episode29 『王と悟り』
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episode29

ターニアはテーブルに食事の用意をすると、座ってソロの話に耳を傾けてやるのだった。
娘のヒメアはママのひざに頭を乗せて、眠そうに、ちらちらとソロのことを見やる。
タ「それで?」
ソ「はい。魔法の本場で、大きな魔法学校があると聞いたんです。この町から出てきたという女の子です」
タ「まさか・・・」
ノ「ノーラという子です」
タ「あぁやっぱり。その名前はこの町ではあまり出さないほうがいいわ。あなたを嫌がる人がいるかも」
ソ「えぇ!悪い子には見えませんでしたが?」
タ「ノーラは悪い子じゃないけど・・・。
えぇと、魔法学校に何の用事なの?」
ソ「宿舎があるような大きな魔法学校だって聞いたんですけど、この里にそんな大きなものがありますか?」
タ「大きな学校は里の外よ。向こうに森を抜けて下りたところに建ってたの。そしたら街から人が来れるでしょ?」
ソ「あぁ!そうか。
えぇ?でも学校だけじゃなくてノーラの両親の家も焼けてしまったって・・・」
タ「あぁ、それはご両親の家が学校の中にあったからよ。
あの子の両親は、魔法学校の理事だったの。校長先生ってやつ?」
ソ「へぇー!
そうか!そうかそうか!」
タ「シー!あまり大きな声を出さないで」
ソ「あぁすみません。
学校がお金目的に生徒を呼びすぎて腐敗した、とか言っていました。腐敗の原因が、他でもなくノーラの親だったのですね。だから両親を失うことはノーラにとって悲しみでも、里の人にとっては、なんていうか、『いい気味だ』みたいな・・・」
タ「まぁそういう感じ。ノーラが悪いわけじゃないけど、ノーラに同情できない人も多いのよ。アンタの家系のせいで里はグチャグチャだ!ってね」
ソ「しかしノーラの身になって考えれば、益々彼女が気の毒になります・・・」
タ「元気でやってるの?あの子」
ソ「マーディラスの街で、王宮魔術師の見習いになりましたよ。城に住んでいます」
タ「そう!すごいじゃない」
ソ「すごい子だと思います。不思議な子だなと思いました。
だから彼女の生い立ちみたいのが気になって、ここまで来たんです」
タ「ふうん。本当に商売とかじゃないのね」
ソ「僕は単なる旅行者です。
事情がどうあれ、火事で亡くなった人たちがいるのでしょう。
なんかお墓に弔いでもしようと思ったんですが」
タ「共同墓地が、学校の裏にあるわ。別に誰でも入れるはずよ」
ソ「明日、行ってみます」
すー、すー、すー。ヒメアはいつの間にか、ママのひざの上で再び眠りに落ちていた。
タ「ちょっとこの子をベッドに置いてくるわね」
ターニアはじきに一人で居間に戻ってきた。
ソ「実は・・・。カルベローナに来た理由はもう1つあります」
タ「何かしら?魔女の彼女探し?カルベローナの女はガードが堅いわよ。うふふふ」
ソ「いえ!ドキドキするからそういう話はヤメておいてくださいよ」
タ「うふふ」
ソ「魔法に興味があるんです。ノーラの《ベギラマ》とかいうのを見てビックリしました!」
タ「そうね。魔法なんて興味が湧くんだと思うわ」
ソ「火事で学校が焼けちゃったっていうのに、かがり火を点けっぱなしでいいんですか?強い風が吹いたら山火事になっちゃいそう」
タ「うふふ。ここは魔法の里よ♪
カルベローナで教わる法は、ちょっと特殊なの。
みんな詠唱のときに『精霊の名のもとに』って呟くわ」
ソ「するとどうなるんですか?」
タ「私たちの魔法は基本的に、意図したものしか燃やさないのよ。ひとくいそうに向けて撃った《メラ》が山火事を起こすことはないの」
ソ「へぇー!」
タ「そういう、カルベローナ流の正義の魔法が使えるようにならないと、森を越えていけない仕組みになってるのよ」
ソ「選ばれし民ですか!?」
タ「そういう目的でこの里があるはずだわ。
まぁ、山を越えた後に堕落しちゃう子も大勢いるの。正義の魔法使いを貫くのって難しいのよ」
翌朝、今度はヒメアがハミングをする声でソロは目を覚ました。

朝ご飯をいただく。
ソ「カルベローナの血を引いてない魔法使いを育てて、意味があるんですかね?」
タ「そうね。でも大勢の魔法使いが必要な時代、っていうのも間違っていないのかも?
戦士ばかりの冒険者ってどうよ?バランスが悪いわ。
修行を積んだあと、東の街に降りていくのか西の山を越えていくのか、そこで未来が大きく分かれる気もするわ」
ソ「外に募ったら、魔法学校の学生ってそんなに集まるものなんですね」
タ「魔法使いになりたいって人、たくさんいると思うわ。
それに・・・魔法学校を卒業することは、一種のステイタスみたいなところあるのよ。
都会の国でいうところの、『私立のお上品な学校を出ました』みたいな?その後お金持ちと結婚しやすいのよね」
ソ「!!うーん、なんかそういう話、聞きたくなかったなぁ・・・」聞きたくなかった、というのは少し違う。何でも真実を知りたいソロだ。
タ「私、そういう話好きなの。うふふ」
ソ「へぇ。」この人も意外と多面的だな、とソロは思った。
タ「魔女ってね、男好きな人多いのよね。何でか知らないけど。それも遺伝なのかしらね。いや、外から学校に来る子もそういう傾向あるようだけど」
ソ「でもこの町は男の来訪を嫌うって?」
タ「そうよ。お年頃を超えて30歳くらいにもなると、無暗に男と交わらないほうがいいって思うようになるわ。だから自分の子にも後輩にも、そういうしきたりを引き継いでく。
男に会いたいなら外に出ていけばいいのよ。その自由は尊重されてるの。暗黙の了解、みたいな?」
ソ「ターニアさんも外に出て行ったんですか?」
タ「少しはね。私は家にいながら、他所の人と交流するわ」
ソ「商人なんて嫌いなんじゃないんですか?」
ソ「商人に興味はないけれどね。男の人と交流する練習になるの。都会のこと知れるのも楽しいわ」
ソ「ふうん」
話が停まり、食べる手が停まる。
すると、ソロの手前にコトっと音がした。
ヒメアがソロに、何か小さな綺麗な小瓶を差し出した。

ソ「何これ!?」
タ「うふふ。名前はわからないけど、マジックパワーが5くらい回復すると思うわ」
ソ「えぇー!魔力の《薬草》みたいなもんか。
くれるの?」ソロはヒメアの目を見て微笑んだ。
ヒ「うん」娘は肯定し、でも恥ずかしさから目を反らすのだった。
タ「私もこんなふうに育ったわ。
親の見せたものを、子は真似ていくのよね。うふふ」
ソ「そうですね」
タ「あなた幾つ?年下は何歳下まで守備範囲なの?うふふふ!」
ソ「えぇ!?」
ソロは恥ずかしくなってテーブルから離れる。
ターニアの家にも本棚があるぞ。魔法に関連するものが多いようだ。
ソ「見てもいいですか?」
タ「えぇお好きに」
『間接攻撃の魔法』という本を手に取ってみた。
魔法使いは、間接攻撃や補助の魔法すらも使いこなしてこそ一人前だ。補助に回る気持ちを忘れないことだ。
《ラリホー》は敵を眠らせる魔法。絶対に効くとはかぎらない。効きやすい種族もそうでない種族もいるし、同じ種族でも時によって、効いたり効かなかったりする。
《ラリホー》で眠らせた敵を、戦士や武闘家が叩く。
《ルカニ》は敵の守備力を下げる魔法。敵の体や装甲が脆くなる。やはり仲間と連携するための魔法である。これで脆くなった敵を戦士や武闘家が仕留める。魔法のダメージが増幅するわけではない。
《ルカニ》も必ずしも効くとはかぎらない。
『アセンション』
人は2つの人種に分かれます。
1つは「誰かの役に立ちたいな」と思っている人たち。
もう1つは「好きなことばかりやっていたいな」と思っている人たち。
世界の終末のそのあと、世界は2つに分離します。
「誰かの役に立ちたいな」と思っている人たちは天国のような国で暮らします。
「好きなことをやっていたいな」と思っている人たちは、引き続き争いばかりの国で暮らします。
審判の時は迫っています。
あなたはどちらで暮らしたいですか?
ソ「ふうん」
ソロはもう1冊を手に取った。
『古の勇者ローシュの旅日記~カルベローナ編~』
変わり者は、変わり者が好きなものだ!
ソ「わかるー」
たらふく食べた朝食もお腹で落ち着いた。
ソ「僕、行きますね。学校を探してみます。
どうもありがとうございました」
タ「あぁこれ。お土産よ。うふふ」
ターニアはソロに、包帯の巻かれた棒切れを手渡した。
ソ「《たいまつ》?」

タ「そうね。真っ暗になったら役に立つかも」
ソ「ふうん、ありがとうございます」森を抜ける前にまた夜になってしまうのだろうか。道に迷いやすいのだろか。
タ「あと、あなたに魔法の言葉を教えてあげる」
ソ「魔法の言葉?」
タ「もしまたこの町に来ることがあったら・・・
『《エルフの飲み薬》を買いに来た』と言ったら通してくれやすくなるわ」
ソ「ターニアさんが売ってる薬のことですね?」
タ「そう。そういうことよ。
・・・本当は、『もう一晩くらいゆっくりしていったら?』って誘いたかったけど、うふふ。今朝夢で止められたわ。あなたの冒険を邪魔しちゃいけない、ってね」



