episode15 『王と悟り』
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第2章 覚醒
episode15
シスター・マリアを乗せた船は行った。
ソロもまた、マリアが見えなくなるまでずっと見ていた。
彼女が心配だが、まぁどうにかなるだろう。そしてリソースがまったく不足している現状、盤石でなくたって何かを敢行しなくてはならないのだ。それぞれが、勝ちの確定してないギャンブルに挑まなければいけない。そしてこれはギャンブルではないのだ。運ではない。もがくことで結果の変わるものだから。
ソ「さて・・・。僕はどうすんのかな」
急に周囲は静かになった。桟橋から遺跡に戻る。遺跡には涼しい風が吹いている。北側に行くべきかな、と思った。真東にロンガデセオに戻るのは間違っている。南に引き返すのも面白くない。残るは北だ。何も情報を得られなかったが、北に行けば村の1つもあるのではないだろうか。船の終着駅はまだ先であるようだし。
それはそうと、思いがけず遺跡を観光する機会を得た。ソロの行動をとやかく言う者はもう誰もいない。

ソロはまたしばらく、うろうろと遺跡の迷路を歩き回った。シスター・マリアの言っていたとおり、昔の悟り人を讃える壁画が多いようだった。彫られている人物は同じであると見える。時々は文字が添えられている。

「龍とは、宗教を越えて宇宙の道徳を語る者だ。
宗教を抜けて、龍の尻尾を掴むまで、真っ暗な中を手探りで歩かなければならない。
それが怖いゆえ皆、宗教から抜け出せないままでいる。」
遺跡を北側に抜けると、うっすらと北に延びる道が見えた。何かあるだろう。
ソロは引き続き《銅の剣》を振り回しながら、一人北へ北へと進んでいった。
夕刻。
ソ「上手くいった・・・」
汗だくの体で肩から息を吐いた。村を見つけたのだった。村と呼ぶには大きい。
村「おや、旅行者とは珍しい」村人がソロに声をかけた。
村「剣はしまいなさい」
ソ「あぁはい。ここは?」
村「イムルの村だよ」
ソ「村というには大きいですね」
村「遺跡観光につられて栄えていったのさ。今は昔のことだがね」
ソ「なるほど」観光で栄えるのはその中心地だけではない。周囲の土地もその影響を受けるものだ。
村「今は遺跡に来るものは少ないがね。
この土地の川釣りは珍しいらしくて、その体験を資源にしたらそれなりに観光客が寄るんだよ」
ソ「賢いもんだ!」
村「賢いと言っていいのかどうか!
一度観光商売に味をしめると、農業には戻れないもんさ。それで必死にない知恵絞っただけだ。見苦しい気がしているよ。わしはね」
ソ「つまり、宿が幾つもありますね?」
村「あぁ、細々と持っている」
ソロはまず両替え屋を探した。宝石を交換すると、131ゴールド。寝食は問題ないだろう。
次は宿探しだ。もちろん3ゴールドの宿を探すつもりだが、ふと好奇心が湧いた。3ゴールドじゃない宿は何ゴールドなんだろう?
目立つところに見えた大きなホテルをくぐってみる。従業員はYシャツを着て蝶ネクタイを締めて、これまでの安宿とは明らかに雰囲気が違う。
ソ「あのう、1泊幾らですか?」
従「50ゴールドになります」
ソ「えっ!」
従「50ゴールドです。朝食付きなら55ゴールドです」
ソ「あ、そ、そうですか。どうも!」
豪華なホテルでもせいぜい10ゴールドかと思ったが、安宿の10倍以上もするとは!
1泊50ゴールド・・・5,000円というと、物価の高いカレンとあまり変わらない。
それに、今の口ぶりでは朝食は5ゴールドということになる。安宿1泊よりも高い!
まぁ破滅的な値段というわけでもないが、少なくとも131ゴールドしか持たない今のソロにとって、1泊50ゴールドは無理があるというものだ。
ソ「そうか!僕は自分で自分に救われたな!
3ゴールドの相部屋を嫌がってたら、この旅は詰んでたや!」
大きな通りには幾つもホテルがあるが、どれも同じくらい高いのだった。安くても30ゴールドだ。手が出ない。
ソ「安い宿はないのかな?」そんなことはない気がする。特に遺跡に観光に来る人などは安宿でもかまわない若者など多そうなものだ。
ソロは考えを変えて、武器屋を探した。
武器屋もマイエラのそれより大きい。
武「へいらっしゃい!どんな用だね?」
ソ「ちょっと眺めたいだけなんですよ」ソロは正直に言った。しかし、
武「今はどんな武器をお持ちなんで?」武器屋は深入りしてくる。
ソ「え?これです」ソロは《銅の剣》を具現化して見せた。
武「おーおーおー、・・・」安っすい武器だな!と言いかけてそれは自重したと思える。
武「兄ちゃんその武器、ずいぶんくたびれてるぜ。そろそろ買い替えたほうがいいぞ?」
ソ「うん?」ソロは自分の剣を改めてまじまじと見た。本当だ。刃はあまり鋭利でなくなっている。
武「《銅の剣》ってのはただ鋳型に流し込んだだけの単純な武器だからね。持ちが悪いんだよ。鍛冶屋で叩き直してもらうって手もあるが、そのほうが高くつくしな。
それじゃぁ斬るっていうよりはただ殴りつける野蛮な武器になっちまうぜ」
ソ「そうかぁ」たしかに魔物を斬ったときの手ごたえが鈍くなっているような気がしていた。疲労のせいかと思っていたが。
武「これなんかどうだい?」武器屋は《青銅の剣》を見せびらかしてみた。
武「ほら、ちょっと軽くて振りやすいぜ。でも切れ味はこっちのほうがいいんだ」
ソ「へぇ。これこないだ見たなぁ。幾らですか?」
武「300ゴールドだ」
ソ「おぉ!」スラム街では500と言われた記憶がある。やはりあそこではボラれていたのだ。
武「いいカンジだろ?へへ」
ソ「そうですね。でも僕、お金持ってないんですよ。えへへ」
武「300もないなんてこたぁねぇだろ!」
ソ「ないんですよ。かくかくしかじかで、全財産失っちゃって!」
武「さてはロンガデセオにハマったなぁ!?」武器屋は卑しい声で言った。
ソ「えへへ」武器屋の想像とは違う事情なのだが、面倒くさいので笑って誤魔化す。
ソ「僕お金ないんです。安い宿を探してるんですけど、あまりないのでしょうか?」
武「あぁ、大通りから脇に入るんだよ。大通りは高いホテルばっかりさ。
脇に入れば安いやつもある。メシも同じだ。大通りの店は高いからな!」
ソ「ありがとうございます!」
武「300貯まったら買いにこいよ!」
ソ「えぇ」
えぇと言ったが買いにくるかはわからない。情報を入手するために武器屋などを上手く使う必要があると感じる。半分は本音や現状を伝え、半分は愛想話をする。あまり誠実な所作ではないが、向こうも愛想よく押し売りしてくるのだから、まぁおあいこだろう。
武器屋のそばの脇道に入る。なるほど、雰囲気が変わった。古くからありそうな素朴な店が多い。
宿屋を探したが、その手前に本屋を見つける。
ソ「本屋だ!珍しいなぁ」ソロは本が好きなのだ。覗いてみよう。
本「へいらっしゃい」
壁一面に本が並んでいる。古本ばかりだ。
ソ「へぇ」どうやら旅行ガイドブックが多い。なるほど、旅人が利用する本屋だ。
ロンガデセオの遺跡の写真集や解説書が多いか。昔はこうして、多くの旅行者が古代遺跡のロマンを熱心に見つめていたのだろう。
ソ「お!」ソロは1冊の本を手に取った。
『古の勇者ローシュの旅日記~ロンガデセオ編~』
レベル5。城のビンゴ大会に参加したらなんか《奇跡のつるぎ》とかいうスゴイやつが当たった!
でもそれ装備して町歩いてたら盗賊に狩られた(泣) 自分が弱いのに立派な武器持ってたってダメなんだな。分相応ってこういう意味かぁ。
ソ「ぷぷぷ。面白いなぁこの人」
隣の宿屋を覗いてみると、3ゴールドで相部屋になら泊まれるものだった。
すぐ近くに本屋があるし、ここにしよう。
この村が観光で栄える前、古くからあるようだ。武器屋が近いことから、冒険者の宿泊も多いのだと店主は言った。
さらに奥まで歩き、食事を済ます。安くて手頃な店がこの辺りに集まっているようだ。類は友を呼ぶ、というのか、素朴で安い商売をする者は同じ一帯に集まりやすいように見える。
この村でも安く立ち回れることがわかると、ソロは大きな安心感に包まれた。
魔物の飛び交うこの世界で、町に入ると安心する。それだけでなく、安く暮らせる場所に立ち入ると妙に安心する。1泊3ゴールド、1食1ゴールド。その気になればほとんどお金を使わずに何日でものんびりできる。今は130ゴールドしかないが、魔物を倒してくれば日に数十ゴールドは容易に稼げることを考えると、物価の安いこの地域では、生計の不安など気にしなくてもおよそ延々と生きていられるようなものだ。なんとなく安心する。常に生計労働に追われてきたこの3年ほどだったが、その時にはなかった安らぎを、なんとなく感じるのだった。
いっぷう変わった建物がある。民家よりも大きい。
入り口脇には、あぐらをかいて座る男性の像が祀られている。「教会かな?」ソロは関心を抱く。
開け放たれた軒下をくぐり、声を掛けてみる。
ソ「ここは教会ですか?」
すると茶色い一枚布をまとった男が顔を見せた。
僧「ここはワットですよ。まぁ他所の国でいうところの教会です」
ソ「祀る神が違うのでしょうかね?」
僧「そうだ。我々の宗教は悟り人を祀っている」
そして堂内を覗けば、そこには子供たちの姿が見える。
ソ「子供がいますよ?子供のうちから信仰に熱心なのですか?」
僧「いや、子供たちは勉強だ。
ワットは寺子屋を兼ねているのだよ。
悟り人は言った。『教会とは学ぶ場所だ』とね。
この広い空間を持て余して何になる?子供たちの学問に開放すればよい」
ソ「へぇ!」寺子屋という学び舎文化は、ソロも耳にしたことがある。
路地をさらに奥に進むと、川にぶち当たった。あの茶色い川がまだまだ延々と横たわっている。本当に大きな川だ。
しかしこれまで見たのと少し様子が違う。小さな船がたくさん浮いている。どれも三角笠をかぶった男が乗っており、ときには他にも2~3人が乗っている。皆、のんびり釣りをしているようだ。これがイムルの新名物と言われる川釣りか。なるほど、微笑ましい光景だ。

中には小舟から川にヤリを投げ込む者もいる。ザパーンと大きな水しぶきをあげて。あのヤリで武器屋も儲かっているのだろう。商売人とは色々考えるものである。
トルネコに教えてあげたら喜ぶだろうか。
川沿いに店がある。外観には何か風景や川釣りの絵がたくさん貼られている。
旅行屋か。あの川釣りはこういうところで申し込むのだろう。ソロは壁をまじまじと眺める。
モリ漁 50ゴールド
レベル10以上の方のみ!
成人の方のみ!
もちろん泳げる方のみ!
ヤリを使った漁は体験できる人が限られているよ、ということだ。
レベル10って何だろう?そういえばさっきの日記にも「レベル5」って書いてあったぞ。



