エピソード45
まさか「吸血鬼を退治しに来た!」とは言えない。するとどう自己紹介すればよいのだ?
れ「み、道に迷ってしまいまして・・・」とれいはとっさに言い訳をした。言い訳として苦しいと思ったが・・・
男「ははは、そうなんだよな。ブルガ城に向かうつもりが、登る山を間違えてしまう人が多いんだよ。
そうかそうか。大変だったね。
食事でもしていったらいい。粗末なもんだがいいかい?」
れ「え、えぇ」と答えてから、れいはデイジーの顔を窺った。
デイジーは「いいだろう」と頷いている。
結局、何の証拠もない状態で「お前は吸血鬼か!」と問いただすわけにはいかない。それでは逮捕も成敗もできない。相手が尻尾を出すのを待つ必要があるのだ。
つまり「おとり作戦」が必要であることを、ここまで来てかられいは気づいた。そんな危険な巧みなことが、自分に出来るのだろうか?ちょっと青ざめてくる。
ガ「オレはガストンというんだ。ここで一人で暮らしているんだよ。変わり者だろう?ちょっと病を患っていてねぇ」
れ「お体心配ですね」
ガストンは2階の自室に2人を通した。
ガ「なにぶん屋敷が広すぎてね。応接間などは掃除してないんだよ」
そしてしばらくの後、ワゴンを押して軽食を運んできた。
ガ「君たちは運がいいなぁ!30年ものの美味しいワインが少し残っていたぜ。
ブルガの貴族の親友が遊びに来たときに差し入れてくれたものなんだ。高級品だぞ。
チーズも年季の入った上等なやつだよ」
食事に手を付ける前に、デイジーは言った。
デ「たしかに、血の匂いがするな」
ガ「え?何言ってんだ。
申し訳ない。肉はもてなせないぞ」
デ「歓談に興味はない。
吸血鬼が悪さをしている、と噂を聞いてここに来た」
ガ「え?あぁ、ルマでそういう噂が広がっているらしいね!
オレはもちろん吸血鬼なんかじゃないよ。こんな擦り歯じゃ血なんて吸えるか。はっはっは」
デ「お前が吸血鬼だと指摘した覚えはないが?
他にも人が潜んでいるかもしれないじゃないか。または魔物が時々襲ってくるとか」
ガ「い、いや、魔物が襲ってくることなんてないんだ。
父が強い騎士だったもんでね。この丘には結界が張られてるよ。安心してくれ」
他に人が住んでいたりもしない」
デ「ふうん。
おまえ自身は吸血鬼を心配してもいないし、吸血鬼でもない、と?」
デイジーは、むしろ話が確信に至りすぎないように、キョロキョロと周りを見渡す演技をした。
ガ「まぁ、ほら、食べなよ」
ガストンは二人に食事休憩を勧めた。
デイジーは注がれたワイングラスに、何やら手をかざした。
そして小声でぶつぶつと何かを唱えている。そしてすっと口にした。
デ「うん。悪くないワインだ」
ガ「だろう?残り全部、2人で飲んでくれてもいいからね」
れいも興味をそそられ、ワインを手にとろうとした
デ「れいは飲むな!おまえはまだうら若き15歳だろう」
れ「え?私の村では15歳からお酒が飲めるのよ」
デ「だとしてもだ。この酒は強いから飲まないほうがいい。帰り道でぶっ倒れるぞ」
ガ「はっはっは。泊まっていってくれてもいいんだよ。ベッドは幾らでもあるさ」
デ「汚いシーツでは眠れそうにない」
ガ「大丈夫だよ。シーツはちゃんと洗濯しているさ」
デ「そうか。ならば酔い潰れても泊まっていけるな」
この女は何を考えているのだ?とガストンは戸惑った。
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