CHAPTER 43
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- 2023年3月2日
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CHAPTER 43
これまで大きな国や町を目指して歩んできたが、そうでない場所を求めて歩んでみたい、と一行は思うようになった。
「龍はグビアナやサマンオサにはいないだろう」神父の言葉はもっともに思えた。
人が知らない場所を知っている、そんな情報源は難しいものだが、「谷底で暮らす不思議な民族がいる」、と道具屋が話していた。辺境の地の集落。何かあるかもしれない。
集落の場所は不明だが、それらしき地形なら北の山間いではないか、と彼は言った。その情報を頼りに、一行は進んでみることにした。
遭遇する魔物たちはいよいよ手強いが、一行はあまり苦しいも不満も感じていないのだった。戦うことが当たり前なのだ。それはまるで、連日のサービス残業を当たり前のように淡々とこなす、現代社会の面倒見の良い父親のようであった。
1つ、また1つ新たな町に訪れ、世界に残る知らない町は少しずつ減っていく。
しかし、世界に対して浮かぶ謎や疑問の数は増えていく。旅とは奇妙なものだ。
何も知らないほうが、何も考えなくていい。何かを知れば知るほど、考えなければならないことが増えていく。
しかし考えてばかりもいられない。この世界には魔物が巣食い、そして旅する彼らを襲ってくる。頭ではなく体を使って、魔物たちを退治しなければならない。そして、「笑わなければ生きていけない」とサマルは笑って言うのだった。
「こんなにシリアスでこんなに笑顔な人がいるなんて!」とミユキは思った。だからサマルのことも少し好きだ。いや、結構好きだ。
ミユキの旅は過酷だったが、しかし「素晴らしい仲間といつも一緒にいる」ということが、ミユキにとってはこの上なく幸せだった。彼らと語り合うことは楽しく、彼らと微笑みあうことは楽しい。そして彼らを助けることが楽しいのだった。
一行は広い平原を超え、やがて赤茶けた大地に足を踏み入れた。
時には野営をし、時には宿場を見つけてささやかに休息をとった。
辺境は辺境なりに、変わった人がいたり、変わった道具を売っていたりするのだった。
人に話を聞くと、谷底の民について知る者が少しずつ増えてきたようだった。
「国や町とは交わらず素朴な暮らしをしている」と言う者もあれば、
「あぁ、ハイカラな人たちだろう?」と言う者もあった。やはり普通の人々ではなさそうだ。
赤茶けた山深き地を歩いていた。この山のどこかに民がいるという噂がある。しかしそれ以上の手がかりはなく、あまりにも山は広大すぎた。何も見つからないまま山を抜けるならそれも良いだろう。サマルはそう笑って皆を元気づけた。
そんな折だった。
ミ「…?あれ?
皆さん、見てください!大きな鳥!!」
ミユキの指す方向に見やると、数メートルはあろうかという大きな翼を広げた生き物が、前方の小高い丘を低空飛行している。
サ「モンスターか!」と身構えたが、どうも攻撃的な動きはない。
ミ「ラーミアでしょうか!」ミユキは奇妙な名前をつぶやいてワクワクしている。
一行は恐る恐る、その大きな鳥に近づいていった。
ム「…人…じゃない?」目を凝らしてムーンが声を上げる。
サ「何だって?…ホントだ!」
なんと、大きな鳥に見えた生き物は、人だった。大きな翼の生えた人なのか?そうではないように見える。そのおぼつかない様子からすると、大きな翼のようなものを、人が背負って丘を駆け下りている。
ロ「何やってるんだ?」
一行はなおも近づく。キャッキャと子供がはしゃぐような声が聞こえてくる。
サ「やっぱり人だな。排他的でもなさそうだぜ?」
一行がなおも近づき、「おーい!」と声を掛けると、しかし鳥のような子供たちは「やべぇ!」と警戒的なリアクションをとるのだった。どうしていいかわからずおどおどしている。
しかし危険な人物とは思えないので、一行は近づいていった。
サ「こんにちは!僕たちは悪者じゃないよ。
こんなところに人が住んでいるなんてね!」
すると子供の一人が恐る恐る口を開いた。
男「風の谷の人間だよ!…ていうのは言っちゃいけないんだった!」
女「バカっ!」気の強そうな少女が彼を咎めた。
男「だってぇ…」民の掟に反して、男の子は異なる人間に興味があるのであった。
風の谷!?一行は興奮を禁じ得ない。
サ「何をしていたんだい?」何から話していいかわからないので、とりあえずは彼らの奇妙な行動について尋ねてみる。
プ「僕はププルだよ。この子はバーバラ。
飛ぶ練習をしてたんだ!」
女の子は警戒の目でこちらを見て、彼らの大きな翼を守るような動作をした。
ム「大丈夫よ。あなたたちにもあなたの宝物にも、何も危害は加えないから」ムーンは優しい声で言った。
サ「飛ぶって、その翼で飛べるのかい?」
プ「飛べるさ!きっと」
サ「すげぇな!でも空を飛ぶっていうのは難しいことだぜ?」
バ「知ってるわ。でもこの谷なら出来るかもしれない」
ミ「どうして?あなたたちは不思議な力を持っているの?」
バ「いつも風が吹いているからよ」
サ「風で、飛べるのかい?」
男「わからないけど、きっと飛べるさ!」
バ「もう、もっとまともな説明をしなさいよ!
大きな鷲が飛ぶのを見てたら、飛べる気がしたの。
鷲って、翼を動かしもしないで、ただ風に乗ってるだけで飛ぶのよ」
サ「へぇ!ワシっていうのはここの鳥のことだな?」
プ「翼を背負って丘を走ったら、たまにフワってなるんだぜ!
たぶんあともう一歩なんだよ!」
ミ「すごいわ!まだ子供なのに!」
サ「すごいな君たち!僕を子分にしてくれないか?」
プ「えへへ、子分って悪い気がしないなぁ♪」
バ「ダメよ!もうサヨナラ!大人に怒られちゃうわ!」
プ「大丈夫だよ!たまには人が来ることもあるじゃないか?
追い返したってケンカになるだけだぜ?
来なよ!谷に案内してあげる!」
少年は、少なくともこの少年は、見知らぬこの冒険者たちを受け入れたのだった。そうして一行の手を引いて谷を下っていく。
少年の言うとおり、谷には常に風が吹き続けていた。まぁ山合いというのはそういうものだが。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』



