CHAPTER 1
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- 2023年3月1日
- 読了時間: 5分
更新日:2024年5月3日
転生したらローレシアのメイドさんだった件
上巻 ―みなしごたち―
この物語は、ドラゴンクエスト2をベースとして創作されたライトノベルです。
ストーリーや登場人物は公式設定ではなく、作者のアレンジが加わっています。あらかじめご了承ください。
文体は読みやすさを心がけて執筆しており、ライトノベルなどお好きなら中学生程度でも充分にお楽しみいただけると思います^^

精悍な顔立ちをした15歳の青年は、凛々しく王の前でひざまづくと、ためらいもなく言った。
ロ「それでは王よ。これから魔王退治に行ってまいります」
王「目的が達成されるまでは二度と城に戻ってくるな。
皆の者、聞いたな?簡単に呼び戻してはならん。
王とは、息子に最も厳しくしなくてはならん。そうでないと示しが付かん」
CHAPTER 1
王「王とは、息子に最も厳しくしなくてはならん。そうでないと示しが付かん」
ロ「その通りです王よ。
…そうです。よく考えたのですが、やはりこの立派な剣と鎧は返上いたします」
王「なに?」
ロ「番兵と同じ《どうのつるぎ》と、そして稽古用の《皮のよろい》をください」
兵「王子様!そんなみすぼらしいことを!」近衛兵たちは慌てふためいた。
ロ「いえ、僕は王子という身分を伏せて旅しなければならない。
ピカピカ光った剣など振り回していたら、すぐに注目を浴びてしまうよ。
だから番兵よりみすぼらしいくらいでちょうどいい。
それにこの辺の魔物なら、立派な剣などなくても倒せるさ。僕は怪力の持ち主だもの」
ローレシアの王子が《どうのつるぎ》と《皮のよろい》と50ゴールドばかしの所持金で旅に出たのは、そんな理由だった。
近衛兵たちは誰も、王子に声をかけなかった。
「行ってらっしゃい?」違う。「どうかご無事で?」違う。この孤独な王子に何と声を掛ければよいのか、誰もわからなかったのだ。
王子は振り返ることもためらうそぶりもなく、王の間から下階への階段を降りていった。
階段の下の2人の兵士もまた、王子に何も言葉をかけなかった。
心の中で最敬礼を示すように、目をぎゅっとつむってうつむき、足音が消えるのを待つのであった。
ローレシアの王子は部下からのはなむけの言葉など微塵も期待してはいなかった。強い青年だった。強く育てられたのだ。
階段下の兵士の一人は、王子の足音が消える前に押しつぶった目を開いた。涙をいっぱいに浮かべて震えている。そして隣の兵士に泣きささやいた。
兵1「おい!本当に王子に何も言わず、何も贈らずに見送っていいのか!?」彼はローレシアの王子を敬愛していた。
兵2「仕方ないだろ!王様のお達しだ。『二度と城に戻ってくるな』『二度と城に呼び戻してはならん』だ。後ろ髪引かれるようなことができるか!」
その様子を見ていた一人の少女がいた。
ローレシア王宮の侍女の一人、ミユキだ。
ミ「『二度と城に戻ってくるな』ですって!?ローレ様が王様に見捨てられてしまったわ!!
わたしが助けてさしあげなくては!!」
ミユキは押していたカートの洗濯物の山から、紺色のマントを引っ張り上げて適当に身をくるめた。
ローレシアの王子は静かな足取りで城を抜け、そしらぬ顔で小さな城下町を抜け、城門をくぐり抜けた。
しばし歩いて足を止める。
振り返って、自分が育ったその大きな荘厳な城を見上げた。
いつか戻ってくるのだろうか?そうであっても、そうでなくてもいい。王子は一つ大きく息をして、何も考えないように努めた。
「もう振り返らない。二度とだ。二度と振り返らない」
惜別は済んだ。王子は思った。
しかし、だ。
ミ「ローレ様ぁー!ローレ様ぁー!!」
叫んでいるのかささやいているのかよくわからない少女の声が、彼を呼んでいる。
王子は驚き、思わず振り返った。
マントを被った少女らしき人物が、王子にぶち当たるかのように掛けよってきた。
ミユキは勢いあまってぶち当たった…かのようなふりをして一瞬だけ王子を抱きしめ、すぐに身をただした。顔を覆っていたマントを脱ぐ。
ミ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!
侍女のミユキです。
わたくし、ローレ王子にお共いたします!」
王子はすぐに、その人物が自分になじみある侍女であるとわかった。とはいえ、
ロ「ははは、その必要はないんだよ。
ちょっとお遣いに出るだけさ。その…、狩りをしてくるんだよ。
危ないから、帰りなさい」
ミ「いいえ、嘘はいけません!
『二度と城に戻らぬ旅になる』と、そう言う声をわたくしは聞きました!」
ロ「…!!
知ってしまったのか。
でも。だったらなおさらだよ。帰りなさい。か弱い君にお共なんてできないんだ。
これは、戻らない旅なんだよ。
魔王を、退治しに行くんだ」
ミ「ま、魔王…!?
い、いえ!どこへでも、お共する覚悟です!!」
ロ「無理だよ!買い物に行くんじゃないんだから。君には無理さ」
ミ「無理ではありません!
ローレ様が出来ることなら、わたくしにも出来ます!
わたくしはローレ様と同じなんです!
ローレ様はわたくしと同じなんです!」
ロ「…?なにを言っているんだ?」
ミ「…は!失礼を申し上げました!どうかお許しください。
わたくしに魔王を倒す力はありません。
でも、帰らぬ旅でもいいんです」
ロ「………。
わかったよ。好きにしてくれ」
王子は、押し問答は不毛だと思ってやめた。どうせすぐに音を上げるだろう。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』