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エピソード3 『名もなき町で』

エピソード3

旅慣れた僕にとって、見知らぬヒトの家(店)にいくなんて、

造作ないことだった、

いや、方向オンチなモンだから、しょっちゅうアクシデントには遭うんだけどさ(笑)

かといって、

送迎なんか頼まずに自力で目的地に行くのは、僕にとってアタリマエのことなんだよ。


なのにジェシーは、「車を出そうか」と100ペンもお伺いを立ててくれた。

ジェシーってのは、ようこママの相棒さ。彼氏さ。

日本人の50過ぎたオッサンなんだけど、みんなからはジェシーって呼ばれてる。

ミュージシャンってのはそういうモンさ。そうでしょ?

彼は、ライブ喫茶のマスターであり、そして自分自身もミュージシャンなんだ。


…フツウに考えて、

「車出そうか?」って100ぺんも気遣ったりしないよ?

だって、自分の愛する彼女が、得体の知れない若いオトコを連れてくるんだよ?

そんなの怪しいし、嫉妬するし、だから邪険に扱うさ。フツウは。

フツウじゃないんだよジェシーは。

ようこママがフツウじゃないんだから、ジェシーもフツウじゃないんだ。

ジェシーは優しいんだよ。そして独占欲を超越した、シヴァ神みたいなヒトなのさ。



夜の9時ころだったかな。

僕は、なんとか自力で、ようこママのお店にたどりついた。

大分駅から1駅離れただけの場所なんだけど、けっこう田舎だよ。

駅は無人駅だし、駅ビルどころかコンビニも無いし。

そんな駅の近くに、ようこママの店はあった。

住宅街の並びの、こじんまりとしたお店だよ。

ライブハウスっていうよりは、スナックみたいな立地かな(笑)


重たい扉を開けると、耳慣れた爆音。

まぁ、爆音ってほどでもナイんだよ。

基本、アコースティックライブがメインの店だから。

それでも、アンプで増幅されたギターの音は、耳をつんざいてあまりある。



20席程度の小さな店は、それでも満席だった。

ステージでは、若い男の子がいっしょうけんめい歌ってた。

昔のジブンを眺めてるようなキブンになったよ。

まるで、5年前にタイムスリップでもしてきたみたいな。

(実際、ここでの生活は5年前の音楽活動をなぞりなおすような日々だった)


僕は、邪魔にならないように、コッソリとフロアを移動して、

カウンターの中にようこママを見つけた。

それが初対面だったんだけど、初対面という感慨は、ほとんど無かったよ。

ミクシィの中では、ずいぶん交流し合っていたから。

オーラソーマをキッカケにようこママと知り合って、

それからずいぶん、語り合っている。


いろいろと話すことはあったけど、

爆音の中ではまともな会話になりそうになかった。

ようこママは、「とりあえず、ライブでも観てな」と言って、

僕を一番後方のテーブルに座らせてくれた。

じきに、メガネの女の子がアイスカフェオレを運んできてくれた。

ようこママは、僕が酒飲めないの知ってるし、カフェオレ好きなのも知ってるんだ。



それから2人ばかしが美声を披露し、22時も迫る頃。

司会者であるらしき青年が、思いがけないアナウンスをした!

「えー、皆さん!

 今日は、東京から大切なゲストがお目見えしております!ようこママのご友人。

 なんと彼は、シンガーソングライターでもあるのです!

 というワケで、1曲歌ってもらいましょうー♪」

「はー?聞いてないよ??」

僕は当然、あっけにとられちゃったよ。

「えぇ、言ってませんから♪」

ミスチルの桜井さんに似た顔の彼は、

やはり桜井さんばりの満面の笑顔で、僕をステージ上に促した。

実際、誰にも相談せず打ち合わせもせず、

彼が一人で即興で決めたことらしい。

「わー!!」と、みんなが拍手で盛り立てる。


すると、背後から声が飛ぶ。音響席に座っているジェシーだ。

「おい、マイキー?

 飛び入り参加はかまわんけど、マイキーの歌う時間、なくなるぞ?

 22時以降はアンプの爆音はマズいからなぁ。」

彼の名は、マイキーというらしい。

「ハイ!オレのライブなんてどーでもイイから(笑)

 またいつでもできるっしょ♪」


『名もなき町で』

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