episode92 『王と悟り』
episode92


ヴィヴィアンの女王は語り始める。
女「ヴィヴィアンとはどんな生き物なのか?と不思議に思っているでしょう。
あなた方が本で読んだとおりです」
ソ「えぇと、つまり・・・
人間に対して気まぐれだということですか?」
グ「相手によって態度を変えるぞ、ということであろう」
女「そのとおりです。気まぐれはしません。ご安心を。少々いたずらっぽい種族ではあるかもしれませんが。お客様には気を付けますわ。
その人が自然や妖精にとって脅威なら、私たちは牙を剥きます。自然を愛する温厚な人なら、お友達です。悪い者を倒そうとするなら、協力をします」
グ「とてもわかりやすい説明です。本の内容と合点がいく」
女「いえ、お友達というほどお友達にはなれないかもしれません。
ヴィヴィアンたちは人間の扱いがよくわからない。それは人間が複雑だという意味でもあり、ヴィヴィアンたちの心が単純すぎる、ということでもあります。それは大人と話をする子供に近いです」
グ「人間のほうが精神の優れた種族ということであるか?」
女「そうとも言えません。人間との比較は避けます。
私たちヴィヴィアンは、エルフと天使の中間にあたる存在です」
ソ「エルフ!ヴィヴィアンはエルフの親戚ですか!?」
女「親戚。そう、親戚とも言えるのでしょう。
エルフは美意識が高く、しかし人間を怖がります。
天使は美意識が高く、そして男好きです」
ソ「男好き!?天使が、ですか?」
女「えぇ、大まかに言えばそうです。女の天使は人間の男性に興味津々です。だから天使は、人間の体に、人間のふりをして俗世に生まれていきます。自分が天使であることすら忘れてしまいますが・・・」
ソ「ちょっと色々と話が濃すぎるなぁ・・・」
グ「人間とは思えない繊細な人間が、時々いる。彼女は天使なのだろうか」
女「そしてヴィヴィアンは、エルフと天使の真ん中あたりの感性です。
エルフよりは度胸があり、好奇心があります。しかし天使ほど人を愛してもいません。今、人と関わる練習をしているところです。
なぜそんな練習をしているか?
ヴィヴィアンもエルフも天使も、人間を手助けするために造られた存在です。その使命を生きないことには、どうにもなりません。人間の学校ほどせかせかと尻を叩かれはしませんが、ヴィヴィアンも各々のペースで成長していきます。
関われる人を探し、関わる能力を磨きます」
ソ「でも人間が自然を壊すなら、人間を攻撃するのですね?」
女「そうです。人間との遊びよりも自然を守る仕事のほうが大切、とも言えますが。
人間を自然好きにしてあげなくてはいけません。
人間は、自然を愛するようにならないと何度でも自滅を繰り返します。自然が宝石よりも大切と思うようになったなら、核兵器など使わないはずなのです」
グ「そうか!核は人を滅ぼすだけでなく、自然を滅ぼしてしまう!」
女「空気の汚れ、川の汚れ、海の汚れ、山の汚れ・・・それらを見ていれば、人間がどれだけ自然が好きか、嫌いか、わかります。
妖精たちは、汚れた水に触れたら体も心も弱っていきます。水や山を汚されると、人間が憎く感じます。それでも人を愛さなければいけませんが、しかし憎く感じるのは仕方ないことです」
ソ「友達に家を汚されて、ムカムカしない人間はいない、そういうことだ!」
ヴィヴィアンの女王は雄弁に語る。
女「なぜ女王の家は、屋根も壁もないのでしょうか?
里に雨が降ったら、女王は一番最初に濡れます。女王は一番最初にその雨の水質を、体で感じ取ります。雨が汚れているなら、何か対策を講じなければいけません。
花や土が異臭を放ちはじめたとき、女王は一番先にそれを察知しなければいけません。だから壁のない家に暮らします。女王は、民のために体を張りたい人がなります」
グ「に、人間の王とは真逆だ!!
人間の王は民を肉壁にし、奴隷にすることばかり考えている・・・!!」
女「そうですね。人間の王とお友達になれるのは、1,000年か・・・もっと先のことかしれません」
気が付くと、周囲にはヴィヴィアンの数が増えている。野次馬というか、人間の来客を皆、興味深く見守っている。

女「それなりに自己紹介が出来たでしょうか?
あなた方は『嫌われないように』と気を張ってくださっていますが、私たちもまた、悪意のない存在であることをあなた方にアピールしなくてはなりません。
私は、どれだけ立派な人間なのかは定かではありません。しかし悪意がまるでないことだけは、この胸に誓えます。
あぁ、ほっぺに花びらが付いてしまったのですが、鏡を見せてくださる?うふふふ」
ソ「あっはっは!僕の子供の頃のオネショまで筒抜けかもしれませんね」
グ「つまり、雲隠れにあった人間は元の街に返してもらえるということですな?」
女「本人が望むならば」
グ「望むならば?」
女「えぇ。中にはもう街で暮らしたくないと願っている人もいるものです。
それゆえにエリュシオンに導かれる人もいます。それならここから家に帰らないこともあります」
ソ「なるほど!行き場のない人をかくまうこともあるのですね!」
グ「雲隠れのすべてが、不幸とはかぎらない・・・」
女「そう。そうした視点をお持ちいただいたほうが良いです。人は時に、親元から離れたいものです」


