エピソード37 『名もなき町で』
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- 2023年3月15日
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エピソード37
そうして、
伊座利のときよりもさらにバラエティ豊かな日々が、1ヶ月も続いた。
暦は9月になった。
なんでもチャレンジしたがるミユキさんは、
稲作もジブンでやっていた。しかも手作業で!
その田んぼも、ミユキファンクラブの誰かが無料で貸してくれたし、
稲作のレクチャーや手伝いも無料でしてくれたらしい。
ミユキさんってヒトはホント、
無料で何でも手に入れてしまう。
でも、それだけじゃない。
無料で何でもシェアしてしまう。
その稲穂が、この秋に実るのだ。
フツウ、この辺の田んぼは、9月にも入ればもう稲刈りを始めるらしい。
でもミユキさんはなかなか始めず、
15日も過ぎたころ、ようやくスタートを切った。
僕はもちろん、この稲刈りを手伝った。
おそらく、僕が一番刈っただろう。
「稲刈りで恩返しする」ってミユキさんに約束してたからね。
いや、それだけじゃないんだよ。
なにしろ僕も、「手作業での稲作」をやりたいと思ってたから!
…この旅ではホント、笑っちゃうくらいに、
僕の望んでたことが叶い続けた。
音楽三昧の毎日を送り、
ゲストハウスの管理人をやり、
喫茶店のマスターをやり、
そして、稲作の機会までやってきた。
そして、何だかんだいって僕は、
お金をほとんど介入させずに、半年くらい生きたんだよ。
夢のような日々は、永遠に続いたりはしなかった。
僕らは別に、まるきり同じ思想を抱いてたわけではなかったから。
僕やミユキさんは、「なるべくお金を稼がない生活を確立しよう」と考えたけど、
ニールは、そこまでのことは望んでいなかった。
ニールが最も、そういう暮らしを経験してきてるハズなんだけどね。
彼自身、貯蓄を作っておかないと不安だったんだろうと思う。
仮にミユキさん家を離れることになれば、生活にとても困窮するから。
そうした方向性の違いからか、
どうもニールは、僕を疎むようになってきた。
あからさまに怪訝に睨んできたり、小さな失敗を怒ったりしてきた。
そして、ニールが何を告げ口したのかわからないけど、
ミユキさんは僕に、「そろそろ旅立ってくれんかぁ」と言ってきた。
僕はビックリしたしショックも受けたけど、
でも、抵抗せず静かに、それを受け入れた。
その日の昼間、
「ひこうき」に寄ってママたちにあいさつをすると、
僕はその町を後にした。
『名もなき町で』