第31章 むらびと
ドン・モハメから借りた竹カゴいっぱいに《あまつゆ草》を摘み取って、それを老人に手渡した。
ド「おほほー、充分じゃ!これだけあれば立派な羽衣が作れそうじゃ♪」
リ「上質なやつ?そうなったらめちゃくちゃ嬉しいんですけど!」
ド「しかし…。
問題は織り機じゃなぁ…。《聖なる織機》は森に生えておったりはせん」
マ「どこで手に入れられるんですか?」
ド「うー--------む。
無理じゃよ」
マ・リ「えぇー!?」
リ「よほど難解な洞窟とかにあるんですか?」
ド「いいや、とても近くにある」
マ「ちかくに?」
ド「どれもこれもこの村の名産品、民芸品にすぎん。
《聖なる織機》を造れるのも、この村の者だけじゃろ。
しかし…」
リ「アタシたち冒険者は、嫌われている…」
ド「じゃな」
リ「村の人に気に入ってもらうには、どうしたらいいんだろ」
二人は、来たときよりもいくぶん静かに歩いた。
なんだかエルフの隠れ里を歩いているときの気分だ。妖精たちも、原住民族の人たちも、適した接し方は同じなのかもしれない。
リ「…そうね。彼らの穏やかな日常を壊してはいけない」
マ「うん?」
リ「彼らはお金を欲してもいないし、開拓を望んでもいない」
マ「うん」
リ「最初、《水の羽衣》や民芸品を売る手伝いをしてあげたら、とか思ったんだけどさ。それって逆効果だよね。ますます嫌われるだろうし」
マ「そっかぁ」
二人は苦悩した。何かをしてあげたいが、相手が何も欲していないなら、何をしてあげればよいのだ?
二人は静かに村を歩き回った。時々村の外に出て、村の周囲も歩き回った。モンスターが強いので、すぐに戻ってくる。また村を歩き回った。
緑の木々に包まれたこの空間は、のどかで癒されるなぁ。そう感じたりもするが、何もなくて不安だと感じたり、さみしいと感じたりもする。二人それぞれに、ぼーっと色々なことを考えていた。
そのとき、遠くから悲鳴が聞こえた。
「うわぁ!」
マ「なんだろ!」
リ「行ってみましょ!」
声のほうへ駆けつけると、そこには肩から血を流してひざまづく男性の姿があった。
リ「どうしたんですか!」
男「いいから!かまわんでくれ」
リ「でも!どうしたんですか!?」
男「木の実を採っていたら、ヒヒに襲われた」
リ「任せてください!《ホイミ》!!」
男の肩の傷はみるみるうちに回復した!
男「おぉ!」男は驚いている。
男の声を聞きつけて、貼り薬を持って駆けつけようとした彼の妻らしき女性も、驚いている。
男「そんなに一瞬で治るのか?魔法とやらは」
リ「えぇ、まぁ」
男「君は、高名な呪術師か何かなのか?
大変すまないが、私たちにはシャーマンに払う謝礼金が…」
リ「いいえ!謝礼など必要ありません!
アタシは高名でも呪術師でもなくて、冒険者のしがない僧侶です。
この程度なら体力の消耗もほとんどないんです」
男「本当にいいのか?呪術は普通、高額な謝礼を要求してくるものだぞ?」
リ「よくわからないけど、アタシはシャーマンじゃありませんから」
男「本当に申し訳ない。何も恩返しできるものがなくて…」
妻「旅のお方!せめてお食事だけでも食べてはいかれませんか?
お腹がおすきなのではございませんか?」
リ「あぁ、それはうれしいわ♪」
マ「わぁーい」
村の小さな家に、二人は通された。
木だけで出来た、竪穴式住居のようなシンプルな家だ。ランプもなければタンスもベッドもない。
家の真ん中には囲炉裏があり、それで妻は温かい野菜スープをこしらえてもてなした。何かの玉子も入っている。
リ「ありがとうございます!
でもホント、アタシの《ホイミ》なんて1ゴールドの価値もナイんですから!
夜は宿屋で、お金払って食べますからね。
そうそう、宿屋はどこにありますか?」
男「宿屋?この村にはないさ。
食事を食べる店もない」
マ「えぇ、そんなぁ」
妻は囲炉裏に棒を刺して、魚を焼こうとしていた。その時、
妻「熱っ!」動作を誤ってヤケドをしてしまったようだ。
マ「あ、見せてください!《ホイミ》!」
マナは寄り添って妻の手を優しく包むと、大事そうに《ホイミ》をかけた。
男「よし、夕飯も食べていってくれ。
それどころか、泊っていったらいい。何もない粗末な家だが」
リ「いいんですか?お金は払います!100ゴールドでいいですか?」
男「ははは。お金は要らないよ。その代わり何ももてなしてやれないが」
リ「でも!」
男「僕たちの村は、お金を使わずに暮らしている。だからお金を貰っても意味がないんだ」
マ「お金を使わずに?」
男「そうさ。食べ物は畑を耕す。家は森の木で建てる。玉子は家畜に貰う」
マ「《やくそう》は?」
男「そこらに生えている。腐るほどあるさ。
君たちの《ホイミ》ほど強力ではないがね。ははは」
り「役に立てることが、1つはあったみたい」
男「え?」
リ「あのう、村には他に、ケガで困っている人はいませんか?
《ホイミ》で、すぐに治してさしあげます。
あ、あのう、その代わり…
アタシたちに《聖なる織機》を造ってくれる職人さんを、紹介してくれませんか?」
男「ははは。それなら問題ないよ。僕が作ってあげよう。
良かった!役に立てることが1つはあったようだ♪」
マ・リ「ありがとう!!」
夫婦の家は本当に質素であった。ベッドはない。布団もない。
藁のような薄っぺらい敷物を敷いて、そこに眠るだけだ。枕もない。二人には慣れない環境だった。荷物を枕代わりに頭に敷いて眠った。
夜には冷えた。
家畜用の藁を借りてきて、布団代わりに掛けて眠った。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』