episode31 『王と悟り』
episode31
行かずにはいられない。とソロは思った。
ワクワクする。ハラハラする。試練の洞窟なんてものに遭遇するとは!各地の民族は、「大人の仲間入りを果たすために高い木に登って鷲の卵をとってくる」などといった通過儀礼を持っていたりするが、それに似たようなものだろうか。
そうだ。きっと洞窟の奥に魔法の小瓶でもあったりするのだろう。
ノーラは「普通は15歳で一人前になる」というようなことを言っていた。つまり15歳程度まで通うのだろう。つまり15歳の女の子たちが行う試練だ。
道中の魔物はまた種類が変わった。山の中より幾分弱い気がする。このまま進めそうだ。
そう思った矢先、小さな立札を見つける。
「この先試練の洞窟
レベル15推奨!
引き返しなさい!!」
ソ「レベル15・・・!?」
急転直下で青ざめる。たしか、みならいあくまを倒せてもレベル10なのではなかったか!?
大丈夫なのだろうか?しかし、ここまで来て引き返したくはない。
そして寂しい畦道を歩いていくと、洞窟が姿を現すのだった。
ソ「こんにちは・・・」まさか誰かが「いらっしゃい」と出迎えてくれるはずもないが、ソロはなんとなく人の言葉を発してみた。もちろん返答はない。
ゴクリ。息を飲みこむと、意を決して洞窟に飛び込んだ。
薄暗い洞窟に大きな影が動く!
ソ「うわぁ!」と慄いたが、外の光による自分の影に過ぎないと気づいた。
ソ「ははは」自分で自分を笑う。
そして影の挨拶を終えると、もう洞窟は真っ暗になってしまうのだった。
ソ「あぁ、なるほど!」
ソロは2つのことを思いついた。
ターニアが《たいまつ》をくれた理由。ここまで冒険する可能性を、彼女は読んでいたのだ。
そして、ノーラが《レミーラ》なるランタンの魔法を使えたこと。なんでそんな魔法を使えるのか少々滑稽に思っていたが、洞窟探索に必須のスキルなのだ。
ソロは《たいまつ》に火を灯した。
ボっ!
ソ「ふう」安心したのも束の間!
キキキキキキー!!
バサバサバサバサ!!!
《たいまつ》の灯りを嫌がったのか、なんと人の子くらいの大きさもありそうな巨大なコウモリが複数飛び掛かってきた!ドラキーではない!きゅうけつこうもりだ!

ソ「うわぁ!」ソロは《チェーンクロス》を振り回して必死に応戦する!
ノーラと夜中に戦ったときは、ランタンを持ちながら攻撃するなんて無理があると自重したが、左手で《たいまつ》を持ちながら戦うしかない!しかも敵は頭上を飛んでいて、チェーンクロスを上向きに振り回さなければならない。
相手の突進を避けるのにも、洞窟は足場が悪くてすぐに体勢を崩す。
戦士や盗賊が侵入しちゃいけない洞窟ではないのだろうが、魔法使いのほうが応戦が有利であることは伺えた。
しかし魔法使いの女の子なりの憂鬱な試練もある。
洞窟内のヘドロに息吹が込められたような、ドロドロの魔物がいる。ドロヌーバだ。

そう強くはないが集団で襲い掛かってくるため、これの攻撃を受けないわけにはいかない。つまり気味の悪いグロテスクなものとの対峙が、避けては通れないのだ。
たしかに冒険というのは、強い魔物だけが立ち塞がるわけではない。泥臭い、汚い、臭い、気味の悪いものに対峙していかなければならない。魔法学校に通うのは私立学校のお嬢様のような子も多いと言っていたが、その都会的な感性だけでは試練の卒業は叶わないのだろう。遠く遥かまで旅することも。魔女っ子たちはあちこちで振るいに掛けられていく。「深いな」とソロは思った。
「学校を卒業」しても、「試練の洞窟は卒業していない」子もいるのだろう。
洞窟を徘徊していると、奇妙なものを見つけた。
宝箱だ!盗賊などが洞窟で宝探しをする、という話を聞いたことはあった。こういうものが本当にあるとは。
恐る恐る宝箱を開けてみる。なんと、《青銅の剣》が入っていた。300ゴールドで買える、レベル15の者にとっては型落ちな剣である。しかもここに来るのは魔法使いばかりなはずだ。なぜ《青銅の剣》なんだろう?よくわからないが、不要物とも言えない。ありがたく頂戴していこう。
そうか!宝箱が幾つも散らばっているのかもしれない!もっと素晴らしいアイテムもあるのかもしれないぞ。たくさん開けて周りたい、と欲が湧いてくる。すると、左手の《たいまつ》がジリジリと小さな音を立てた。
ソ「そうだ!《たいまつ》って何時間持つんだ!?」ソロはそれを知らない。延々と宝箱を探し回っている場合ではない。それどころか何か特定の目的を果たすことさえ、時間が足りるのか?試練とは何なのだ?目的は何なのだ?それすらわからない・・・。何も事前情報を持たないソロにとって、この洞窟への挑戦はレベル15以上に難易度が高いような気がする。
徘徊しながら考える。どうして洞窟の中に宝箱があり、中身があるのだ?これまで無数に侵入者がいたはずだ。彼らが持ち帰って、宝箱は空っぽになっているのが自然だ。
《青銅の剣》については、魔法使いたちは「私には意味がない」と軒並みスルーしてきたことも考えられる。しかし道中には魔法使いにも使えそうなアイテムもあった。
「そうか、魔法か」ソロは仮説を立てた。《ルーラ》なる瞬間移動の魔法があることを知ったし、《ホイポイ》なる具現化の魔法があることを実感している。つまり、神か悪魔か、誰かが宝箱の中身を補充し続けているのではなかろうか。場合によっては。
誰かが持ち帰って、そのまま空っぽの宝箱もある。何らかの事情で中身が復活したり、中身が変わったりする宝箱もある。そんな気がする。
神の仕業か?悪魔の仕業か?どちらかだということでもなく、両方のケースがありそうだ。または魔法使いの長老のような者も、そういうことが出来るかもしれない。
カレンで暮らしているだけでは知る由もなかったが、魔法と共存する文化においてはファンタジックなことが多々あり得るのだ。そしてマーディラスやカルベローナに生きる者たちにおいて、そんなに驚くことでも興奮することでもないのだろう。



