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CHAPTER 40

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月2日
  • 読了時間: 4分

CHAPTER 40


グビアナ城下町をパトロールがてらに情報収集をしたところによると、砂漠を西に抜けた先には大きな町があるという。

紋章についての情報を持つ人は相変わらずいないが、であればとりあえず大きな町に向かってみるしかない。ある意味、大きな町を辿りながら世界中をしらみつぶしにするしかないのだろう。そうして世界の様子を把握することは、それはそれで意味があることのようにも思える。


砂漠は抜けたが、サマンオサから続くなんとなしの不穏な空気はまだ抜けていない。

冒険者たちが休息するための小さな宿場があるが、それに乗じて闇市のような御座を広げる者がいたりする。さっき来た冒険者からかすめとって次の冒険者に売りつけている、そのような印象を受ける。引き続き窃盗に気を付けなければ、そんな緊張感が続くのだった。

物売りたちというのはあまり信用ならないが、社交性の高い彼らは同時に有力な情報源でもあったりする。まったく無視するわけにもいかないのだ。盗賊風情にたむろする者たちも同様だ。結局こういう奴らが世界の裏の様々を知っている。虎穴に入らずんばなんとやら、胃袋まで入って溶かされたくはないが、少々の交わりが必要なのだ。


宿の前に小さな立札がある。「←ヨルッカの町」

それを眺めているだけでも輩から声が掛かる。

男「冒険者か?用心棒か?ヨルッカに行ったって出番はねぇぜ。

 あそこには今、世界を救う勇者様行脚中だ。あれこれ問題解決してさらに名声を高めているよ」

サ「勇者だってよ!やっぱ僕ら以外にも威勢よく魔王討伐に向かう奴らがいるのかな?」

ロ「まぁ少しはいてもおかしくないよ。魔王に立ち向かうのは国単位ばかりとは限らんさ」

ミ「仲間になってくださるのでしょうか?」

サ「高圧的じゃなければ、考えてもいいな!ははは」

休息を経てしばらくの放浪ののち、一行はヨルッカの町に到着する。


町「ヨルッカの町にようこそ!

 あんたたちも勇者様の雄姿にあやかりにきたのかね?1メートル以内には近づいちゃいけないよ!ご迷惑になるからね!」

サ「おーおー、噂をすればだ」

男「さぁさぁ!勇者様にご入用ならこちらに並んでくれたまえ!

 なんと1件10ゴールドから!安い速いの必殺仕事人!」

魔法使い風情の男が何やら叫んでいる。

ミ「1件10ゴールド?どういうことでしょうか?」

男「おや?あんたたちも勇者様に仕事依頼かい?

 同じ稼業にも見えるがね?いやいいんだよ。下請けだって快くお受けなさるのが我らが勇者様ってもんでさ」

サ「なんなんだい?僕ら、よく知らないんだよ」

男「なんとまぁ失礼なこった!勇者様の名声が及んでいないだと?

 『勇者と言えば西のローレシア・東のリック』だよ!学校の教科書で習っただろ?」

サ「おい!西のローレシアだってよ?ここまで名声が響き渡ってるぜ?」

ロ「静かにしろよ!」

男「そっちじゃないよ!リック様のほうだ!!」

サ「それで?10ゴールドでナイトリッチもやっつけてくれるのかい?いずれ本当に依頼したいところだな」

男「えぇと、ナイトリッチかい?

 えーとそいつは、ナ、ナ、ナ、ちょと待て今名簿を調べるからな!

 ナ、ナ、ナ、ナイトリッチ!はい。そいつなら35000ゴールドだ!」

サ「35000!?10ゴールドじゃないのかよ?」

男「10ゴールド『から』って言ったろ?

 スライムとドラキーなら10ゴールドだ。あばれこまいぬなら15ゴールド、バブルスライムは20ゴールド…」

サ「あーはいはい!もういいよ!」

男「やめるのかい?キャンセル料は半額の17500ゴールドを頂戴するよ」

サ「まだ依頼してないよ!

 じゃぁ盗まれた武器を取り返してもらうなら、幾らかかるんだい?」

男「窃盗事件の解決か!そりゃ10万ゴールドだ。張り込みも全部コミコミ!3日過ぎたら追加料金が…」

サ「あーはいはい!もういいよ、邪魔したね」


ボボーン!

どこかで爆発音がした。

民「おぉー!さすが勇者様だぁ!!」町民の騒ぐ声がする。

サ「行ってみよう」一行は音のするほうへ向かった。


民「ざわざわ」「すごいぜ!」「助かったわぁ」

サ「何があったんです?」

女「見てよ!東の国から珍しいペットを買ってきた人がいたんだけど、そのドラゴンみたいな犬が急に狂暴になってね!

 でも勇者リック様が《イオラ》一発であっという間に退治してくださったところさ」

ム「《イオラ》?リックっていうのは魔法使いなのかしら」

ほどなくして爆煙が収まる。そこに見えたのは立派な剣と鎧を身にまとった剣士風情の男だった。

リ「いやー危ないところだったね。でも大丈夫さ!

 私の《イオラ》なら剣が届かない距離でも一撃で仕留められる」

ミ「剣が主体だけど《イオラ》も使える、ということなのでしょうか」

ム「剣士で《イオラ》が使えるなんて、相当の実力者だわ!」

リ「さぁさぁ、もう安心だ。

 ドラゴンキッズが1匹で1万ゴールドだ。分割でもいいよ」

町「助かりました!急な事件でお金に余裕がないもんで、

 分割払いまで提案してくれるなんて太っ腹な勇者様だ!」

ロ「ドラゴンキッズ1匹で1万ゴールド…」

サ「ははは!ローレ君、20万ゴールドを誰かから貰ってこいよ!」

町「いやぁ~リック様がいらしてからこの町は平和になったなぁ~」

町「勇者様がいるってだけで鼻が高いもんだ!」

事件を見物していた野次馬は方々に散っていった。



『転生したらローレシアのメイドさんだった件』

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