エピソード7 『名もなき町で』
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- 2023年3月15日
- 読了時間: 2分
更新日:2024年1月11日
エピソード7
そんなジェシーは、開店前の昼下がりは、
黙々とギターの練習をしてたりする。
くたびれたらタバコをふかし、そしてまたギターを抱きかかえる。
まるでギター少年だよ。56歳になったギター少年。
僕はジェシーから少し離れて、
やっぱりギターを抱えて、新しい曲を作ったりなんかしてる。
僕のギターなんて無いよ?ギターは持参してない。
店には、常連客たちの置きギターが5本くらいあるんだ。
彼らはホントにしょっちゅうこの店に来るから、練習用に置いているのさ。
そして誰もが、「オレのギターで良ければ、いつでも弾いてイイっすよ♪」って、
初対面の僕にも貸してくれる。初対面の僕にも、さ。
そして、15時にもなると、
「買い物でも行こうかぁ」と、ようこママから声が掛かる。
ママは、軽自動車の助手席に僕を乗せて、近所の業務用スーパーにくり出す。
ジェシーに聞かれたくないような話を、そのときにする。
ママはオーラソーマの資格所持者だし、レイキも学びたがってるけど、
ジェシーはそんなにスピリチュアルなことに興味がないからさ。
ママとジェシーの特殊な関係性についても、ジェシーの前では話しにくいようだし。
かといって、
ママとジェシーとの間に、秘密なんてのはほとんどありはしない。
店に戻ってみると、
お客さんが来てたりする。
開店の時間は18時だよ?でも今はまだ16時だ。「CLOSE」の札も掛けてある。
そんなことはお構いナシに、常連さんたちは店にやってくる。
そして、ジブンでキッチンに入っていって、
グラスにコーラやレモンティーをついで、ジブンでテーブルに運ぶ。
そして500円玉をカウンターに置いておく。セルフサービスにもほどがある(笑)
そしてソファに腰かけて、
ギターの練習したり試験勉強したりしてる。
誰かが隣でジャカジャカ唄ってるのに、
それでもココで試験勉強したりしてる。
(人間ってホントは、うるさくても勉強できるんだよ。知ってた?)
わざわざ500円払って、自分でコーラをついでまでして、
やかましいところで勉強する(笑)
それくらいみんな、この店が好きなんだ。
『名もなき町で』