episode7 『王と悟り』
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episode7
2分も歩けば宿屋に着く。建物は古く、そう立派でもないが別に文句はない。
ソ「僕ん家より古い家はないさ。ははは」ソロのあの水車のある家は、とても古くからあるものだった。
宿屋の戸をくぐる。向かいにすぐにカウンターがある。
ソ「あのう、1泊泊めていただきたいんですが・・・」
そう難しい作業じゃないぞ。ソロは胸を張りながら自信を持っていた。が!
小「おやっさん!あの男、船の中で娼婦を買っていましたぜ!」小間使いの男が主人に言った。
ソ「えっ!」
主「すまんがね、あからさまに売春目的の旅行者ってのは、ウチは泊めたくないもんでね」
ソ「え?あの、僕娼婦なんて買っていませんよ!」
主「なに?」主人は小間使いを見た。
小「いいやアンタに間違いないよ!白いガウンを着た女を、3等の相部屋に連れ込んでたじゃないか!」
ソ「あぁ、そのことか!
あはは。たしかに船で女性と話しましたけどね、彼女は娼婦じゃないですよ」
主「客を口説いて周ったのか?それはそれで信用ならんね!」
ソ「違いま」
ト「おいおい!
その青年を泊めてやってくれよ!いい奴なんだ。娼婦を買うとかそんなタマじゃないさ」
主「と、トルネコさん!」
ト「今船着き場で知り合ってね。ここまで連れてきてやったんだ。色々話しこんだがね、いい青年だよ」
主「あんたが言うなら断れないが・・・」
ト「はっはっは、良かったな!」トルネコはソロの肩を叩いた。
ソ「ありがとうございます!」
ト「ほら、相部屋でいいんだろう?」
ソ「はい。一番安い相部屋に1泊泊めてください」
ト「ほら。貧乏な青年なんだ。女買うカネなんかないんだよ。わっはっは!」
主「そうとも限らんのですよトルネコさん」
ト「なに?まだ突っぱねるのかね?」
主「いえ、彼は泊めますけどもね。うちの相部屋に泊まるようなヤツでも、売春する奴はいるってことなんでさぁ。物価の高い国から来る奴らは、したたかなんですよ」
ト「そうかそうか!そうかもしれんよ。
なにしろわしだって若いとき・・・いやなんでもない!」
ソ「はっはっは!トルネコさん面白いなぁ。
トルネコさんも泊まっていくんでしょう?」
ト「いいやここでさよならだ。
わしはこんなに持ち物が多いからね!相部屋なんて狭すぎるんだよ。宿はもうちょっといいとこに泊まっているんだ」
ソ「そうですか」
ト「この辺でお別れだよ、青年!」
ソ「ちょっと寂しいですね」
ト「寂しいが、なんとかなるだろ?
君がレベル2になるために必要な経験は・・・わし以外の人間に助けてもらうコツを得ることだ。わっはっは!」
ソロは宿のベッドでひと眠りすると、太陽も高くなったころに町を歩きだした。
トルネコがそこらで誰かと立ち話でもしているのではないかと思ったが、そうでもないのだった。
新しい友達を見つけるしかない。友達でないとしても話し相手を。
お腹が減ってきた。そうだ、ご飯を食べるべきだ。
ソロはあてもなくそこらの食堂の暖簾をくぐった。
ソ「すみません。ラーメンかチャーハンが1ゴールド(約100円)で食べれませんかね?」
店「おぉ、これは旅のお方!
ラーメンもチャーハンも置いていますよ。東の国と似たような味付けですし、ちゃんとお箸を提供していますよ。きっとあなたにピッタリだ!しかし3ゴールド頂きますが」
ソ「3ゴールドかぁ。高いなぁ」
店「高いなんてめっそうもない!
ほら、器だって東の国から貿易したものを使ってるんですからね」
ソ「そっかぁ、1ゴールドで食べられると思ったんだけど、仕方ないかぁ」
店「毎度あり!ラーメンですね。
ご一緒に冷たいドリンクもいかがですか?」
すると、食べている客が声を掛けてきた。
男「君、1ゴールドで飯が食いたいのか?
それならここじゃなくて、ほら、向こうに見えるボロい店に行くんだよ。
ドアもない、灯りもついてないような店さ」
ソ「開いてるんですか?あの店は」
男「開いてるんだよ。
地元の庶民はね、ああいう地味な店で飯を食ってるんだ。店構えも何もカネがかかってないからね、1ゴールドでラーメンやチャーハンが食えるんだよ」
店「でも、お箸を置いてないですよ?綺麗なメニューもないのです」
男「君、箸じゃないと飯が食えないのかい?」
ソ「いいえ、そんなことないですよ」
男「大したこだわりもないなら、別にああいう店で事足りるよ。
あとは女連れじゃないならね。はっはっは!女はああいうしなびた店は嫌うんだ」
ソ「そうですか!ありがとう。
僕ちょっとあの店に行ってみますよ」
男「旅の無事を祈ってるよ!」
ソ「僕もうレベル2になれましたかね?えへへ」
男「は?何言ってんだ??」
ソロは店主に断りを入れると、男の示した食堂に行ってみた。
なるほど。古い店構えは休業日どころか数年前に閉店したようにすら見えるが、よく見れば開いている。中からは食べ物の匂いがし、それどころか入口の前のテーブルには食べ物が並んでいる。
ちまきみたいな葉包みの総菜と、そして少し焦げた竹筒だ。なんだこれは?
軒をくぐるともう暗い。うわ!と思ったが、完全にくぐってしまえば目が薄暗さに慣れ始めるのだった。店内の様子がちゃんと見えてくる。
店「はいよ?」店主らしきおばさんがぶっきらぼうに言った。
ソ「1ゴールド(約100円)で食べられるご飯がありますか?チャーハンかラーメンみたいな」
店「あぁ、チャーハンもラーメンも1ゴールドだ」
ソ「じゃぁチャーハンをお願いします」
店「チキンかい?ビーフかい?」
ソ「え?いや、チャーハンをお願いしますよ」
店「それはわかってんのさ。
中の具は鶏肉にするのか、牛肉にするのかって聞いてんだよ」
ソ「あぁ!そんなオーダーメイドが出来るんですか!」
店「オーダーメイドってほどのモンじゃないよ。それは仕立て屋に失礼ってもんだ。
鶏が好きなやつもいれば牛が好きなやつもいるんだよ。
エビも出来るが、それは2ゴールドになっちまうよ。エビは高いんだからね」
ソ「じゃぁチキンでお願いします」
綺麗なメニュー表は置いていないが、フードのレパートリーはある、ということだ。
ジャー!厨房からは具材を炒める音が聞こえる。
ガチャンガチャン!おばさんはやたらと大きな音を立ててフライパンを振るっている。
店「はいよ。チキンのチャーハンだ」
ソ「いただきまーす!もぐもぐ。美味しい!
おばちゃん、美味しいねこれ!ちょっと油っこいけど美味しいよ!」
店「そうかい。良かったよ」
ソ「ガツガツガツ!・・・うぅ、げほっ!げほっ!」チャーハンがのどにつかえてむせてしまった。
タン。店主は小さなグラスを皿の横においた。
ソ「げほっ!げほっ!これは?」
店「茶だよ。サービスだ」
ソ「ありがとう!」
店「幸せそうに飯を食う青年だこと!」
チャーハンを食べ終えると、カフェオレが飲みたくなった。ソロはいつも、食後にカフェオレを飲むのだった。
ソ「おばさん、カフェオレってありますか?」
店「あるよ。1ゴールドだよ」
ソ「1ゴールド!?チャーハンが1ゴールドでカフェオレも1ゴールドなの!?」
店「カフェオレってのは舶来品だからね。仕入れ値が高いんだよ」
ソ「そうか。じゃあぁいいです」
1ゴールドは100円だ。別に高くもないのだが、チャーハンが1ゴールドで食べられる地においてカフェオレに1ゴールドを費やすのは割高に思える。倹約を心がけるソロは、カフェオレは我慢することにした。
ソロにとってカフェオレはやや中毒的な必需品だったが、旅先では割高であるという実情から、彼はその中毒を我慢することにした。
ソロはふと思い立って店主に尋ねた。
ソ「そういえば、この町の人はみんなトルネコさんと知り合いなのですか?
出会った人はみんな、そんな口ぶりでした」
店「トルネコさん、来てるのかい?」
ソ「えぇ。ここまで連れてきてもらったんですよ」
店「知り合いっていうか、まぁ町の恩人だね」
ソ「恩人!」
店「そうだ。まぁ別に窮地を救われたってわけでもないが、あの人がいいアイデアを置いてってくれたよ。それで町は少し潤ってね、みんな明るくなったな」
ソ「アイデア?」
店「あぁ。商いのアイデアだよ。
弁当って知ってるか?」
ソ「えぇもちろん」
店「マイエラには元々そういうもんはあまりなかったんだ。
トルネコさんはね、奥さんの手料理が大好きなんだよ。仕事に行くにもそれを箱に詰めてもってくんだ。
それで昔この町に来たとき、隣の村まで遠出するから食べ物を詰めてくれって、どっかの店主に言ったんだな。食べ物を詰めるってのはわかるが、そんなの3時間のうちに食べるべきだよ。ここは暑いだろう?半日もしたら腐っちまうからね!」
ソ「えぇ」
店「旦那は、『いや1日もつ方法があるはずだ!』っつってね。
それで町の奴らに、腐らない方法を色々と教えてくれたんだよ。酢を入れたり、辛いの入れたり、砂糖入れたりね。料理ごとに変えればいいんだって」
ソ「えぇえぇ!」
店「ここは港から近いだろ?何かと人が行き交う町だからさ。
1日も保存の利くお弁当ってヤツを売ってやると、喜ぶ人は多いんだ。
よそ者だけじゃないよ。百姓だって、腹減ったらいちいち町に帰ってこなくても、弁当を持ってったらずーっと仕事してられるんだよ」
ソ「なるほど!」
店「ほら、それもそうだよ」店主は店先のテーブルを指さした。
さっきのちまきみたいなものと焦げた竹筒だ。
ソ「あぁ!その竹筒はなんですか?」
店「おこわだよ。具材を混ぜたご飯さ。竹に詰めてそのまま蒸したもんだよ。
酢を入れてちょっと酸っぱくしとくのさ。そしたら1日でも持つ。隣町に行くならみーんなこれ持ってくんだ」
ソ「そうか。それでみんなトルネコさんに頭が上がらないんですね!」
店「商人なんてあんまり善い人種じゃないんだよ。でもトルネコさんは好かれてるね」
ソロは竹筒のおこわを1つ買っていった。



