第54章 ゆうしゃ
二人は、アネイル温泉町の階層まで戻った。
この辺りならば、装備が貧弱でもモンスターを倒せる。
トレジャーハントのイベントはこの階層にも反映されており、フィールドのあちこちや町の中に、時おり宝箱が落ちていた。《エルフの飲み薬》などのレアアイテムが獲得できる。《エルフの飲み薬》は、MPが全回復できる貴重な品だ。
そこそこの武器や防具が落ちていることもあり、中には役立つものもあった。
《どくがの粉》を入手しておきたいが、それは一向にトレジャーハントの収穫にはなかった。
そこで二人は、炭坑にあるドワーフの横穴に行ってみることにした。ドワーフの元へ行くと、以前と同じように《どくがの粉》を売ってもらうことは出来た。
一安心、と思って引き返そうとすると、思いがけないことが起きた!
同じように階層を下って来た者がいたのだろう。
二人の装備品を狙ってプレイヤーキルを企てる者の、襲撃に遭ってしまった!
戦士と武闘家の二人組。強そうだ!
武闘家が先制攻撃を仕掛けてきた。二人は《回し蹴り》を喰らう!
ひるんでいるところに戦士が殴りかかってくる!
勝てそうにない!戦いたくもない!どうする!?リオは咄嗟に所持アイテム欄を眺めた!
リ「これだ!」
リオは《うまのふん》を使った!
敵「うげっ!!汚ねぇ!!」
武闘家も戦士もひるんでしまった!
リ「マナ!今のうちに逃げるよ!!」
二人は炭坑から大きく南に回り込み、どうにか姿をくらました。
リ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、危なかった…!」
マ「はぁ、はぁ、怖かったぁ! 今何をやったの?」
リ「うふふ!これを使ってみたの。《うまのふん》。
こう見えて、ドラクエの定番アイテムなのよ。ジョークアイテム。
モンスターに使っても『何も起こらなかった!』ってなるんだけど、感情を持ってるプレイヤー相手に使ったら、ひょっとしたら意味あるんじゃないかと思って!思った通り動揺してたわ」
マ「すごー!
でもリオ、あと1週間わたしに触らないでね!」
リ「もう!命の恩人に何てこと言うのよ!」
マ「だってぇ~(泣)」
そんなふうにして、二人はどうにか3日間をやり過ごした。
他のプレイヤーたちがどれくらいバトルロワイヤルに精を出したのか、強プレイヤーがどれほど武器を手中に収めたのか、リオたちには知る由もなかった。そんなことは考えもしなかった。考えるだけで不快なのだ。
イベントが終わると、不思議なことが起こった。
どこからともなく不思議な声が聞こえる。
ル「この声が聞こえますか?
私は精霊ルビス。冒険者たちを見守りし者。
共に魔王討伐を目指すライバルを殺し、武器を奪って出し抜く。それは勇者でしょうか?
仮にその勝者が魔王を討伐したとして、その者は英雄と言えるのでしょうか?
大衆はその者に付き従って生きて良いのでしょうか?
勝つこと以上に大切なことは、世の中には存在しないのでしょうか?
強いこと以上に大切なことは、世の中に存在しないのでしょうか?」
リ「イベントでプレイヤーキルを煽っておいて、プレイヤーキルを説教するとは…。
あたしたちに言ってるんじゃなくてすべてのプレイヤーに話しかけているんでしょうけど、最初から最後まで頭の痛くなるイベントだったわ…(汗)」
『僧侶だけで魔王を倒すには?』