第33章 みずのせいれい
心を開いたライドン夫妻は、マナやリオを頼ってくれるようになった。
「何か手伝えることはないか?」と請うと、木の実集めの手伝いや、森の奥への用事における護衛など、二人に頼むのだった。二人が村全体への親愛を持っていることが村人たちにも伝わってくると、村人たちも二人と交流をするようになってきた。
ケガの治療を頼んだり、お遣いを楽しんだりし、そしてお礼に食事でもてなしたりするのであった。
村の子供たちもまた、二人と遊ぶことをとても喜んだ。
《聖なる織機》が完成し、いよいよ《水の羽衣》の完成を待つ段になった。
「3日ほど待ってくれ」とドン・モハメは言ったが、なぜか4日経っても完成の便りは届かない。彼が高齢で、体が弱っていることを理解している二人は、特に催促もしなかった。
待ち時間は長かったが、村人たちのあれこれがそれを上手く潰してくれるのだった。
ある日、子供たちは二人を、村の背後へと手を引いた。
そこには小さな沢があり、沢の前には古い古い石碑のようなものが建っていた。
彫刻のしつらえられた石碑に見えるが、苔むし、ツタや草が激しく絡まり、劣化も進んでいるため、何の石碑であるかはわからない。それにしても神聖な何かであることは察せられた。
リ「うわー!立派な石碑ね!朽ち果て具合も立派で味があるわ」
マ「なんだろうねぇこれ。お墓かなぁ?」
「お墓ではない」と子供たちは言う。何であるかは知らないらしい。
しかし、子供の一人が、石碑の真ん中あたりのツタをガサガサと剥ぎ始めた。
リ「え、大丈夫なの?」とリオが心配していると…
なんと、ツタの下から拳大くらいの青い宝石が姿を現した!
「キレイでしょ」と子供たちは自慢気に笑う。
「キレイねぇ」とマナが思わずその宝石に手をかざした瞬間…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
地響きと共に、石碑が動きはじめた!
それは扉状のものであったようで、なんと、今この瞬間に扉が静かに開きはじめた!!
地下に降りる階段がある。
リ「なに…コレ…!?」
マ「入れってコトだよね??」
二人と子供たちは皆で手をつなぎ、おしくらまんじゅうのように塊りながら、恐る恐る階段を降りていった。
下には、教室くらいの空間が広がっていた。
正面には石碑があり、見たこともない文字で文章が刻まれている。二人が近寄ると、石碑の前の空間がまばゆく光りはじめた!
ブー----……ン
水色の長い髪を持つ、美しい女神が姿を現した…!!
女「あぁ…!!きっとあなたは、強さと優しさを兼ね備える者。
あなた方にこの武器を差し上げましょう」
マ・リ「………!!」あんぐり。二人は呆気にとられている。
ス「私は水の精霊スウィフト。いいえ、そんなことはどうでもよいのです。
太古の昔、ここは氷河の陸地でした。
そこには氷のように冷たく輝くトドマンがいました。
その怪物の 鋭い牙を使って作った幻の武器がこれです。
《氷のやいば》。短剣として扱うことができ、力のない者でも振るうことができるしょう。
そして、戦闘中に道具として使えば《ヒャダルコ》の呪文と同じような効果があります。
あぁ、誰かにこの武器を授けようと思って私はここで待っていましたが、数万年も掛かってしまったなんて。
リ「……………なに…コレ…!?」リオはまだ言葉が出ない。
いかにもRPGによくある光景なのだが、自分の目の前でこのようなファンタジーじみた、そして荘厳な出来事が起きていることが、信じられないのだ…!!
マナも同じであった。言葉が出ない。しかしリオ以上に魔法や女神、ファンタジーへの憧れが強いマナの心は、もはや興奮と恍惚で爆発しかかっていた…!!恍惚による心拍数の上昇で、もはや死んでしまいそうである。
ス「たしかにお渡ししましたよ。
それでは、ごきげんよう」
水の精霊は優しくニッコリ微笑むと、姿を消してしまった。
一行が祠から出ると、石の扉は閉じてしまった。そして、また宝石に手をかざしても、沈黙を貫き続けるのであった。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』