くらいは、交代交代で火の番をしてるよ。
火を横目で見守りながら、
庭の空き地で農業をする。
農業っていうほど畑地は広くないから、ガーデニングって感じかな。
春先にミユキさんの植えたミニチュアコーンは、もうずいぶん大きくなってる。
隣にも違うモノを植えてたけど、それは何だか忘れちゃったな。
…ミユキさんは別に、農業に詳しくはないよ?
上手くいかなくたっていいから、とにかくチャレンジしたいんだ。
何から何まで、自給自足できるようにチャレンジしたがる。
そんなことをあちこちで呟いてると、
いろんなスペシャリストがミユキさんに協力してくれるんだ。
みんな、「自給自足なんてミユキちゃん、アホちゃうか?」と呆れながら、
それでもミユキちゃんに甲斐甲斐しく協力してくれる。
たくさんのおっちゃんが集まってくる。
軒先の立派なウッドデッキも、
近所の土方のおっちゃんが、全面協力してくれたらしい。
屋根付き電源付きのとても立派なウッドデッキだけど、
材料費だけで、請け負ってくれたらしい。
美人の求心力ってのは、偉大だと思うよ。
結局この国っていうのは、
可愛い女の子にしか人は群がっていかないから、
可愛い子ちゃんたちが「自給自足!」とか言い出さないと、
そういう社会にはならないと思うよ。
可愛い子ちゃんたちが「シングル選抜総選挙!」とかに命賭けてるうちは、
握手券しか売れないと思うよ。
『名もなき町で』