CHAPTER 57
その日の夜のことだった。
バーの灯りやにぎわいが夜遅くまで続くわけでもないこの国では、日が沈むと早々に皆眠るのだった。
一行も集落の雰囲気に合わせ、まだあまり眠くもないが横になった。
ローレは目を閉じながら、「次は結局どうすればよいのだろう?」と考えていた。紋章は5つ集まったが、しかしそれらが光り輝いて彼らをどこかに運んでくれるわけでもなかったのだ。
すると…
目を閉じての思考の最中、ローレは不意に、まぶたの裏に龍と思しき細長い生き物の姿を視た!
「うわぁ!」と思ったが、周りは静まっているので声を出さないように努めた。そして目を閉じたまま様子を伺い続けると…
龍「紋章を持って、家庭的な女のもとへ行くがよい」
赤い龍は、声なき声で言った。
これが龍の天啓というやつか!?まさか本当に自分にも訪れるとは!
ローレは気持ちの整理がつくと、「みんな、起きてるか?」と静かに3人に声をかけた。
月明りの中で報告会が始まる。
「赤い龍を視た」「紋章を持って、家庭的な女のもとへ行けと言った」ローレは報告した。
3人は特段驚かなかった。じきに訪れる神秘だと覚悟が出来ていた。
サ「家庭的な女って誰だろうな?」
ロ「幾つか思い当たるが…風の谷のマーニャさんではないだろうか?」
ム「ミユキという可能性もあるんじゃない?」
ロ「それも思ったが、『女のもとへ行け』というなら近くにはいないだろう」
ム「そうね」
ミ「わたくしはずぅっとお側にいます♡」
ロ「他にも色々、料理や家事の得意そうな女性はいるが、僕の感じた答えを尊重しても良いものかな?」
サ「それが良いと思うぜ。間違ってたならまたやり直せばいいさ」
ムーンとミユキも同意するのだった。
天啓を受けた本人が、それぞれに考えるべきことなのだろう、と4人は察していた。
翌朝、一行はベッポに報告に行くことにした。
向かいの家の戸を叩く。
ロ「ベッポさん。鼻くそをほじっているところ申し訳ありませんが!」
べ「ほっほっほ!
おぬし、冗談のセンスがとてつもなくあるのか、とてつもなく無いのか!?」
ロ「とてつもなく無いのですが、精いっぱいがんばってみました」
べ「ほっほっほ!良いことじゃ!
して、何用じゃろうなぁ?」
ローレは龍を視た旨を報告した。そして風の谷の老婆を当たってみたいと。
べ「良いじゃろう。まぁワシが指図する問題でもないがな」ベッポはさらりと言った。
サ「そうかぁ…またあの壮絶な洞窟を通り抜けるのかぁ…。
なぁローレ、やっぱり考えなおさないか?」サマルはローレの肩を叩いた。
ロ「何言ってんだよ!…と突っぱねたいところだが、僕もそういう気分にもなる…」
一行はテロスへと続く洞窟の苦しみを思い出して、憂鬱になってしまった。
べ「ほっほっほ。
機織りの家に行きなされ。救いの手があるじゃろう」
一行「!?」
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』