CHAPTER 15
一行は町の食堂へと場所を移した。
まだまだ自己紹介のやりとりが必要であると思われた。
陽の差す窓際のテーブルに腰かけ、シチューが来るのを待つ。
サ「それにしても、困ったもんだな。
こんな美人が2人もいると、旅ってのは戸惑うもんだよ」
ム「それは心配ありません。
私、男性に興味がないのです」
サ「え??」
ム「……。
まだまだ色々話すことがありそうです」
サ「いいよ。みんなそうしてきたからさ」
ム「私を、偉大な魔法使いだなんてもう呼ばないでくれますか?」
サ「なんだよ!話が支離滅裂だなぁ!」
ム「いいえ、繋がってはいるの。
えぇと。
物心ついた私は、魔法使いになりたいわけではなかったわ。
剣を振るって兵士として戦いたかった。
でも、お父様も従者もみんなそれを拒むの。
『お前は女だから、剣でなく魔法を磨きなさい』と。
心で抵抗しつつも、それに従いながら生きてきた。
男の子たちと泥んこになって遊びたい気持ちがあっても、自分が女で、姫であることはわきまえていた。だから美しく身を飾って、気品とマナーを身に付けたわ。
女を装うことはもう慣れたけれど、心は女だと思っていないの。
だから、男性に恋心を抱くこともないわ。旅の苦楽を共にしようとも」
サ「ふうん、そうか。ムーンのお姫さんも変わってるんだな。
おっと!変わってるって言ったら失礼かな。詫びるよ」
ム「いいえ、変わり者と言われても気にはしないの。それは事実だとわきまえてる」
サ「そうか。なんていうか、言葉のあやみたいなもんなんだよ。
みんな変わってるからさこのパーティーは!」
ム「でも私、ローレシアの王子には特別な感情を抱くかもしれません」
ロ・ミ「え!?」
ム「私を前にして、『美しい人ですね』と言わなかったのは、ローレ、あなただけです」
ロ「あぁ、ごめんなさい。
僕は女性を褒めるのが下手だと、こないだミユキに咎められたばかりなんだ」
ム「いいえ?怒ってるんじゃないの。感心したのよ。
あなたは私を、女性として見なかったから」
ロ「なんていうか…
女性として見なかったというわけでもないんだろうけど、そういう場合じゃないと思っているんだ。
なんていうか…」
ム「いいんです。あなたの考え、わかるつもりです。
恋なんて二の次なのよ、人生っていうのは」
なんだか話が小難しくなってきた。
サ「えっと、それでさ、ムーンは何が得意なんだい?
それ、最初に聞いておくべきだって結論なんだよ」
ム「剣に憧れますが、実態は典型的な魔法使いです。
《バギ》と《ベホイミ》と《マホトーン》、《キアリー》、《ルカニ》を操ります」
ロ「あらためてよろしく。僕はローレシアの王子だ。
剣しか扱えない。君の魔法にはきっといっぱいお世話になるよ」
サ「僕はサマルトリアのせがれだ。
器用貧乏…じゃなくて万能だってウワサだよ。剣と魔法を両方操る。
でも君ほど魔法は得意じゃないし、ローレほど剣は得意じゃない」
ム「二人の噂は聞いているわ。剣が得意なんてうらやましい。
私の師匠になってくれる?」
ミ「もう!どうしてロトの子孫たちはみんな子分になりたがるの!?」
向上心がとてつもなく旺盛であるのだ。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』