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第24章 アネイルおんせん

第24章 アネイルおんせん


宿1「さぁさぁ寄ってらっしゃい!アネイル最高の温泉宿とはウチのことだよ!豪華なお食事も付いちゃうんだから!」

《旅の扉》によるワープが済んだか済まないか、いきなり耳に飛び込んできたのは威勢の良い呼び込みだった。

どうやらここはアネイルの町。そして温泉が名物であるらしい。

宿2「いやいや最高と言えばここの宿!なんと会席料理にはお酒も付くよ!」

宿3「おぉーっと黙っちゃおけねぇぜ!うちの会席料理は海外の珍しいお酒が付くんだからね!」


マ「うるさぁーい」二人は呆気にとられている。

リ「温泉ってイイじゃん♪って思ったけど、どの宿選べばいいか、さっぱりわからないわ…」

マ「全部行ってみる?わたしも温泉だーいすき♪」

リ「まぁ追い追い癒されるとして、まずは新しい町を周ってみようか」


二人は陽気なアネイルの町を、まずは偵察してみることにした。

「温泉は健康増進にもってこいってね!世界でも有名な温泉町なんだよ」

町民は温泉宿の主でなくても、我が町の温泉を誇りに思っているらしい。

宿の良し悪しは宿泊者のクチコミが一番参考になるんじゃない?そんなことを考え、冒険者にも声をかけてみた。

「いやぁ熱い温泉っていいよね!オレ好みだよ。でもさぁ、この町の温泉に長居しているヤツは、ぶくぶく太ってるのが多い気がするなぁ」

「温泉か?もちろん最高だよ!でもちょっとばかしお湯が熱い気がして、あんまりゆるゆる浸かってられないんだよなぁ。だから料理や酒ばかり進んじまう。まぁ美味いからいいんだけどさ!」

「酒も料理も美味くてね!こんなに太っちゃったよ!ハハハ!まぁいいんじゃないの?健康な証拠ってモンさ」

色んな意見が飛び交っている。みんな上機嫌でいるが、リオは妙に引っかかる。何かがおかしいような…。

リ「マナ」

マ「うん?」

リ「この町、なんかやっぱっちょっとおかしいよ。元気だけど、何かちょっと問題をはらんでる気がする。少し警戒していてね。そんで何かおかしいことがあったら、アタシに教えて」

マ「わかったぁ。

 それはそうと、アタシも何か新しい防具が欲しいなぁ」

リ「そうね!アンタずっと《布の服》のまんまだもんね!」


二人は武器屋を探した。なかなか立派な武器屋がこの町にもあった。

マ「えーっとぉ」二人が物色していると、冒険者っぽい男と居合わせた。

男「違うよ!《はがねのよろい》で、もっとサイズの大きいやつだってば!」

店「そんなのはありませんよ。1つのサイズを調整して使うんです」

男「わかってるよ!それで合わなくなったから大きいのを探してるっつってんだろ!」

リ「どうしたんですか?」リオは声を掛けてみる。

男「おうお嬢ちゃん。それがさ、ここの温泉宿でくつろいでたら、いつの間にか太っちゃってね!

 だって食事が美味しいんだもの!それでオレの鎧が体に入らなくなっちまったんだよ」

リ「あ、そ、そうですか(汗)」

店主と男は延々と押し問答を続けていた…

マ「んーと、わたしは…

 ねぇ、コレとかどう?」

マナは、《絹のローブ》を手にとった。襟、裾や手首などに黄土色のラインが入った、白地の軽やかなワンピースである。

リ「240ゴールドですって。安いからゼンゼン良いけど、もうちょっと守備力の高そうなやつのほうが良いんじゃないの?」

マ「うーん。でもこの町ちょっと暑いから、涼しげなほうが良いなぁ。それに可愛いのがいいんだもん。リオみたいに」

リ「そうね。色違いの双子コーデみたいにも見えるかな。まだアンタ、敵のダメージほとんど受けてないし、ルックス重視でもいっかぁ」

マナは《絹のローブ》を購入し、着替えさせてもらった。《かしの杖》にローブを着ると、少しは魔女っ子っぽくも見える。マナはご機嫌になった。

店「まいどあり~」

リ「そういえば、こないだの戦いで《やくそう》使い切っちゃったのよね。補充しておかないと。道具屋に行きましょ」


武器屋の通りの裏手に、道具屋もあった。

マ「おじさん、《やくそう》を5個くださー…」

リ「アタシの分も要るんだから10個でしょ!」

マ「あそうか」

すると今度は、浴衣姿の女性と居合わせた。

女「《毒消し草》はありませんか?食中毒にも効きそうなやつ」

店「食中毒?毒の種類によっては効くかもしれんが…」

リ「どうしたんですか?」リオはまたしても話しかける。

女「いえね、旅の仲間が温泉宿のごちそうを食べすぎて、お腹壊しちゃったのよ。もう一人は太りすぎてブーブー言ってるし。

 まったく、男ってアホみたいだわ」

リ「そういえばあなたは、温泉町になじんでいるふうですけどスリムですね」

女「えぇ。私と魔法使いの友達が泊ってる宿は、お食事は質素なの。

 私たち、露天風呂じゃなくて貸し切りの温泉が良くってね。町の奥にそういうお宿もあったのよ。食事は質素だけど貸し切りだから、そっちに泊まってるの」

リ「え?さっき仲間が太りすぎちゃったって?」

女「それは男の仲間たちのこと。男たちは表の騒がしい宿に泊まってて、女の私たちだけ、奥の貸し切り宿に泊まってるのよ。男女別行動」

マ「わたしも貸し切りのお風呂がいいなぁ。お酒興味ないし」

リ「そうね。

 ねぇ、その宿アタシたちにも紹介してくれない?」

女「いいわよ。ついてらっしゃい。

 私はアヤカ。あなたたちは?」

リ「アタシはリオ。こっちはマナ。よろしくね」

女に紹介してもらった宿は町の奥まったところにあった。観光町の喧噪から離れた、のどかな宿であった。


マ「ねぇ、さっそく温泉入ろうよぉ♪」

リ「そうね!初日から冒険に出る義務もないわ」

二人は部屋にしつらえられた温泉風呂で羽を伸ばすことにした。

マ「気持ちいぃー♪」

リ「いい湯ねぇ」

マ「でもなんか、ちょっと熱いかも…」

リ「アンタ、もう顔が真っ赤よ!」

せっかくの貸し切り湯だが、ものの5分で退散することになってしまった。二人は浴衣に着替え、部屋で涼んでいる。

リ「なるほど。お湯が熱すぎて長湯もしてられないわ。

 こりゃ物足りなくてごちそうに夢中にもなるってもんね」

マ「お湯の温度下げてもらえば?」


二人は店主に、温泉の湯が熱すぎることを訴えに行った。

宿「いやねぇ、数か月前からこんな感じなんだよ。

 一回水で温度調整もしてみたんだが、そしたら源泉はもっと熱くなっちゃってね!

 だから水を加えるのはヤメたさ。今でも入れない温度じゃないだろ?ガマンしてくれよ」

リ「どうなってんのよ?いったい」

マ「あれ?温泉ってどこから流れてくるの?」

宿「町の向こうに山が見えるだろう?あれ火山でね。

 あの山から熱い温泉が流れてきてるよ。この町の温泉は全部同じだ」

リ「山に何か異変が起きている。ってことだな」リオは腕を組む。

宿「あの山には、昔炭坑があったよ。昔は鉄鉱の町で、みんな働き者だったらしい。

 温泉業が儲かるとわかって、いつからか掘らなくなって、今ではずいぶん荒れてると聞くぜ。

 時々、冒険者だか盗賊だかが、錬金の素材なんかを求めて潜ったりするようだが」

リ「行く価値がありそうね」


二人は町の出口を目指した。

井戸のそばには立札がある。

リオは立札を読んだ。

「古の勇者ロトに学べ!」



『僧侶だけで魔王を倒すには?』

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