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エピソード4 『名もなき町で』

エピソード4

なんなんだコリャ?歓迎されてるのか?ハメられてるのか??

よくワカラナイけど、

即興には慣れてるし、人前にも慣れてるから、

僕は、ステージに上がってみることにした。

ギターはマイキーが貸してくれたし、

たいしたセッティングも必要なかった。チューニングの確認くらいだよ。

僕がひそひそとチューニングをしていると、

マイキーは、さらにマイクで話した。

「えー、皆さん。

 彼はタバコが苦手とのこと。

 恐れ入りますが、彼のパフォーマンス終了まで、

 喫煙はご遠慮ください!」

丁寧に、明るくさわやかに、そう言うんだ。


僕は、ビックリした!

これまで何百回もライブをしたけれど、

ノンスモーカーな僕のために会場を禁煙にしてくれた司会者なんて、

ただの1人も、お目にかかったことがないよ!!

「マイキーってヒトは、根っから優しいヒトなんだ」

僕はそう確信したさ。



僕は、軽く自己紹介をし、1曲だけ歌わせてもらうと、

すぐにギターをマイキーに譲ることにしたよ。

彼は、「オレなんか歌わなくてもいい」と謙遜していたけれど、

彼の歌を聴きたいお客は居るハズさ。

マイキーはためらいながらもギターを受け取り、

そして、いつもラストやアンコールで歌っている明るい曲を、

みんなと一緒に大合唱して締(し)めた。

どうも、彼はいつでも、みんなを喜ばすことばっかり考えているらしい。


僕は、ビックリした!

これまで何百回もライブをしたけれど、

こんなに利他的なミュージシャン、一人もお目にかかったことがないよ!



ライブが終了すると、2次会が始まった。

ようこママがおにぎりやら焼きそばやらを大量にこしらえていて、

ライブハウスはそのまま居酒屋のようになるんだ。

たったの1,000円で、その2次会に参加できる。

…っていうかそもそも、

ライブ自体に観覧料金が掛かってない!

この店はライブチャージを徴収しないスタイルなので、

出演ミュージシャンが「ノーチャージでOK」と決めたら、お客は観覧無料なんだ。

ドリンク代の500円だけで、ライブが2時間楽しめる。


「そんなんで倒産しないの!?」と尋ねてみると、

「ギリギリよ♪」とようこママは笑ってる。

ようこママはようこママで、

ジェシーや若いミュージシャンのために経営しているので、

ジブンの儲けなんてどうでもイイんだよ。

そしてそんな無欲経営を、常連客たちもよく理解してる。

だから常連客たちは、ホントにしょっちゅう店にかけつける。

ドリンクを何杯もオーダーし、ナポリタンもオーダーしていく。

それだけじゃないんだよ?

キッチンに改修の必要性が出てきたりすると、

工務店経営の常連客が、原価費だけで工事してあげちゃったりするんだ!


さっき僕にアイスコーヒーを運んできてくれたメガネの女の子も、

スタッフじゃなくて、ここの常連客さ。お客だよ。

客なのに、しょっちゅうママのお手伝いしてるんだよ。一銭ももらわずに、さ?

「お手伝いする代わりに、ジュース1杯オマケして!」

なんてことすら、言わないんだよ!

こういう女の子が、3人ほど居る。


それ以外にも、

店の中には、お客さんたちから寄贈されたモノが溢れかえってる。


『名もなき町で』

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