episode1 『王と悟り』
- 3 日前
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プロローグ1
あなたは、この物語を読んで何かを思い出す。
自分が誰であったかを思い出す。
どこに向かう途中であったかを、思いだす。
プロローグ2
ゼシカとセーニャは15歳である。
15歳ということは?
15歳ということは?
勇者やその仲間たちに15歳、16歳という年齢が多いのは、なぜかわかるだろうか?
国によっては、成人の年齢が15歳なのだ。「義務教育を終えたらもう大人と同じことが出来る」と考えられている。
ソロの住むカレンや、カレンの若者がリスペクトするヒボンという国は、成人年齢を二十歳としている。これらの国の15歳は「何も出来やしない」と思われている。親にも、他人にも、自分自身にも。
でも、はたしてそうなのだろうか?
はたしてそうなのだろうか?
はたして、そうなのだろうか?

第1章 自由の身
episode1
●ソロ

年齢:25歳 誕生日:5月26日 身長:184cm
店「はい、じゃぁ15万円で買い取らせていただきますよ」
ソ「は、はい。良いです!」
店「もう成立だからね?これ以降はキャンセルが利かないよ?」
ソ「はい、覚悟しました!」
店「毎度ありがとう」
ソ「はぁ~~~!」
店を出たソロは、学芸会の芝居を終えた主役の女の子のように、ハラハラの胸で大きく息をした。
ソ「いいんだ。これで200万!
これで僕の夢が叶うんだから!」
翌日。
ソ「社長!社長宛てにお便りですよ」
ソロはやけに楽しそうな笑顔で、社長のデスクに白い封筒を置いた。
彼はカレンという町の郵便社で働いている、25歳の青年だ。

社「ん?私信か。オレに私信なんて珍しいなぁ」
取引先からの書類めいた封筒はよく届くが、私信が届くことは珍しい。
社「はいご苦労。仕事に戻れよ」
ソ「え?いやぁ今開けたほうがいいんじゃないですか?急用かもしれないし!」
社「なんだよもう。
・・・うん?差出人が書いてないぞ?」
ソ「ぷぷぷっ!
中を開けたらイイんですよ」
社長は封筒をビリっと豪快に破いた。そして中から便箋を取り出す。
社「はぁ!?
お前からじゃないかよ!」
ソ「はっはっは!」
社「しかも辞表だって!?」
ソ「えぇ、どうも」
社「どうもじゃねえよ!
なんでこんな小細工しやがって!」
ソ「冗談めかしてやったら辞める理由が深刻じゃないって、伝わりやすいじゃないですか♪」
社「『長旅をしたいから』って・・・本気なのか!?」
ソ「本気ですよ。僕が旅したがってたのは知ってるでしょう?
だから次の契約更新までってことで。2か月前に辞表出すんですから、偉いもんじゃないですか」
社「お前みたいな使い勝手のいい人材、手放すわけないだろう!」
ソ「契約社員ですからね!毎年更新のタイミングで首を切る権利がある。
でもそれってこちらにとっては、契約更新を突っぱねる権利だってあるんですよ!
早めに次の募集を掛けたらいいですよ」
社「なんだ偉そうに突っぱねるって!」
ソ「いえすいません。言葉が雑でしたね。とにかくね、いつか旅したいから正社員にならずに契約社員やってたんですから。僕には更新しない権利があるんですよ!円満退社ってヤツです」
社「はぁあ。逆らえねぇよ!たしかにな。
・・・それにしたって、こんなクダラナイことしやがって!
お前の給料、5分ぶん引いとくからな!」
ソ「まだ12時55分ですよ!モンク言われないように昼休みにけしかけたんです。はっはっは!」
社「うるせー!お前の正論は大キライだ!
それにオレの貴重な時間も使ったんだからな!さらに5分ぶん引いとく!」
ソ「えぇ!?いつも暇そうにしてるじゃないですかぁ!」
社「暇そうにオフィスを眺めとくのがオレの仕事なんだよ!」
ソ「ははははは!」
そして2か月後。
ソ「今日までお世話になりました!」
ソロは社長に深々と頭を下げた。
社「本当に送迎会をやらなくていいのか?
せめて酒の席で労うくらいのことはやってやりたいもんだぜ」
ソ「いえいいんです。僕お酒呑めないし。
あまりみんなに言わないでくださいよ?
別れの言葉を投げかけられるだけでも、悲しくなっちゃうだけなんですから」
社「ふうん。変わってるなお前は。
出会いが職場じゃなかったら絶対に友達になってないな」
ソ「ははは。じゃぁもう行きます」
ソロは3年間世話になった社長に挨拶を告げると、さばさばと職場を後にした。
玄関を出る。正面から射す夕陽に目を細める。
「うーん、そういやこの会社だって立派な夕陽が拝めるんだったな」
いつも残業ばかりして帰りが遅かったソロは、退社時に夕陽と見つめ合うのは久しぶりのことだった。
振り返り、大きな社屋にも目をやる。もう見納めだろう。
ソロはここ3年間を、郵便社での従事で過ごした。主に配達員であり、歩きながらこのオフィス街に行き交う重要書類を配達して周っていた。
家路につくと、屋内からは大きな笑い声が響いていた。
ソ「そうか。今日は親戚が寄ってるんだったな」
家「あははははは!」
ソ「ただいま」
父「あぁおかえり!」
男「おまえがソロか?ずいぶん大きくなったもんだな!」
ソ「あぁホンダラさん。そっちはあまり変わりませんね」
ホ「35歳が45歳になったって大して変わりゃしないんだよ」
女「良い男になったじゃなーい」ホンダラの妻はソロに言った。
父「それで?いつから出るんだったか?」
ソ「あぁ」
ホ「おぉ、外国に旅に出るなんて本当なのか?体が弱いんじゃなかったのか?」
ソ「えぇホンダラさん。ほら、郵便配達の仕事してたでしょ?いつの間にか元気になったもんですよ。
それにホンダラさんがくれた漢方薬だって、役に立ってくれたかもしれませんね」
ホ「そうだろうそうだろう。わはははは!」
女「まさか明日ってことはないでしょう?」
ソ「明日じゃないですよ。
船の切符は1週間後です」
女「まぁ良かった!もう少しそのお顔が見れるのね」
ホ「おまえ親戚まで口説いてんじゃないよ!」
女「口説いてなんかいないわ!嫉妬しすぎよあなたは」
ホ「ほんとにもう!
それで、幾つになったんだっけ?」
ソ「僕ですか?25です」
女「25かぁ。ギリギリセーフね!」
ホ「なんだよセーフって!」
部屋に荷物を置き、部屋着に着替えてまたリビングに戻る。
ホ「それで?仕事辞めてまでして旅に出るなんざ、世界一周でもするってのか?」
ソ「世界一周はあまりにも夢ですよ!
どこまで行けるかわかんないけどね。『期限のない旅』がしたいんです」
女「期限のない旅?」
ソ「そう。いつ終わるかわからないって、なんかワクワクするじゃないですか?」
女「え~私は不安だわ!パーマのウェーブがとれちゃったらどうするのよ~」
ホ「女は男のロマンに口挟むなよ!
いいなぁ、隣国じゃ終わらないってことだろ?」
ソ「そうですね。大陸を3つくらいはまたぎたいなって思ってますけど」
ホ「うん!?
するとお前、ロンガデセオも通るのか?」
ソ「えぇ、通ると思いますけど・・・」
バン!ホンダラは勢いよくテーブルを叩いた。
ホ「マジかよ!こりゃ神様の思し召しだぁ!」
いきなり目の色が変わる。
ソ「え?」
ホ「ちょっとお遣いを頼まれてくれよ!」
ソ「お遣い?」
ホ「いやぁカンタンなもんさ。郵便屋のお前ならなおさら!
これだよ、この袋をさ、ロンガデセオの北の教会の神父に届けてくれって話だよ!」
ソ「教会の場所なんて知りませんよ?」
ホ「大丈夫だよ、北の教会って言ったら1つなんだ。
そこの神父って言ったら1人しかいないんだからさ。
頼むぜでっへっへ!」
ホンダラはソロに小さな袋を手渡した。
ソ「なんです?これ」
ホ「あー触るなよ!!
えーっとホラ、友達だからさ、大切なサプライズプレゼント!」
ソ「あ、はぁ」
まぁかさばる荷物でもない、別にいいか。
ホ「絶対に、確実に届けるんだぞ?
それにのんびりもしてらんねぇんだ。今月中には届けるんだぞ!」
ソ「今月中!まぁ可能だと思いますよ」
ホ「そうかそうか!おまえイイ子に育ったなぁ~!
小遣いやるよ!ほら1万円だ。旅の餞別ってヤツだよ!」
ソ「あ、どうも」
翌朝。
ソロはいつものように窓辺に腰かけて物思いに耽っていた。
シャバシャバシャバシャバシャバ・・・

何の音だろうか?水車だ。
ソロの家はこのカレンの町の郊外に古くからあった。古ぼけた家屋にはなんと、水車が備え付けられていた。それは家の横に残る水路の流れを受けて、今でもシャバシャバ回っている。
四六時中その音と共にいる彼にとって、そのシャバシャバという音はもはや空気のようなものであったが。
コンコン!コンコンコン!
新たな音がする。木をノックする音だ。
ソ「えっ!」ソロはその音で我に返る。そして気づくと、水車の羽根の1つに載せられているカップケーキを慌てて掴み取る!
ソ「おっとっとあぶねぇ!」
「キャハハハハ!」
可愛い笑い声は下階から聞こえてくる。
ゼ「お兄ちゃんの退社祝いよ♪」しゃべったのはゼシカだ。
ソ「ありがとうママレード!」
セ「もぉ~マドレーヌだってば!」しゃべったのはセーニャだ。
ゼシカとセーニャは双子の女の子であり、ソロの妹である。
姉妹は趣味のお菓子作りなどすると、それを水車の羽根に載せて上階の兄へと送ったりする。それは本来の水車の使い方とは違うが、そんなことはどうでもいいのだ。
ソ「くんくん。う~んレモンの香りがするよ♪」
ゼ「そうよ、お兄ちゃんのために作ったんだもん!」
セ「酸っぱすぎてない?分量はテキトーなの!」
ソ「はははは!美味しいよ」
仲のよいきょうだいなのであった。
●ゼシカ(左)とセーニャ(右)

年齢:15歳 誕生日:12月26日 身長:158cm
※ゼシカとセーニャのイメージ分け
ゼシカ:やや積極的でやや感覚的
セーニャ:やや冷静でやや論理的
ゼシカとセーニャは兄が大好きだった。
明るくて真面目だから、というのもあるが、兄は2人にも掛けられそうだった学歴主義の鎖を引きちぎってくれたのである。
父親は教員で、学歴主義な子育て観を持っていた。ソロはその重圧の中で育ったが、「自分は教師にも官僚にもなりたくない」と言って、正社員にすらならず、契約社員で生きた。
だから父親は、2人の娘にも「良い大学に入りなさい」とは言わなくなった。父の方針転換が兄のお陰だということを、ゼシカとセーニャはわかっていた。
ゼシカとセーニャは15歳である。
15歳ということは?
ソロとは10も年が離れているということだ。
ソ「あれ?2人そろって風邪ひいたって聞いたけど、もう大丈夫なのか?」
ゼ「あぁ、それは嘘!だって私ホンダラさん嫌いなんだも~ん」
セ「部屋にこもってたいから仮病使ったのよ」
ソ「あぁそうか」別に咎めもしない。ソロもホンダラ夫婦があまり好きではなかった。
ホンダラは医薬品会社に勤め、化学薬品から漢方まで手広く扱い、「世のために忙しく働いているぜ!」といつも自慢気に言うが、どこまで本心なのかよくわからない叔父だった。
6日後。
ゼ「はぁーー!お兄ちゃんもう出ちゃったの!?出発は明日って言ってたじゃぁん!」
セ「まただまされたぁ~!」
母「2人が泣くところを見たくないってね。あなたたちが学校に行ってる間に出ていってしまったわ。あの子はいつもそうね。うふふふ」
ゼ・セ「どっちにせよ泣くぅ~!」
母「あらあなたたち、今日は『まおマジ』最新刊の発売日じゃなかった?」
ゼ「あぁそうだった!
本屋さん行ってきまーす♪」
セ「行ってらっしゃーい♡」
ゼ「あんたも行くのよ!!」
ソロは会社だけでなく家庭においても、人に惜しまれるのを避けてさらっと抜け出してきた。
旅立ちに襲いかかる感情は、寂しさの類だけではない。
「上手くいくのだろうか?」といった恐れや不安にソロもさいなまれてはいたが、彼はその動揺を極力周囲に見せないようにした。「不安だ」「どうやれば?」と吐露すれば、「旅なんて辞めておけ」と制止されたり、彼らの不安や悲しみも増長してしまうからだ。
人は時に、少々の背伸びが必要なのだ。
不安や恐れや悲しみを、口にしなくなればなるほど、人は自由が増える。周囲に反対されなくなる。
ソロは、経験から旅立ちのコツを知っていたわけではない。
これは彼にとって生まれて初めての外国旅行なのだった。親がビーチリゾートに連れていってくれるような家庭だったわけではない。
彼は、「人はどうあるべきか?」ということをよく思慮する青年だった。少年の頃から。水車の回るのを眺めながら、窓辺に腰かけて思慮していた。水車はシャバシャバとうるさいが、そんなものがあっても人は思慮が出来るものだ。彼の家は、いつも水車や妹たちがうるさかった。
あれこれ考えてみると、「旅立ちの際は派手な送別会などやらないほうが得策だ」という真理に気付くのだ。またはそれは仮定にすぎないこともあるが、仮定を立てるだけでも選択肢は減る。必要な失敗は少数で済むようになる。


