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episode26 『王と悟り』

  • 4 日前
  • 読了時間: 5分

第3章 男と女

episode26


ソロは城を出る。

前庭から一度振り返り、今居たであろう2階の部屋を見上げる。

ノーラがこちらを見ていたりはしない。

ソ「大丈夫だな」ソロはまたニコっと微笑んだ。

ソ「ノーラがいつでも、幸せでありますように・・・!」ソロはノーラの父親のような気持ちで、彼女がいつも平穏であることを強く強く願った。


ノ「びくっ!」寄宿舎に辿り着いたノーラは、つむじに妙な気配を感じて身震いした。思わず振り返るが、もちろん誰も居はしない。

それから、ノーラはなぜか、体力の回復がとても早かった。何をしたいとしても、その努力や行動が以前よりも1.2倍速くはかどった。本人に自覚はなかったが。


親がいないとしても・・・代わりの何かを手に入れる者もいる。

それは、市役所の窓口で簡単に支給されるものではない。懸命に頑張り、行動した末のものだ。誰と関わるのか、それを的確に選んだ末のものだ。

親がいないとしても。


・・・もっと言ってしまえば、そういうみなしごは最も感動的な人生を生きる。



1人になったソロは、武器屋へ向かった。

お金が貯まったので《はがねの剣》を買うのだ。ワクワクする。

ソ「こんにちは」

武「おぉ兄(あん)ちゃんか。毎日会うなぁ」

ソ「武器を買いに来たんです。《はがねの剣》が欲しくて」

武「へぇ。もっと良い武器あるぜ!」

ソ「いえぇ、お金がないんですよ。えへへ」

武「今まで何使ってたんだい?」

ソ「これです」ソロはボロボロの《銅の剣》を具現化して見せた。

その剣をぶんぶんと振り回して見せる。

武「こいつは酷ぇな・・・お?

 兄ちゃんなんか違和感あるぞ?」

ソ「え?」ブン!ブン!

武「あぁわかった!

 《銅の剣》の使い手にしちゃぁ随分振りがシャープだよ!」

ソ「そうなんですか?」

武「それに、線が細いわりに振りがいい。手首も強い。

 兄ちゃん戦士って感じもしねぇが、どこで修行してきたんだ?」

ソ「あはは。修行も師匠もないんですよ。

 お金なくてずーっと、斬れない《銅の剣》振り回して一人旅してきたんです」

武「がははは!貧乏にシゴかれてきたってか!コイツは傑作だ!」

ソ「あははは」

武「・・・ん?一人旅って言ったか?」

ソ「えぇ」

武「それなら《はがねの剣》より《チェーンクロス》がいいよ!コイツだ」

武器屋は、鎖で出来たムチのような、珍しい武器を見せてきた。

《チェーンクロス》
《チェーンクロス》

ソ「またまたぁ、どうせ高いんでしょう?」

武「いいや1,200ゴールドさ。《はがねの剣》よりも安いよ。

 でもこいつはな、上手く振り回せば複数の敵にまとめてダメージを与えられる。

 兄ちゃん一人なんだろ?いっつもサシでチャンバラしてるわけにいかんだろう」

ソ「へぇ・・・」ソロはしばし考えた。憧れの《はがねの剣》は捨てがたい。が・・・

ソ「やってみようかな!」

武「がははは!いい好奇心だ!」

ソロは《チェーンクロス》を買った。

ソロ+《チェーンクロス》
ソロ+《チェーンクロス》

シュルル。軽く振り回してみる。

ソ「出来るかなぁ。あはは」

武「・・・!よし決めた!

 おい健気な貧乏人!オレは決めたぞ!」

ソ「え?」

武「誰にも言うなよ?普通は武器屋はやらねぇことなんだ。

 返品を受け付けてやる!」

ソ「返品?」

武「あぁ。もしな?それをしばらく振り回してみて、あんまりにも使えねぇって思ったんなら、戻ってこい。カネ返してやるから。そんで《はがねの剣》でも買えばいい」

ソ「あぁ、それはありがたいです!」

武「だろ?全財産はたいて使い物にならねぇってんじゃ可哀そうだからよぉ」

ソ「ありがとうございます!」


旅は楽しい。人と出会い、語らい、作戦を練り、笑い、情けを掛け合う。旅は楽しい。



新しい武器を得た。ノーラのそばにはもういないほうが良い。するともうマーディラスから離れたほうが良さそうだ。この街はなかなか良かったので名残惜しいが、「名残惜しくても次に進む」という潔さに意識的に慣れなくてはいけない、とソロは思った。そうでないとさすらい続けることは出来ない。これは安住の地や死に場所を探す視察旅ではないのだから。


宿の食堂で、冒険者を見つけた。話しかけてみる。

「どこに行くんだ?」と聞かれて、そういえば赤土の神殿・ペトラ遺跡を目指していることを思い出し、絵はがきを彼に見せた。

「メトン川からマーディラスに来たのか?逆行してるぞ!」と言われ、そういえばそうだと気付いた。マイエラから西に西に進む必要があるはずだった。

先を急ぐなら、上手く馬車でも見つけて一気にまたメトン川沿いに戻るといい、とアドバイスを貰ったが、ペトラ遺跡はもうどっちでもいいや、と今のソロは思った。

見てみたいは見てみたいが、焦ることもない。旅の道中でそのうち通ればいい。

興味の内容は移り変わるものである。たとえば今なら、魔法というものへの関心が強いことは隠し通せない。マーディラスに来て興味を持ったが、ノーラの《ベギラマ》なる魔法が魔物の群れを殲滅するのを目の当たりにしたら、あれも操ってみたいと思うものだ。自分に魔法の素質などあるとは思えないが、ひょっとしたら下位魔法の《ギラ》くらいなら?


そんな話をしたら、「じゃぁマーディラスからは大きく離れないほうがいい」と彼は言った。

ノーラの故郷カルベローナは魔法の盛んな土地。その近くにあるマーディラスは古くから、魔法使いやその血を(素質を)受け継ぐ者が少なくないのだった。戦士と魔法使いがこの街で出会って冒険を共にしたり、ここで暮らしたりするらしい。

街の歴史や風習というのも面白い。

マーディラスだけでなく、近郊の街にもそうした傾向はあるらしい。


冒険者たちはどうも、やや粗野な人が多い。盗賊だとかいうのとあまり変わらないのではないか、という人もいる。しかし対応に慣れれば、彼らは話が面白かった。世界のことを知っており、戦いのことを知っており、魔法のことを知っている。



次はどこに行こうか、冒険者や街の人からアイデアを貰ったが、最終的にソロは、ノーラの話を思い出した。彼女の故郷カルベローナは「隣国」と言っていた。そこを目指してみよう。

魔法の本場だから、というのもあるし、火事によって大きな痛手を受けたらしい街を、弔いたい気持ちがあった。

カルベローナはさらに東にあるという。ペトラ遺跡はさらに遠ざかるが・・・もういい。

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