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エピソード95 『天空の城』



エピソード95 『天空の城』

エピソード95


カラクリ部屋とやらに到着したようだ。大きな歯車が複雑に絡み合って、前衛芸術のように見事に鎮座している。

れ「歯車ってたしか、どれか1つでも部品を取ってしまったら全部バラバラになっちゃうんだわ」心臓がバクバクしてきた。れいは余計なものに触らないように、慎重に動いた。

そして歯車の動力装置の前に、たしかに丸い船舵のようなものがある。

れ「これを回すのね」

いいや違う!順序があるのだった。時計盤の大きな針を、合わせなければならないとシスターが言っていた。

れいはランプを掲げながら、扉を探した。おぉ、小さな扉がある。

扉を開けると・・・


ヒョォォォォォ!!!


まさかとは思ったがそのまさかだった!

120メートルもある時計塔の、その時計盤の真ん中に通じているのだ。少しの足場と申し訳程度の柵があり、ここに出て時計の針を動かさなければならないのだ!

上空は強い風が吹いている。深夜はなおさら強い風が吹く。

怖い!

1,000回も魔物との戦闘を繰り返したところで、上空に立つなどということは怖いままなのだ。眼下の暗い街は、まるで地獄都市のように見える。

しかしここまで来て引き返すわけにもいくまい。

れいは意を決して足場に出る。左手が壁に捕まっていれば、右手で針を触れるが・・・懐中時計をどうやって見ればいい!?命綱である左手を壁から離し、ポケットから懐中時計を探る。月明りを頼りに懐中時計の時間を見る。3時50分。れいは慎重に懸命に、大きな時計の針を合わせる。針は大きいし錆ついて、硬い。「ごめんなさい」時には足で蹴り押しながら、針を合わせる。足腰だけでなく腕力も強くないと、この仕事は出来そうにない。町の人たちはわかっているのだろうか?

手間取りながら戻って、舵を回すまでに2分は掛かるだろう。懐中時計よりも2分先に合わせる。

大きな仕事の1つが終わった!れいは慌ててカラクリ部屋に戻る!

れ「はぁ怖かった!!」

そして今度は、歯車を回すための舵に手をやる。ぐぐぐぐ。結構チカラが要るぞ。

れいは荷馬車を後ろから押すように、前傾姿勢になりながら舵をぐるぐると押し回した。100編回せと言っていたっけか。はぁ、これもまた目が回る。


れいが舵から手を離すと、そこでようやく歯車たちが回りはじめた。ぎぃぎぃガラガラと大きな音を立て、ミシミシと時計塔を震わせながら。

れいの計算は少し狂った!舵を回し始めればもう歯車も時計も動き始めるかと思って、針を2分だけ早く合わせておいたのだが、歯車はれいが舵を回し終えてから、動き始めた。100編回し終えるまでに、おそらく4分か5分は経っていた。つまりこの街の時計は、3分遅れてしまったことになる・・・。

れ「ご、ごめんなさい」れいは一人でつぶやき、苦笑いをした。



とりあえず託された仕事は終わったかな、と安堵した。休むでもなくぼーっとしていると、カラクリ部屋にはさらに上に続く階段があることに気づいた。

れ「何だろう?」

れいは階段を上ってみる。

なんとその上には、鐘楼が鎮座していた。この街の隅々まで届くほど大きな音を鳴らす、大きな鐘だ。

大きな鐘を見て驚いたが、その次の瞬間、白み始めたラベンダー色の空の下の、この大きな街並みの風景に、れいはとても感動した!

なんだこの壮麗な風景は!

統一された朱色の屋根の美しさは、上から見るとなおさら美しく思える。その朱色の屋根を、ラベンダー色の空が微妙な色合いに染める。街には誰もおらず静かで、まるでれいがこの街を独り占めしてしまったかのように錯覚する。


そう。21世紀の現代においては、どこの国にも鐘楼の上に登らせてくれる観光地はある。そうして人々は、手軽にこのような眺めを得ることが出来る。しかしれいの居たこの時代において、この風景を眺望することの出来る人間などごくわずかしかいなかったのだ。ましてやヘリコプターやビルや飛行機から、代替の景色を見ることすら出来ない。

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