episode26 『王と悟り』
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第3章 男と女
episode26
ソロは城を出る。
前庭から一度振り返り、今居たであろう2階の部屋を見上げる。
ノーラがこちらを見ていたりはしない。
ソ「大丈夫だな」ソロはまたニコっと微笑んだ。
ソ「ノーラがいつでも、幸せでありますように・・・!」ソロはノーラの父親のような気持ちで、彼女がいつも平穏であることを強く強く願った。
ノ「びくっ!」寄宿舎に辿り着いたノーラは、つむじに妙な気配を感じて身震いした。思わず振り返るが、もちろん誰も居はしない。
それから、ノーラはなぜか、体力の回復がとても早かった。何をしたいとしても、その努力や行動が以前よりも1.2倍速くはかどった。本人に自覚はなかったが。
親がいないとしても・・・代わりの何かを手に入れる者もいる。
それは、市役所の窓口で簡単に支給されるものではない。懸命に頑張り、行動した末のものだ。誰と関わるのか、それを的確に選んだ末のものだ。
親がいないとしても。
・・・もっと言ってしまえば、そういうみなしごは最も感動的な人生を生きる。

1人になったソロは、武器屋へ向かった。
お金が貯まったので《はがねの剣》を買うのだ。ワクワクする。
ソ「こんにちは」
武「おぉ兄(あん)ちゃんか。毎日会うなぁ」
ソ「武器を買いに来たんです。《はがねの剣》が欲しくて」
武「へぇ。もっと良い武器あるぜ!」
ソ「いえぇ、お金がないんですよ。えへへ」
武「今まで何使ってたんだい?」
ソ「これです」ソロはボロボロの《銅の剣》を具現化して見せた。
その剣をぶんぶんと振り回して見せる。
武「こいつは酷ぇな・・・お?
兄ちゃんなんか違和感あるぞ?」
ソ「え?」ブン!ブン!
武「あぁわかった!
《銅の剣》の使い手にしちゃぁ随分振りがシャープだよ!」
ソ「そうなんですか?」
武「それに、線が細いわりに振りがいい。手首も強い。
兄ちゃん戦士って感じもしねぇが、どこで修行してきたんだ?」
ソ「あはは。修行も師匠もないんですよ。
お金なくてずーっと、斬れない《銅の剣》振り回して一人旅してきたんです」
武「がははは!貧乏にシゴかれてきたってか!コイツは傑作だ!」
ソ「あははは」
武「・・・ん?一人旅って言ったか?」
ソ「えぇ」
武「それなら《はがねの剣》より《チェーンクロス》がいいよ!コイツだ」
武器屋は、鎖で出来たムチのような、珍しい武器を見せてきた。

ソ「またまたぁ、どうせ高いんでしょう?」
武「いいや1,200ゴールドさ。《はがねの剣》よりも安いよ。
でもこいつはな、上手く振り回せば複数の敵にまとめてダメージを与えられる。
兄ちゃん一人なんだろ?いっつもサシでチャンバラしてるわけにいかんだろう」
ソ「へぇ・・・」ソロはしばし考えた。憧れの《はがねの剣》は捨てがたい。が・・・
ソ「やってみようかな!」
武「がははは!いい好奇心だ!」
ソロは《チェーンクロス》を買った。

シュルル。軽く振り回してみる。
ソ「出来るかなぁ。あはは」
武「・・・!よし決めた!
おい健気な貧乏人!オレは決めたぞ!」
ソ「え?」
武「誰にも言うなよ?普通は武器屋はやらねぇことなんだ。
返品を受け付けてやる!」
ソ「返品?」
武「あぁ。もしな?それをしばらく振り回してみて、あんまりにも使えねぇって思ったんなら、戻ってこい。カネ返してやるから。そんで《はがねの剣》でも買えばいい」
ソ「あぁ、それはありがたいです!」
武「だろ?全財産はたいて使い物にならねぇってんじゃ可哀そうだからよぉ」
ソ「ありがとうございます!」
旅は楽しい。人と出会い、語らい、作戦を練り、笑い、情けを掛け合う。旅は楽しい。
新しい武器を得た。ノーラのそばにはもういないほうが良い。するともうマーディラスから離れたほうが良さそうだ。この街はなかなか良かったので名残惜しいが、「名残惜しくても次に進む」という潔さに意識的に慣れなくてはいけない、とソロは思った。そうでないとさすらい続けることは出来ない。これは安住の地や死に場所を探す視察旅ではないのだから。
宿の食堂で、冒険者を見つけた。話しかけてみる。
「どこに行くんだ?」と聞かれて、そういえば赤土の神殿・ペトラ遺跡を目指していることを思い出し、絵はがきを彼に見せた。
「メトン川からマーディラスに来たのか?逆行してるぞ!」と言われ、そういえばそうだと気付いた。マイエラから西に西に進む必要があるはずだった。
先を急ぐなら、上手く馬車でも見つけて一気にまたメトン川沿いに戻るといい、とアドバイスを貰ったが、ペトラ遺跡はもうどっちでもいいや、と今のソロは思った。
見てみたいは見てみたいが、焦ることもない。旅の道中でそのうち通ればいい。
興味の内容は移り変わるものである。たとえば今なら、魔法というものへの関心が強いことは隠し通せない。マーディラスに来て興味を持ったが、ノーラの《ベギラマ》なる魔法が魔物の群れを殲滅するのを目の当たりにしたら、あれも操ってみたいと思うものだ。自分に魔法の素質などあるとは思えないが、ひょっとしたら下位魔法の《ギラ》くらいなら?
そんな話をしたら、「じゃぁマーディラスからは大きく離れないほうがいい」と彼は言った。
ノーラの故郷カルベローナは魔法の盛んな土地。その近くにあるマーディラスは古くから、魔法使いやその血を(素質を)受け継ぐ者が少なくないのだった。戦士と魔法使いがこの街で出会って冒険を共にしたり、ここで暮らしたりするらしい。
街の歴史や風習というのも面白い。
マーディラスだけでなく、近郊の街にもそうした傾向はあるらしい。
冒険者たちはどうも、やや粗野な人が多い。盗賊だとかいうのとあまり変わらないのではないか、という人もいる。しかし対応に慣れれば、彼らは話が面白かった。世界のことを知っており、戦いのことを知っており、魔法のことを知っている。
次はどこに行こうか、冒険者や街の人からアイデアを貰ったが、最終的にソロは、ノーラの話を思い出した。彼女の故郷カルベローナは「隣国」と言っていた。そこを目指してみよう。
魔法の本場だから、というのもあるし、火事によって大きな痛手を受けたらしい街を、弔いたい気持ちがあった。
カルベローナはさらに東にあるという。ペトラ遺跡はさらに遠ざかるが・・・もういい。



