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CHAPTER 25

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月2日
  • 読了時間: 3分

CHAPTER 25


サマンオサの喧噪とは打って変わって、静かな場所だった。

窓の外からは波の音ばかりがざぁざぁと、1000年前のような素朴な音楽を奏でていた。

荷物を置き、一息つくと、ミユキはさっきの老婆を探した。

老婆は波音の聞こえる縁側で、揺り椅子に揺られながら裁縫をしていた。

ミユキはその横にしゃがみこむ。

ミ「お婆さま?」

婆「おやおや?どうされました?」

ミ「ここはわたくしにとって、少し懐かしい場所です」

婆「おや?ここに居たことがおありで?」

ミ「いいえ、ここではありませんが…私は幼いころ、修道院で育ちました」

婆「ほぉ」

ミ「修道院で……修道院に、捨てられました」

婆「………。

 捨てられたのですか?」

ミ「母親に捨てられた、と聞いています。

 わたくしはまだ、3歳でした」

婆「そうですね。波の数と同じように、数えきれないお話です」

ミ「えぇ」

婆「………。

 それが本当だったか、わからないことだわね」

ミ「本当のことです」

婆「あなたのお母さんの本心が、本当に『捨てた』であったのか、今となっては誰もわからないこと」

ミ「…え?」

婆「ほほほ。

 『捨てた』と突き放せば、母親を探そうとしたりはしないだろう。幾らかの親は、そう考えて修道院に子を託します」

ミ「わたくしの母は…ミユキを捨てていない…?」

婆「わかりません。それは誰にも、婆にもわかりません。

ミ「………。」


老婆はしばし目を閉じて、そして呼吸を整えた。

婆「ほほほ。

 この修道院には、古い言い伝えがあります。

 古の勇者ロトの妻は、名をローラと言いました。姫にして勇敢な冒険者でした。

 彼女は、娘の一人を、どこかの修道院に預けたと聞きます」

ミ「え!

 ロト様とローラ様の子孫は国を築いたのです!みな王族です!」

婆「えぇえぇ、そうでしょう。

 3つの国ではなかったですか?向こうの大陸のことですが、伝え聞いています。

 しかし、それが子のすべてだったと誰がわかりましょう?」

ミ「誰も…わからない…」

婆「言い伝えが本当かは、婆たちも知りません。

 しかし、その言い伝えが本当であるなら…?

 修道院はときに、世界の希望の光となる子を託される。

 日々その可能性があることを肝に銘じて、婆たちは戸を叩く者たちにパンと寝床を授けます」

ミ「………。」

ミユキは肩を震わせ、涙を流していた。

婆「お嬢さん。人の生き方など無数にあります。

 何が正しいというものでもない。

 婆たちは、光の子に命のスープを与えることに誇りを持って、浮世離れを選んで暮らしております」

ミ「ヒック…ヒック…くしゅん」ミユキは様々な感情に伴って泣いていた。


そのときだ。

婆「おっと」

カシャン。老婆は不意に手をすべらせて、持っていた刺繍の木枠を落としてしまった。

ミ「…!!

 お婆さま!それ!!」

なんと、ポートセルミで見た《風の紋章》とよく似た手芸品だった!!

ミ「お婆さま!それは何ですか!?」

婆「これですか?お月様の紋章ですよ。

 この修道院に代々受け継がれる、伝統工芸のようなもの。

 元々は、この修道院を1つの小さな国と見立てて、その国旗のようなものだったと聞いていますが。なぁに、今となってはただ、暇つぶしのために刺すのです」

ミ「《月の紋章》だわ!!!」


ミユキは皆を集めた。

一行は老婆にすべてのいきさつを話した。

そして、その紋章を譲ってくれないかと請うた。

婆「まぁまぁ!どのみちあなたは、光の子だったのねぇ」

老婆は《月の紋章》を快くミユキに託し、微笑みながら言った。

ミ「わたくしが…光の子…?

 わたくしは、ローレ様に《ホイミ》をしているだけです」

婆「光の子を助けようとするなら、あなたも光の子でしょう。ほほほ」



『転生したらローレシアのメイドさんだった件』

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