episode21 『王と悟り』
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episode21

夜半。
この宿は相部屋ばかりだ。とはいえ、男性の部屋と女性の部屋は明確に分かれている。
修道女たちは寝室や浴室で男性の目線を浴びる危険はない。ソロの部屋には男たちしかいない。
宿によっては、男性と女性が同じ部屋で寝る相部屋もある。それを酷く嫌う女性もいれば、あまり気にしないたくましい女性もいる。
翌朝、宿の食堂で朝ご飯を食べていると、声を掛けられる。
「あのう、買い物に付きあってもらえませんか?」
見上げると、そこにいるのはノーラだ。

ソ「え?」
ノ「あのう、今日じゃなくてもいいんです。
明日ぐらい、空いてる時があれば」
ソ「いいけど、な、何を買いに行くのかな?」
ソロが買い物に付き合って有意義と思えるアイテムが、まったく思い浮かばない。これほど難しいクイズはないというほどに。ソロの知的好奇心は、出来ればノーラが返答するまでの数秒の間に正解を思い浮かびたいと願ったが、そうはいかなかった。
ノ「ドレスです」
ソ「えー!?」正解を聞いてもなお、納得がいかず驚いてしまうのだった。
ソ「ノーラちゃんのドレス選びを、僕が手助けするの?
なんかそこらの修道女のお姉さんのほうがいいんじゃない?結構俗っぽい人もいるみたいだよ」
ノ「いえ、男性の好みのほうがよいのです」
ソ「えー!?」ちょっとドキドキしてしまう。
ソロの好みなんて聞いてどうするのだ?とドキドキしてしまったが、事情はこうだった。
「王宮魔術師の面接のときに、面接官の印象の良い服が欲しい」
というのだ。
ソロの好みではない。男性たちはどういう衣装に好感を抱くか、という意見が欲しいのだった。
ソ「はぁビックリした」
2人は街のブティックへと繰り出した。
とりあえずはめぼしい服の売っていそうな場所までノーラがソロを率いていく。
それにしても9歳の女の子の服選びとは思えない。ダンスパーティーの衣装を売っているような、大人の女性たちばかり入る店だ。
ノ「これとか?」ノーラが手に取って体に合わせたのは、肩の露出した薄黄色のドレスだ。
ソ「えぇ?そんなの着るの?」
ノ「ではこうでしょうか?」次は膝が見える丈のピンクのドレスである。
ソ「ちょ、ちょっともう1回聞くけど、面接に着るんだよね?な、何の面接なの?」
ノ「王宮魔術師の面接です。城に着ていくのですが」
ソ「そ、そんな大人びたやつなの?」そんなセクシーなやつなの?と言いたいが、セクシーという単語を使わないほうがよいのではないかと気遣った。相手は9歳である。
ノ「えぇ。城の男性に好かれるのはこういうものだと思います」
ソ「まぁそうなんだけどさぁ・・・」
ノ「ソロさんこれ、可愛くないですか?」
ソ「いや可愛いんだよ。とても可愛いんだ」
ノ「私に似合わないですか?ちょっと小さいサイズを出してもらいたいですね」
ソ「いや、似合わないっていうか、うん。似合って可愛いんだけどさ。えぇと、男性の目が集まるんだよ。ホントに。わかってるのかな?」
ノ「わかっています。ではこっちかな?」今度は水色のドレスだ。
ノ「大人たちの舞踏会に顔を出したことがありますよ。だから肩とか膝が出たドレスがいいと思うんです。セクシーなドレスが好かれるんですよ」
ソ「セクシーなって言っちゃうんだ。ノーラちゃんはホントに大人なんだな・・・。
えぇと、つまり9歳よりもずっと大人に見られたいってことなんだろうな」
ノ「そうです」
ノーラはまだ背が小さいうえに、胸も小さい。これが大人と見栄えで競い合うのは無理がある。しかしソロは真剣になって彼女のニーズを満たそうと考えた。
ソ「じゃぁこうだ!」
ノ「おぉ!」
ソロが手に取ったのは、胸のところにたくさんのフリルが付いたドレスであった。フリルが胸を大きく見せてくれる仕様になっている。胸の小さな大人に配慮されたデザインである。
ノ「大人っぽいです!」ノーラは笑顔になった。
ソ「大人っぽい格好をしたいんだろうけど、あまり丈の短いのは着せたくないんだよな。
どうしても肌を出したいなら・・・こうだ」
ソロが次にあてがったのは、オープンショルダーで胸にフリルのついた、ピンクのロングドレスだ。
ノ「可愛いです!」ノーラは上機嫌だ。
ソ「良かった。はは」
店「まいどあり。100ゴールド頂くよ」
ソ「ひゃ、100ゴールドかぁ。僕の武器と同じ値段だ。
ホントにこんな策必要なのかなぁ」ソロは頭をかいた。
ノ「必要なのです。お城の世界ですから」
ソ「君は本当に色んな意味で、大人なんだね」知っているだけでなく、もう受け入れていることに感心してしまう。
ノ「私の母は、胸の開いたドレスを着てバイオリンを弾いていました」
ソ「なるほど・・・!」通じるものがある。クラシック奏者はどんなに実力があっても、セクシーなドレスを着る。そういう世界であるらしい。

ノ「ありがとうございます。今日も昼過ぎから王宮魔術師の面接をしてもらえるんです」
ソ「そうか。頑張ってね!」
ソロは《はがねの剣》の金策に向けて、魔物退治に出る事にした。
城下町の外に出て戦闘を重ねる。
段々と城から離れ、でも方向を失わないように馬車道を辿りながら歩いていた。時々馬車とすれ違うことがある。貴族や商人や、色んな人が城を行き来するようだ。
また1つの馬車とすれ違った。城へ行く商人の馬車だ。
ソロはなんとなくすれ違いざまに振り返って、その様子を眺めていた。
すると・・・
ガタン!
馬車は大きな音を立てて傾いた。止まってしまった。
商「ち!何なんだよもう~」商人は怒って御者台から降り、車輪を眺める。
穴にすっぽりはまり、そして脱輪したらしい。
ソ「手伝いましょうか」ソロは駆け寄り、馬車を穴から救い出してやった。
商人は馬車旅を心得ているようで、脱輪したタイヤを自分で修復して、事なきを得た。
商「どうもね。これは駄賃だ」商人はソロに数ゴールドのコインを手渡した。
ソ「あの。この事故、お城の誰かに報告したほうがいいかもしれません。兵士か誰か」
商「そうだな。どうもね!」商人は手を振りながら行ってしまった。
昨日見た王子の事故と似ている。しかも修道女たちは、他にも同じような前例があったようなことを話していた。なぜ脱輪事故が重なる?
現場を改めて見る。穴に車輪が落ちたようだ。ソロは今このあたりを歩いてきたが、穴なんてあったっけな?



