episode14 『王と悟り』
更新日:8月29日
episode14

ソロとシスター・マリアは町の西側に出た。
ソ「西に歩けばいいんだったね?」
マ「あぁ、どうして神はソロ様をお救いなさらないのでしょうか!」
ソ「あのさぁ、えっと、別に批判をするつもりはないんだけど・・・
僕、宗教に身を捧げる人の気持ちが、いまいちわからないんだ」
マ「他の宗教はどうか知りませんが・・・メシアは再降臨して、洪水からわたくしたちを守ってくださるのです」
ソ「うちの親もメシア信仰だったらしいんだけど、メシアは新世紀の頭に降臨しなかったらしいじゃないですか。それで嫌になっちゃったらしいよ。
山に住んでも川に住んでも、洪水の被害は防げない。泳げるようになるしかないし、何が流されてもいいやって思えるようにならないと。だから僕はあまり家やモノに執着しないようにしていますよ」
マ「なるほど。ソロ様の信念を試すために、神は命綱のお金さえも取り上げたと」
ソ「いや、そういうことじゃないと思うんだけど・・・」
時には魔物の遭遇に立ち向かいながら、西に歩を進めた。
マリアは戦うことは出来ないが、足手まといにならないようにと懸命に立ち回った。ソロは、つちわらしとの戦い方にも慣れてきて、とりあえず前には進むことが出来るのだった。
やがて立派な遺跡が見えてくる。

本当はこれをゆっくりと、童心に帰って探検したかったのだが、もうそんな悠長なことは言っていられない。
せめても、川を目指しながら遺跡の間を歩く。
ソ「絵がたくさん彫られていますね」
マ「えぇ。昔の悟り人の偉業を讃える絵が多いと聞きます」
ひと際大きな座像がある。頭も腕も朽ちているが、大切に造られた像であることは今なお見受けられる。像の下には文字が彫られている。
彼の人は、聡明だった。聡明ゆえに、学問の浅はかさに気付く。
聡明ゆえに、王子の座を捨てて出家する。
聡明ゆえに、商売をしなかった。
聡明ゆえに、わがままな女を口説かなかった。
聡明ゆえに、身1つで旅に出た。
人を教え諭したのは、すべてを捨てたあとのこと。すべてを捨てたから、真理を悟った。
また別の壁画にも文字が添えられている。
自分の前世を想像してみるべし。
それよりも1つ上の段階を今生きているのだとしたら、あなたがやるべきことはなんだ?
輪廻転生は、魂の進化のためにあるのだから。
ソ「昔はここにたくさんの旅行者がいたのですね」
マ「えぇ、5年ほど前までは」
ソ「なぜ観光地じゃなくなっちゃったんですか?」
マ「世界的に有名な観光地となり、来客が増えました。ロンガデセオにはどんどん、ホテルや土産物屋やレストランが増えました。
町はとても豊かになりました。収入が5倍にも。
しかし、民はそれでも満足しませんでした。そして、売春や麻薬まで売るようになってしまったのです。民は益々大金を得ましたが、しかし町も心もボロボロになってしまいました・・・。わずか5年ほどのことです。
豊かさへの欲というのは、歯止めが利かないものなのでしょうか・・・」
やがて川へと行きつく。昨日見た川だ。
桟橋が設けられている。そこまで2人でせり出していく。
マ「船が来たら、大声で呼んで手を振りましょう。普段はここでは停まりませんから」
ソ「えぇ。見逃さないようにしないとね」
ふわぁーあ。2人揃ってあくびが出た頃に、しかし無事に船はやってきた。
大げさに手を振り声を出せば、すぐにこちらに着岸してくれた。
船「どこまでだい?」
ソ「どこに行きたいですか?」ソロはマリアに尋ねた。
マ「いいえ、あてもありません」
ソ「それなら、とりあえずマイエラまで行きましょうか」
船「マイエラかい?一晩かかるよ?」
ソ「えぇ、知っていますとも」
船「1人60ゴールドだ。2人だから120ゴールドだね」
ソ「えぇ!?」
船「1人60ゴールドだよ」
ソ「ボッタクリは勘弁してくださいよ!ここに来るのに30ゴールドだったんだから!」
船「あぁ、行きは下りだからさ、流れに乗っかるだけだから安いんだよ。
でも上りはエンジンを使って川の流れに逆らって進むんだから。高くなるんだよ」
ソ「そんなぁ!」
マ「そういえば、上りは下りよりも高いのです」
ソ「ボッタクリじゃないのか。それはわかったけど・・・」
120ゴールドも持っているのか!?
「ごくり」ソロは青ざめる。
10ゴールド、20ゴールド、30ゴールド・・・
ソ「き、98しかない・・・」
船「それじゃ2人は乗せられないよ」
ソ「マリアさん、お金を持っていないのですか?」
マ「ごめんなさい。一銭も。教会の暮らしはお金がかからないのです」
ソ「・・・・・・」ソロは考えている。
マ「どうしましょう。魔物を退治してきますか?」
船「そんなに待ってもいられないんだがね。どうしたもんかな」
ソ「わかりました・・・!
60ゴールドを払います」
船「いや、足りないってばよ」
ソ「いえ、マリアさんだけを乗せていってあげてください。僕はここに留まります」
マ・船「えぇ!?」
ソ「僕は別に、マイエラに戻る理由もないからね。
マリアさんは早くここから離れたほうがいいでしょ」
マ「でもソロ様は一文無しです!」
ソ「38ゴールドはあるよ。はは。
それに、魔物を倒せばお金は手に入るんだから。そう思ったら、どうにかなると思ったんだ」
男「おい!早く船を出せよ」船の乗客はイラつきはじめている。
船「それでいいんだね?じゃぁお嬢さんは乗って」
マ「え、えぇ・・・」
ソ「マリアさん!マイエラに着いたら、トルネコさんの知り合いを探すんだ」
マ「トルネコ・・・様?」
ソ「そうだよ。トルネコさん。その名前だけは憶えておいて!
僕はその人に助けられてここまで来れたんだから。トルネコさんの知り合いだったらきっとあなたに情けを掛けてくれるよ!」
マ「わかりました。トルネコ様!」
男「ほら!もう出発しろよ!」
船「へいへい」船頭は縄をほどきはじめた。
ソ「それと、これを!」ソロはカバンに仕舞っていた小さなナイフをもマリアに恵んだ。
マ「えぇ!これもあなたの命綱です!」
ソ「もし魔物から逃げられなかったら、これで戦うんだよ!」
マ「えぇ!?は、はい!」
ソ「それと!それと!」
マ「はい!」
ソ「トルネコさんの知り合いを頼るのは一時だけにするんだ!
マリアさんは美人だから男の人が幾らだって手を差し伸べてくれるとは思うんだけど・・・金持ちの男は遅かれ早かれ、君を服従させようとするんだよ。『カネをやってるんだから言うことを聞け!』って!」
男「行くぞ、もう!」乗客の男はしびれを切らして岸を蹴った。ドン!船は走り出す。
ソ「だから男の人に依存しなくて済むように、皿洗いの仕事をしたり、自分で少しは魔物を倒して隣町まで行けるようになるんだよ!君が自由であるために!
君が自由であるために!!」
マ「はい!がんばります!!
わたくし、がんばります!!」
マリアは大粒の涙を浮かべながら、舳先からソロを、見えなくなるまでずっと見ていた。



