episode90 『王と悟り』
第6章 隠されたもの
episode90
ガンディーノ近くの森の小屋で体勢を立て直し、ソロとグレイグは再びさすらいに出た。目指すは南東の大きな街だ。
森の中は日差しが薄らぐぶん、暑さも軽減されて歩きやすい。
ソロは目線をどこか空にやりながら、話し始めた。
ソ「あの絵本は多分、実話なんですよ」
グ「なぜそう思った?」
ソ「種族名だったんだよ、というオチで笑わせたいだけなら、雲隠れのエピソードは要らないんですよね。妖精のせいで雲隠れにあった本人は、ヴィヴィアンという名を聞いた話を他人には出来ない。そしたらこのお話には登場できないですよ。わざわざそんなエピソードを挟みません。
すると、このお話に雲隠れの魔女が登場するのは、作者自身が雲隠れにあった魔女だからです。無事に帰ってきて、これをお話にしたんだ。
なぜ書いたか?子供にジョークを聞かせたかった・・・振りをして、実際は他の魔女に対するメッセージです。魔女は湖のヴィヴィアンに会ったら雲隠れに遭うかもしれないぞ、と」
グ「なるほど。その雲隠れは、良いことなのか?悪いことなのか?」
ソ「それはわかりません。でもちょっとワクワクしちゃいますね!」
グ「そうか。ある程度強い者なら、雲隠れと聞いてワクワクする。弱い者にとっては、恐怖でしかない」
ソ「この本を読んでメッセージに気付いた魔女の中でも、勇気のある強い人か、または『もう死んでもいいや』と思う人が、真実を確かめに行くんじゃないかな」
グ「面白いな。そなたの空想だとしても、面白い。
・・・ん!つまり!
あの家の前の持ち主に、私たちは会うかもしれないのか!?」
ソ「その可能性がありますよ!
なぜ魔女さんが忽然と消えたか?湖に真相を確かめに行ったからかも」
森と平原を繰り返し距離を稼ぐと、やがて広大な水辺が現れた。

ソ「これは海じゃないの!?」
グ「湖であるはずだが。地図で見たことはある」
水平線の向こうまでじっと眺める。心地よい風が絶え間なく吹いている。
ソ「涼しいですね」森の日除けから外れたのに、涼しい。
グ「水場の近くだからだな。荒野に比べて涼しいのだろう」
湖の外周に沿って歩く。すると向こうから歩いてくる人影がある。女性だ。
●ヴィヴィアン

年齢:104歳だが見た目は15歳くらい 誕生日:11月2日 身長:158cm
もしや、とは思うが、決めつけは良くない。
ソ「あの、こんな辺鄙なところに一人で、大丈夫ですか?」
女「パトロールをしているの。湖の水を守らなくちゃだから」
グ「そなたはヴィヴィアンか?」
ヴ「そうよ」
ソ「『ヴィヴィアン』という種族なのでしょう。あなた個人の名前は?僕はソロ」
ヴ「名前?名前はヴィヴィアンよ」
グ「個人の名がないのだろうな」
ソ「絵本で語られた逸話は、別に人間を惑わすために同じ名前を言ったとかじゃないんですね」
ヴ「湖を汚さないでほしいの」
ソ「えぇ、大丈夫です。
君は、人間が怖くはないの?」
ヴ「あなたたちは怖いわ。強そうだから。強くない人間は怖くないわ」
グ「なるほど。鎧など脱ごうか」
ヴ「別にいいわ。敵意がないオーラが視えてるから」
ソ「人とは違うセンサーを持っているんだね」
ヴ「ルルル~ルルルル~♪」ヴィヴィアンは相槌がてらに鼻歌を歌っている。
グ「妖精、ということなのだろうか?」
ヴ「わたしたちは自然を守るために生きてるの。だから人間とはちょっと体が違うみたい」
グ「興味深い・・・と言っては失礼になるだろうか」
ヴ「・・・!
女王様が呼んでいるわ。何か贈り物をしたいみたい」
ソ「しょ、招待してくれるの?ヴィヴィアンの国に」
ヴィヴィアンは近くの湖面に向かって手をかざした。
ブ――――・・・ン。
なんと、湖面に小さなボートが姿を現した!
ソ・グ「具現化!?」
ヴ「冒険者の人だってやってるじゃない」
ソ「ぽかーん」
グ「そうだが、似て非なる魔法な気がする」
ヴ「着いてきて」そう言うとヴィヴィアンは、湖面に足を踏みだしていく。
ソ「あぶ!」
しかしなんと彼女は、湖面の上をついーと滑るように歩いていくのだった。
ヴ「ルルルル~ルルルルルルル~♪」鼻歌なんぞ歌っている。
グ「急ごう!」2人は焦って舟を出す。
着いてきてと言ったが、彼女は振り返りもせずどんどん先に行ってしまうのだった。
同じ方角に進んでいくしかない。
湖は大きかった。もはやナビゲートを失ったまま20分も舟を漕いでいる。彼女の背中を追って真っすぐ進んでいるつもりではあるが、船頭でもあるまいし、正確に真っすぐに来ているかは定かではない。
グ「雲隠れとは、こういうことか」
ヴィヴィアンの導きを受けてヴィヴィアンの国に辿り着く者もいれば、途中で遭難してしまう者もいるのかもしれない。
しかしさらに10分も進むと、やがて岸が見えてくる。そして家屋らしき物陰がある。



