CHAPTER 9
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- 2023年3月1日
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CHAPTER 9
洞窟を出て、明るい陽射しのもと、改めてお互いの姿を見合った。
「あぁ、たしかに昔会ったローレシアの王子の面影があるような気がする」そう感じた。
そして相変わらず楽しく話しながら歩いていると、サマルトリアの王子はこの人物が本物のローレシアの王子であると確信した。二人は出会ったばかりで、しかもとんでもない出会い方であったが、独特の知性や気品のようなものをお互いに感じ取って、シンパシーを感じていた。
サマルトリアの王子はサマルトリアの王子で、城の他の兵士たちとの交流に少々の物足りなさを感じていたのだった。孤独ではないが、孤独に近い物足りなさを。それが埋まるのを、感じ取っていた。
自分が誰であるかを人に証明するには?
自分が誰であるかを人に説明するには?
それはとても奥深い問答のようだと、3人はそれぞれに痛感していた。
サマルトリアの王子はお共を帰らせたが、自分も新たな仲間を連れて城に帰還した。
サ「ローレ、君いつまでも盗賊のフリをしてるわけにもいかんだろう?」
ミ「盗賊じゃなくて用心棒ですぅ!」
サ「あ、それだよ。用心棒のフリをしているわけにもいかないさ。
時には用心棒を演じるのもいいが、身分あるものとして受け入れられることも必要だと思うぜ。だからちょっと、城下町の武器屋で《せいどうのよろい》と《てつのつるぎ》でも買っていけよ。それくらい装備しておけばどっちでも通用すると思うんだ」
ロ「なるほどな」ローレは、しばらくの戦いの中で貯まったお金をはたいて、《せいどうのよろい》と《てつのつるぎ》を買った。
「カネがないなら僕が出してやる」とサマルは言ったが、ローレはそこまで甘えるべきではないと考え、自分の有り金で購入した。するとサマルは、ミユキのほうに《たびびとのふく》と新しい紺色のマントを買い与えてやった。
サ「ミユキ。君もメイド服にマントなんて格好で旅を続けるのは、いかにもバカげているぜ」それもそうだった。
体裁を整え、サマルトリアの王の間へと謁見した。
その格好かつサマルが「ローレシアの王子です」と紹介すれば、もう無用に疑われることはなかった。
勇者の泉から勇ましく生還した息子に、サマルトリア王は旅立ちの許可を与えた。
ムーンブルクの大陸へ渡る関所では、許可証の提示が求められる。
王は、ローレとミユキにも許可証と身分証を与えた。仮の肩書きとしては「サマルトリア王子の家来」という体になっていた。
「ローレ様が親分ですぅ!」とミユキはまたゴネた。
血筋としてはローレシアが、3の兄弟を牽引していかなければならない立場だが、ローレはそんなことはどうでもいいと考えていた。そしてサマルのほうが愛想が良いので、彼が代表であるほうが都合がいいとさえ思った。
色んな意味で彼は、王子としての格を捨てたいと願っていたのだった。
王は旅立つ息子に、はなむけの言葉を贈った。
王「早く器用貧乏を脱しなさい。そんな貧弱な腕では示しがつかん。
ローレシアの王子のように、もっと体を鍛えるように」
この血族の王たちは皆、息子に対して厳しいようだった。そして生きて帰らぬかもしれない旅立ちに対して、とても淡泊である。覚悟が出来ている、という意味なのだろう。
サマルの旅立ちを聞きつけると、妹のシャロン姫が駆け寄ってきた。
姫「ミユキ、本当にわたしにブローチの1つも売ってくれないの?」
ミ「えぇ。本当にわたくしは商人ではないのです。売るものも、それ以外も何もございません。この服とて姫のお兄様に買い与えてもらったのです」
姫「そう。なら逆にこれをあげるわ」
シャロンはミユキに《せいなるナイフ》を手渡した!冒険の初心者が装備する簡素なナイフだ。
姫「あなたは戦うことはないと聞いたけど、でも刃物の1つも持っていたほうがいいと思うの」
ミ「ありがとうございます!」
サ「おまえ、なんでこんな物騒なものを持ってるんだよ!」
姫「えへへ。『お兄ちゃんについていきたい!』ってゴネてたわたしの気持ち、まんざら嘘でもなかったってことよ」
ロ「ありがとう。姫の気持ちをこの旅に連れていく」
姫「気持ちだけじゃダメなのよ!ホントはね。でもワガママは言わないの」
サ「いつの間にか大きくなったんだな」
姫「ムーンブルクには、ロトの血を引いた王女がいるわ。彼女が旅に加わるのよ。わたしの次にかわいい姫よ」
サ「王女は…!王女はもう…」サマルは表情をゆがめた。
姫「いいえ、生きてるわ。今朝夢で会ったもの」
サマルはシャロンの肩に手をやり、彼女を静かにたしなめた。
『転生したらローレシアのメイドさんだった件』