第46章 でんせつ
村に入ってみると、周囲の荒涼とした大地とは少々赴きが異なっていた。
石畳で道は整備され、西洋的な美意識でもって家は建てられている。素朴ながらも、どこか上品で静謐な感じのある村だった。
村「おや?旅人とは珍しい。
ここはニャックポアン。私たちは伝説を語り継ぐ民です」
リ「伝説!?」リオはテンションが上がった。
村「そうです。色々な人に話を聞いてごらんなさい」
マ「鳥さんは?」
村「鳥?あぁ、神鳥のことか。静かに眠っているだろう。
神鳥のことも、詳しい者に聞いたらいい」
リ「ホントにいるのね!」
村をざっと眺めると、あちこちの軒下やベンチで、村人たちは語り合っているようだった。
二人はそろりと歩き始めた。あまり大きな音を立ててはいけない気がした。村人たちはとても静かに語り合っている。子供たちもキーキー言わないようだった。
入口のそばには宿屋があった。
宿「ほほほ。形ばかりの宿屋です。
この地域は、この星で一番最初の人間が降り立った地と言われています。
だから私たちは、創世期や伝説を語り継がなければと使命感を持って、世代を継承してきました。」
リ「つまり、神様の子孫?」
宿「私たちはそうは考えていません。あくまで『最初の人間』の末裔です。
文明を造るのにも、村を造るのにも、神なるチカラなんて要りませんから。始祖の人々も人間であったでしょう。」
リ「へぇ、クールなのね。
また泊まりに来ます」
宿屋の主人はにこやかに手を振った。
道具屋の軒下では、お爺さんが座って日向ぼっこしている。
爺「旅の方よ。知っておきなさい。
世界を闇に包もうとする魔王は、昔はビジネスマンだった。
ビジネスで世界を牛耳ろうとしていた。」
リ「え!その噂本当だったんですか!?」アークボルトの酔っ払いがそのようなことを言っていた気がする。
爺「あぁ。昔はというか、今もビジネスなんぞやっとるのかもしれん」
すると道具屋のお婆さんが口を挟む。
道「いえ、アタシじゃありませんよ!」
木のベンチに座って噴水を眺める老婆がいる。
婆「まぁお座りなさんな。老人の話は長いもの。おほほ」
二人はベンチに腰掛けた。
婆「光と闇が世界を分かつ。そんな話を聞いたことがありますか?」
リ「えぇ、なんとなく」
婆「光とは、誠実であろうとする心です。ヒーリングのことではありません。
俗世に真実を語る者はおらんのです。なぜなら、真実を語れば迫害されてしまうから。
今の文明の礎を造ったのは、古の勇者ロトという人物です。
彼は、世界を救って城へ帰還すると、当時の王から王位継承を認められました。
しかし、彼はそれを断ったのです。
ロトは王にはならず、そして城から旅立っていきました。一人のお共も連れず。彼を苛烈な攻撃から守った防具や武器も脱ぎ捨てて。
ロトが至高の勇者として永劫語り継がれているのは、彼が強かったからではありません。彼が、あまりに無欲だったからです」
リ「へぇ…!」
噴水のそばには東屋があり、日をよけながら老人が語り合っている。
爺「神鳥の助けを求めてやってきたか?」
リ「いえ、そういうわけでもないのですが…でも大きな鳥という話には興味があります」
爺「そうじゃろう。
神鳥は昔、勇者たちの手伝いをした。彼らをその大きな翼に乗せ、大空を飛び回った」
マ「いいなぁ♪わたしも鳥さんに乗って飛びたい!!」
爺「ふぉっふぉっふぉ、残念ながら、無理じゃろな。
神鳥は馬車ではない。誰彼問わずその背を貸したりはせん。
限界を超えて旅立とうとする者の、背中を押すだけじゃ。
実際、ここ数十年はずっと、物言わず眠ったままじゃ」
リ「数十年って!何歳なの鳥さんは!?」
爺「知らん。数百か、はたまた数千か。
昔からニャックポアンは神鳥の世話をしてきたと聞くが、神鳥に世代交代があったかどうかは定かでない。
とにかく、乗りたいから乗れるというものではない」
リ「でも、私たちも冒険者です」
爺「しかし、今さら神鳥の背に乗ってどこへ行く?どこへでも行けるじゃろう」
マ「魔王のところに連れていってもらえないかな?」
爺「では魔王とやらはどこにおるのじゃろうか?
地底深くに身を隠してるやもしれんが」
マ「そっかぁ」
爺「まぁ会ってみたらよい。町の奥におるよ。
おぬしら、良い目をしとる。ほっほっほ。
優しいのじゃろう。優しきは、強きよりも良いことじゃ。ほっほっほ」
向かいに座っていた老婆は、糸つむぎしていた手を止め、そわそわとこちらを見る。
婆「わしも、わしもしゃべって良いんじゃろか?」
リ「あ、お願いします(汗)」
婆「うぉほん。
真実や技術、悟りの中には、口伝によってのみ伝えられてきたものがある。つまり、どれだけ多くの書物を読もうとも、知れない物事があるのだ。最も重要な事柄が」
なんとなくわかる気がする。リオは思った。
村の中には水路が流れている。美しく整えられた水路だ。
チロチロと音が流れ、この村の沈黙を埋めたり美を奏でたりしているようだった。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』