第5章 クエスト
ある家の前に通りかかると、中から子供が激しく咳こむ音が聞こえてきた。
マナは足を止め、そして中を覗きこんだ。
母「あぁ、旅の人!どうかこの子のために薬草を分け与えてはいただけないでしょうか?
町はずれのハーブ園で摘むことが出来るはずです」
『クエストが発生しました。挑戦しますか?』コマンドウインドウが現れた。
マ「そっかぁ。こうやって進めるやつもあるんだよね。
《やくそう》摘むだけだったらわたしにもできそう♪」
マナは得意気にクエストを快諾し、町はずれのハーブ園に向かった。
ハーブ園にはたくさんの花が咲き誇って、良い香りを放っている。働き者そうな庭師が、警戒のまなざしでマナを見て言った。
庭「《やくそう》が欲しいのか?それなら道具屋に行って自分のカネで買えよ。冒険者だろ?」
マ「えぇ?でも、女の子が病気で苦しんでるんです。それを助けてあげたいんです」
庭「そうだったのか!それなら持っていっていいよ。
怒って悪かったな。優しい君にも1つあげる。使えばHPが30回復するぞ」
マナは《やくそう》を2つ、手に入れた!
マ「へぇ、わたしのぶんまで貰えるなんて、ラッキー!」
マナは上機嫌で、先ほどの母娘のもとへと戻った。《やくそう》を手渡すと子供の病気は回復し、クエストはクリアとなった。
マ「戦うより人助けしてるほうが気持ちいいし、役に立つアイテムまで貰えて一石二鳥じゃん♪今日はこうやって時間潰すことにしよ~っと」
マナはキョロキョロしながら町を歩いた。しばらくすると、庭先で困り顔でウロウロするおばさんを見つける。
マ「どうしたのですか?」
女「それがね、大事な指輪を落としちゃったんだよ!
結婚のときにダンナから貰った大事な指輪なんだ!
足は臭いけど勇敢な戦士で、イイ男なんだから!」
マ「アハハハハハ(汗)そうですかぁ」
『クエストが発生しました。挑戦しますか?』コマンドウインドウが現れた。マナはまた快諾する。
女「さっき教会にお祈りに行ったんだけど、そのときに落としたのかしらねぇ」
マナは教会を探した。知らない冒険者に教会の場所を尋ね教わり、そして代わりに、路地裏の病気の母娘のクエストのことを教えてあげた。
男「キミ、気前がいいんだなぁ。店や教会の場所を教えるならまだしも、クエストの在り処を教えるなんて人が善すぎるんじゃないか?僕も一人で冒険しててさ、《やくそう》を買うカネすら倹約したいところだったんだよ♪」
マ「そうですか、お役に立てて何よりです♪」情報交換をするのもまた楽しい。マナは思った。
彼の言う場所に教会はあった。教会の前の花壇に、キラリと光るものを見つけた。駆け寄ってみると、大きな宝石のついた指輪だった。
マ「きっとコレね♪」マナはその指輪を拾い上げると、おばさんの家へと戻った。
マ「おばさんの言うとおり、教会のそばに落ちてたよ」
女「うーん?こんな指輪知らないねぇ。
大ーーきな宝石がついた、ずいぶん下品な指輪だこと。こんなの結婚指輪にする人の気が知れないね!」
マ「おばさんの指輪じゃないんですかぁ。ガッカリ」
女「ご苦労だったけど、それじゃないね。
そんな下品な指輪、きっとどっかの行商が売りつけるガラクタさ。あんたが持ってったらいいよ」
マナは《下品な指輪》を手に入れた!
マ「ほぇ~、ヘンなの手に入れちゃったよぉ~」
人のために足労しても、ときには妙なものを手に入れてしまうこともあるようだ。
マナはすぐに気を取り直して、また町を歩いた。今はこれしかすることがないのだ。
またしばらくすると、どこからか話しかけられる。お爺さんらしき声がする。
爺「おぉ旅の方。ちょうどよいところに来なすった!」
マ「うん?」マナは周りを見渡すが、誰もいない。
爺「こっちじゃよ!上じゃ!」
マナが上を向くと、民家の2階のバルコニーから、お爺さんが手招きしていた。
爺「ちょっとここまで上がってきてくれんかの!」
マナはお爺さんの言うとおり、2階まで上っていった。
マ「どうしたの?お爺さん」
爺「それがのう。洗濯ものを落としてしまったんじゃよ!
ワシの大事なパンツをな」
マ「ぱんつ!?」
爺「足腰が悪いもんでのぅ。道に降りるだけでも一苦労じゃ。
その間に誰かが持っていってしまうかもしれん!ワシの大事なパンツを!」
マ「いや、それはナイと思うけど(汗)」
『クエストが発生しました。挑戦しますか?』
コマンドウインドウが現れた。
マ「だよねぇ(汗)」
マナは下に降りて、水色と白のしましまのパンツを見つけて摘まみ上げた。
すぐに老人に持ち帰るが、彼は言う。
爺「うーむ。砂で汚れてしまったな!それじゃもう履けんわい。
おぬしにくれてやろう。なーに、遠慮することはないぞ!わっはっは」
マナは《ステテコパンツ》を手に入れた!
マ「えー!?これって指輪以上にガラクタじゃぁん(泣)
お爺さん、要らないよぉこんなの」
爺「なぬ?おぬし、洗濯ができないのか?ママに甘えすぎて育ったのじゃな!?」
マ「そんなことないよぉ!洗濯くらい出来るもん」
爺「それなら持っていくがよかろう。宿屋に戻ったら洗濯するんじゃ。そしたら新品同様!わっはっは」
マ「なんだかよくワカンナイなぁ(汗)」
人助けをしてもロクな見返りもないことがあることを、マナは学習した。
しかし、見たことのない魔物と戦うよりは、安全な町の中で人助けをしているほうがマシだと、マナは思った。マナはまた歩き出した。すると、さっきの日当たりの悪い路地に通りかかったとき、再び家の中から子供が咳きこむのが聞こえてきた。さっき助けたはずの少女は、またベッドの上で悲痛な面持ちをしているのであった。
マ「そういえば、繰りかえしできるクエストってあるのよね」
このクエストの報酬は、たかだか8ゴールドの《やくそう》である。しかし他にやることも思いつかないマナは、そのクエストを延々と繰り返して土曜の午後を過ごした。人助けは嫌いではないのだ。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』