episode19 『王と悟り』
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episode19
高く広いレンガの壁が見えてきた。あれが城壁だろう。
目的地が見えると足取りは軽くなる。ワクワクとニヤニヤとしながら城へ一歩一歩近づいていると・・・背後からガタンガタンと妙な馬車音が聞こえてくる。
ソ「うん?」振り返ると、なんとも立派な馬車が近付いてくる。
馬「道を開けろー!王子様のお通りだぞー!!」
ソ「わわっ!」ソロは慌てて大げさに道を譲った。
ガラガラガラガラ・・・ガシャーン!
なんと、城壁直前の石畳に乗っかった途端、馬車は派手に横転してしまった!
「うわぁー!」乗員たちは叫び声をあげる。しかし皆体は強いようで、ゴロゴロと転がってもすぐに起き上がってくる。そして、
「王子様!」と君主の心配に夢中である。
ソロは呆気に取られてその様子を見ていた。
兵「貴様!道を開けろと言ったのに・・・」となぜかちゃんと道を譲ったソロに怖い目を向けた兵士は、しかしすぐに言葉を変えた。
兵「そなた!《薬草》は持っておらぬか!王子様の傷の手当だ!」
ソ「あ、はい!」ソロはかろうじて《薬草》が残っていた。
王「うぅ・・・助かった」
王子の応急処置が済むと、城門の兵士が任務を引き継ぐように王子を担いで、城へと消えていった。
ソ「王子様、だったのかぁ」
ソロは権威者などあまり好きではないが、一国の王子を目の当たりにするというのはちょっと嬉しいものだった。
文化は一転して、皆鮮やかで高級な服を着ており、王子はひと際艶めいている。
ふと我に返ると、「あれ?自分はこんなみすぼらしい格好で城に入れてもらえるのだろうか?」と不安になったが、門番は今行ってしまったところだ。
そろそろと門をくぐったが、町民も誰もソロを咎める気配はないのだった。誰も声を掛けてきもしないが。
ソ「余所者の来訪に慣れてるのかな」とソロは思った。冒険者も来るのだろう。
ソロは買い物途中の老婆を捕まえて声を掛けた。
ソ「ここはマーディラスというお城ですかね?」
婆「そうだよ。おかしな質問だねぇ。
頭でも打ったのかい」
ソ「いえ、他所から来たばかりなもので」
婆「そうか。そうじゃな」
ソ「あのう、3ゴールドで泊まれる安い宿はどこら辺にありますか?」
婆「知らないよそんなの」
ソ「あ、どうも」
そうか。住民は宿なんて利用しないので、どこにどんな宿があるかは知らないのだ。
建物も人の身なりも華やかだ。こんな町を歩くのも楽しい。
家々の多くは、白い壁にオレンジ色の屋根をしている。形はバラバラだが色は統制されていて、その家並みを眺めていても気持ちいい。
まだ昼下がり。焦って寝床を確保しなければならない時間でもないので、無駄に寄り道などしながら城下町の把握を楽しんだ。
両替え商もたくさんあるので、持っている宝石が幾らに換わるのか、各々で尋ねてみたりもした、すると言い値は微妙に違うのだった。2週間のさすらいで貯まったお金は、1,300ゴールドにもなっていた。
やはり大通りから少しそれた古い建物の界隈に、安宿はあった。そして安宿の近くに安い食堂もあるものだった。
宿の寝室をチェックしてロビーに降りてくると、そこは食堂を兼ねていることがわかった。
1ゴールドで食べられる食堂が宿の中にある。これはありがたい。

一般人ではない、冒険者風情の者を安宿内で見かけることはよくあったが、この宿にはどうも、修道服を着た女性を多く見かけた。様々な修道服であり、あちこちから来ているようだ。
そしてさらに珍しいものを見かける。安宿の安食堂の片隅で、なんと小さな女の子が粗末なご飯を食べながら本を読んでいる。
ソロは思わず声を掛けた。
ソ「君、3ゴールドの宿で1ゴールドのご飯を食べているの?」
女の子は少し驚き、首を上げて、丸い眼鏡ごしにソロの顔をじっと3秒見た。
●ノーラ

年齢:9歳 誕生日:5月16日 身長:140cm
少「えぇ。批判も憐れみも結構です」
無表情で大人びたことを言うのだった。愛想が良くないが、ケンカ腰でもない。ソロは益々彼女が気になった。
ソ「いえ、僕も安宿で安いものばかり食べているんです。批判も憐れみもないんだ。どっちかっていうとシンパシー?」
少女はまたソロの顔を見上げ、じっと3秒見た。
少「ナンパもお断りです」
ソ「あぁごめんなさい。ナンパっていうつもりもないんだけど、ここに座ってもいい?この街に来たばっかりだから、少し話を聞かせてもらえたらって思うんだけど」
少「えぇ。どうぞ」
ソ「僕はソロ。25歳だよ」自分が年齢を言えば相手も年齢を言うのではないかと思った。
少「・・・私はノーラ。9歳です」
ソ「きゅうさい!?」
ノ「あまり大きな声を出さないでください。目立ちます」
ソ「あ、ごめんね。
あの、お母さんは?」
ノ「いません。1人です」
ソ「1人って、一人旅ってこと?」
ノ「えぇ。まぁそういう感じです。マーディラスに住み着きたいんですけどね」
ノーラは目を伏せて感慨深そうに言った。
大きな瞳に美しい顔立ちを持ちながら、知性や落ち着き、人生に対する疲れや達観のようなものを感じる。
ソ「ちょっと・・・すごい人生生きてない・・・!?」
ノ「そうかもしれません」
ソ「親を失くして、安宿で一人で生きているの?」
ノ「私は隣国のカルベローナの生まれです。あぁ、魔法が盛んな国です。
私はそこの魔法学校に入れられて、6歳から寮暮らしをしていました」
ソ「その頃からすでに親離れ・・・」
ノ「8歳のとき、魔法学校に大きな落雷があって、学校は焼けてしまいました。
それで私は・・・学校も帰る家もなくなりました」
ソ「やっぱりすごい・・・!
学校は魔物か何かに襲われたの?」
ノ「いえ、わかりませんけど。
魔物じゃなくてむしろ神の怒りだったんじゃないかって噂もあります」
ソ「神の怒り!?」
ノ「カルベローナの魔法学校は名門でした。
でもいつからか、授業料を取るために生徒を大量に採るようになってしまいました。素質のない子をたくさん採ったって立派な魔法使いが育つはずないのに・・・」
ソ「あー、学校の商業主義かぁ、どこの国でもあるんだね。
それで、ノーラちゃんは魔法の学びも途絶えちゃったんだね」
ノ「いいえ!むしろ良かったんです」
ソ「えぇ!?」
ノ「学校が焼けちゃって最初は絶望しましたけどね。
親もいないし、だから私はカルベローナを旅立ちました。つちわらしくらいは倒す訓練を受けましたから。あとは勇気があれば出られるのです」
ソ「すごい!僕より強いのかもひょっとして」
ノ「荒野に放り出されて、それで気づいたんです。
学校よりも実践のほうがずっとずっと、上達が速いんです!」
ソ「そうなの!?」
ノ「あなた話の相槌が上手ですね」
ソ「あ、どうも。それで?」
ノ「それで私は、《ギラ》だけじゃなく《ベギラマ》まで覚えました。9歳にして」
ソ「なんかすごそうだよそれ!」
ノ「学校にいたら15歳くらいで覚える魔法です」
ソ「それを9歳で?天才じゃん!」
ノ「私も天才かもしれませんが、荒野という学び舎が優秀なのです」
ソ「ふーむ、君が優秀なのだと思うよ。その喋り方を聞くにつけ・・・」ソロは感心しっぱなしである。
ノ「同年代の魔法学生はもういないので、よくわかりません」
ソ「えぇと、もう食べ終わっちゃったようだけど、もう少し時間貰っていい?いやナンパじゃないんだよ。君の人生、とても興味深いもんでさ!そこらの小説より面白いんだもの。いや面白いって失礼だ。ごめんね」
ノ「いえ、かまいません。どんな言葉を言われるのももう慣れました」
ソ「ぷはぁ」ソロはご飯を食べ終えた。
ノ「お願いがあるのですが、私の前ではお酒を飲まないでください。
すみませーん、カフェオレ1つ!」
ソ「あぁ大丈夫だよ。僕、お酒は飲めないんだ」
店「はい、カフェオレ1つお持ちしたよ」
ノ「はい」
店「あれ?そちらさんもでしたっけ?」
ソ「いえ、僕は何も飲まないですよ」
店「そうですか。では」
ノ「・・・お酒どころかお茶も飲まないのですか!?」
ソ「僕もカフェオレは好きだけどね。旅先のカフェって高いでしょ?
だからガマンすることにしてるんだ」
ノ「私よりもお金の掛からない人、初めて見ました・・・!」
ソ「あははは。天才のノーラさんに褒められて、光栄ですよ♪」




