episode91 『王と悟り』
episode91

2人が岸に着きそうになると、さきほどの妖精ヴィヴィアンの娘が戻ってくる。
ヴ「ご苦労さま。上がって」
ソ「これが、妖精の国・・・」
ヴ「国というほどじゃないわ。村、かしら。
ヴィヴィアンの里エリュシオンにようこそ♪」ヴィヴィアンは口の端を少し上げるようになった。笑みを見せるようになった、という意味だ。

それは素朴な人間の村のようであった。木で作った家を植物で飾っている。小さな家ばかりである。幹の白い木立が並ぶ様は、他の森とは少々異なる印象を受ける。どこか神秘的で清楚だ。
数十の家があり、それ以上のヴィヴィアンがいる。みんな遠巻きにこちらを見ている。
ソ「怖いのかな、みんな」
ヴ「ちょっと怖いのよ。ちょっと慣れてるけど。
他の子とも話したい?でもみんな同じ名前だからややこしいの。
あなたたちはわたしの獲物よ。うふふ」
ソ「獲物って!」
歩く先に少し大きな家があるのが見える。あれが女王の住まいだろうか。
グ「女王が謁見などしてくれるのだろうか」
ヴ「むしろ最初に会わせないといけないのよ。女王様に嫌われたらすぐ退場。うふふ」
ソロは背筋をぴんと伸ばした。

なんと女王の家には屋根がない。壁もない。
それはドラマの撮影ステージのようで、ただ家具やインテリアばかりがこちらを向いて並んでいる。
ヴ「わたしたち雨に濡れても平気なのよ。基本は」
2人の心中を察してヴィヴィアンは解説をした。
優雅な容姿の女性が玉座に座って待ち構えている。
●女王ルビス

女「ようこそおいでくださいました。雲隠れが怖くない、冒険者のお2人」
ソ「なんか色々心読まれてる?」
グ「まずは挨拶だソロ。
ご招待頂いたこと、まことに感謝申し上げる」
ソ「あ!ご招待いただきありがとうございます」
女「感謝すべきことかはわかりませんのよ。
あなたがたは雲隠れにあい、抹消されるのかもしれませんし、この辺鄙な里エリュシオンに閉じ込められるのかもしれません」
ソ「それもまた面白い体験だろう、と思ったので来ました」
グ「同意であります。あらゆる覚悟があります」
女「うふふ。頼もしいこと。怒りもしない、動じもしない。期待通りです。
テーブルに移りましょう。私だけが椅子というのは気持ちよくありません」
撮影ステージのような家の脇にはガーデンテーブルがあり、8脚の椅子がある。すぐ横には花だ。玉座の間は、同時に緑あふれる癒しのテラスなのだった。
侍女がお茶を運んでくる。
女「どうもありがとう」女王は侍女の顔を見て礼を言う。
ソロとグレイグは、この1分の対面でもう、ヴィヴィアンの女王は人間の王たちよりも洗練された生き物だと悟った。恐怖はなくなり、興味が深まった。


