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episode8 『王と悟り』

  • 2 時間前
  • 読了時間: 5分

昼食を済ませてもソロは、マイエラの町を歩き回った。

港から近いという町の性質ゆえ、よそ者を煙たがる人はそういないようだった。


武器屋を覗いてみる。

地味な色の無骨な武器が何種類か並んでいる。

《銅の剣》も何本かある。しかしどれも幾分くたびれている。

ソ「《銅の剣》、ボロいですね」

武「そうだよ。武器なんて大抵中古品なんだからさ」武器屋は野太い声で言った。

ソ「そうなんですか!」船着き場の露店の武器はどれもボロかったが、そう珍しいことでもないのだった。

武「安い武器ほど中古品が多く出回るし、この町の武器はロンガデセオのヤツから売られることが多いからなぁ」

ソ「あ、ロンガデセオ!」

ソロは武器屋の言葉で、自分が身内からお使いを頼まれた身分であることを思い出した。

ソロの《銅の剣》はわりかし状態がいい。トルネコが質のよいものを譲ってくれたのだ。


武器や防具といった冒険に関係あるものだけを探すのか?そんな暇はない。初めて訪れた大陸の町は、人々の暮らしぶりがカレンとかなり違って、それを眺めているだけでも面白い。カレンとは違う様式の家を建て、カレンではすでに絶えてしまった文化を紡いでいる。ただ町を歩くだけでも容易に1日が潰れそうだ。観光施設なんて唯の一つも必要ない。旅とは、観光施設を見に行くものではなく、異なる暮らしを見に行くものだと、ソロは思っている。



ソロは宿屋に戻った。

店主の姿はないが、小間使いはいる。

ソ「あのう、ロンガデセオに行きたいんですが、どっちの方角に行けばいいんでしょう?」

小「ロンガデセオだって!?やっぱりあんた、盗賊か何かか!」

ソ「いえ違いますよ。家族から頼まれ事をしているんで、ただ届けに行くだけです」

小「ふうんそうかい。面倒なことを押し付けられたもんだね」

ソ「いいんですよ。お小遣い貰ったし」

小「ロンガデセオって言ったら北西の方角だよ。

 向こうから町を出ればとりあえず道は伸びてるよ。

 でも歩いていくにはちっと遠いよ。大抵は馬車で行くか、それか川を船で行くんだ」

ソ「川を船で!面白そうですね!」

小「川も向こうから町を出ていけばいいよ。立札があるからわかるだろう」

ソ「どうもありがとう」

ロンガデセオが盗賊?小間使いは何を言っているんだろう。ロンガデセオは、立派な遺跡と壁画が残っていることで、カレンでは有名だった。まぁ朽ちた遺跡などわざわざ観に行きたがる者は、盗賊ではないにせよワイルドな者が多いのだが。たとえばクレアやその恋人から見れば、そういう人種はみんな盗賊やら野蛮人に見えているのだろう。


ソ「もう1つ、尋ねてもいいですか?」

小「なんだね?」

ソ「僕は読書が趣味なんですが、どこか本の読める場所はないですかね?」

小「本かい。変わりもんだなぁ。

 この宿の2階は大広間になってるだろう?部屋のベッドが狭いぶん、昼間はみんなそこでくつろぐんだがね。その大広間には本棚があるよ。古い本ばかりだが、暇つぶし程度にはなるんじゃないか?」

ソ「ありがとうございます!」

小「ここに限らず相部屋のある宿は、誰でも読んでいいような本棚を持ってるところが多いよ」

そうか、安宿を泊まり継いでいれば本にも出会えるんだな。これは好都合だ。外国はカレンほど本屋の文化が盛んでないと聞いている。



ソロは2階に上がってみた。

そこにはだだっ広い憩いのスペースが広がっている。

「下駄を脱ぐべし」と貼り紙があり、その先は絨毯が敷き詰められている。座卓が幾つかと、座布団が幾つか転がっている。ダイニングテーブルを並べるよりもお金がかからない仕組みだ。

しかしそのくつろぎ空間は、カレンにもある畳部屋の文化に似ていて、ソロには好感が持てた。

部屋の壁には大きな本棚があり、本は何十冊も並んでいる。ソロは目をやる。

『遺跡が語るロンガデセオの隆盛』『宗教は善か悪か』『旅の退屈は思考を与える』などと、哲学的もしくは社会派な内容のものが多いと見受けられる。

背表紙はどれも刺繍文字で書かれているが、1冊だけ書き文字の、安っぽい本が目に留まった。


『古の勇者ローシュの旅日記~マイエラ編~』


ソロはなんとなしに手にとってページを開いてみた。

うん?白紙だ。もう1つページをめくる。白紙だ。さらにめくっても白紙である。堪りかねて、ペラペラと一気にめくってみた。すると本のちょうど真ん中あたりのページに文字が見えた。

ソ「お?」

そこを開いて読んでみる。

 

ヘビのような頭を持つ女がまとわりつくので倒してやった。

みんながオレのことを「ゆうしゃ様!」「ゆうしゃ様!」と言う。崇められているようなので悪い気はしない。でもゆうしゃって何のことだろう。


ソ「ぷぷ。なんだこれ!」

子供の本書き遊びだろうか。ソロはその本を棚に戻した。

『カレンはマイエラの真東にあった』という本を手に取って、なんとなしにその晩の暇つぶしをした。

地球というのは太古から、何度も地殻変動を繰り返してきたらしい。島の位置も形も一定ではないのだ。


夜半になると、相部屋のベッドにもぐり就寝した。

人気(ひとけ)のない宿だなと思っていたが、夜になればどこからか旅人たちがやってきて、ベッドを埋めていくのだった。旅をする目的はそれぞれに異なり、それぞれに違う場所で日中を過ごすのだろう。それぞれに黙々と寝支度をして、静かに眠っていく。


ソロの長い長い1日が、ようやく帳を下ろした!

彼が長らく憧れていた「旅」というものの、これがその1日目だった。なんて地味で、なんて濃いものだろうか。

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