episode37 『王と悟り』
episode37
遠まわしなナンパばかりだ。この街はあまり長居せずに出よう。
しかし今日はもう夜になる。宿に戻って夕食を摂った。
夜も食堂は賑わっている。その様子をぼーっと眺めていた。
よく見ればここもまた、宿泊している冒険者が近所の僧侶を口説いたりしている。
男「それがさぁ、べっぴんだと思って声かけた女がよ?なんと2日前にナンパした巨乳ちゃんだったんだよ!がっはっは傑作だろ?」
口説く男も男だが、口説かれる女も女だ。
カルベローナの里のターニアは「魔法使いの女は意外と男好きだ」と言っていた。カルベローナの血を継いでいない女もそうなのか。そして僧侶の女たちもそうなのか。こんな男に口説かれて嬉しいのかなと首をかしげたくなるが、色々な思惑があるのだろうか。それともまだ若くて、男の良し悪しがわかっていないのだろうか。
誰も世界を善くする気などなく、恋愛か金ヅルのために動いているように見える。
僧「あらお兄さん、見ない顔じゃなーい?」
女のほうから声を掛けてきた。僧侶のように見える。冒険者を漁っている、地元の僧侶?

僧「こんなにスリムな戦士って珍しいわよね」
ソ「どうも。戦士?戦士なのかなぁ」
僧「戦士じゃないの?じゃぁ盗賊?」
戦士じゃなければ盗賊なのか。いつもその並びだ。
ソ「お姉さんは、僧侶ですか?」
僧「そうよ。最近は魔法使いよりも僧侶のほうがモテるからね~」
やはりステイタス的なニュアンスで考えていると見える。
ミ「私はミユ。あなたは?」
ソ「ソロっていいます。
ねぇ、勇者は?勇者はどこにいるんですか?」
ミ「えー!いたら私に教えてよー!」
ソ「居ないんですか?こんなに冒険者がいるのに?」
ミ「勇者って学校で学べるものじゃないもの」
ソ「どうやったら成れるのですか?」
ミ「どうやったら成れるのかしら?
うーんと、なんか悪い親玉をやっつけるのよ。いっぱい名声ある人が勇者よ。あとはぁ~カッコよくてちょっとファッションセンスある感じの人!」
ソ「センスとか関係あるの!?」
ミ「あとはあれよ。勇者って言ったら雷の魔法を操るの!《ライデイン》!!って」
ソ「実績を積んだら勇者になるのかな。
じゃぁこの街から勇者として旅立つことは出来ないってことですね」
ミ「あれ?でもこの街も勇者を排出してるのよ!
だから世界中からこの街に仲間探しに来るのよ」
ソ「勇者も居たんだ!」
ミ「えぇっと・・・
サマンサ?じゃないサイモン!勇者サイモンよ!」
ソ「サイモンさんは昔の魔王を倒したんですか?」
ミ「魔王まではムリムリ!そんなのは伝説の勇者だけよ。
サイモンはね、昔のサマンオサの王様が独裁政治やってたときに、それをやっつけたのよ!それで国の英雄になったのよね」
ソ「あぁ、じゃあ噴水のところの勇者像はサイモンさん?」
ミ「違うわ。サイモンってあんなイケメンじゃないのよ。
あの像はなんていうか、イメージで造ってんじゃない?
国はサイモンのこと推したくないから、サイモンの像とか絵画とかないのよね全然」
ソ「どうして!?」
ミ「だってサイモンが倒したのはこの国の王様だもの!
そんな人を讃えたらなんか気まずいじゃない?外国に」
ソ「そうか・・・」
ミ「でも外国からは『勇者の出身国』って言って評判になるのよね。
その評判を使って、国はやんやと盛り上げたいわけよ」
ソ「複雑なんだな・・・!
お姉さんは、魔王を倒しに行かないのですか?」
ミ「えぇ?勇者様を見つけたらお供するわぁ♡
・・・ミユだってば!」
ソ「見込みのある人同士でパーティーを組んで、勇者になっていくんじゃないの?」
ミ「そんなの面倒くさいわよ!勇者になった人と組みたいわ」
ソ「ふうん。
あのう・・・率直に言ってしまえば、この国は戦士も僧侶も、恋愛のことばっかり考えてるように見えるんだけど・・・」
ミ「そうかも?あははは。
でもそんなの冒険者に限ったことじゃないでしょ?
お城のお貴族さんだってそうじゃない。銀幕スターだってそう。
お貴族さんもお姫様も、ワンナイトラブのために舞踏会に行くのよ。そのために一所懸命ドレス着てお化粧してさ。宮仕えする子だって、お城のお金持ちに気に入られたいって期待してんのよね~」
ソ「ふゎ~あ」そろそろあくびが出だした。
ソ「じゃぁ僕、もう寝ますね」
ミ「え!?」
ソ「え!?」なんだ?酒代をおごれとでも言いたいのか?
ミ「こんなにお愛想してモーション掛けたのに、口説いてってくれないの?」女は上目遣いで、ソロをじっと見つめた。
ソ「えぇ!?」
ミ「なによ、つまらない男ね。いくじなし?」
ソ「い、いやぁ・・・」
可愛い女ではある。しかし自分から口説きたいほどの出会いではない、とソロは感じた。
ミ「いいのよ別に。じゃぁね」
女は努めて冷静に表情もなく、自分も立ち上がった。
ソ「いやぁ、僕の部屋男性ドミトリーなんですよ」彼女の自尊心を傷つけてしまったであろうことを、ソロは必死に弁解しようとした。
ミ「今日だけ個室に移ればいいだけじゃない?」立ち去りながら言う。
ソ「いやぁ・・・」
ミ「いいのよ別に。グンナーイ♪」彼女は小さく可愛く手を振って、消えて行った。
ぽかーん。
ソ「はぁ・・・」
複雑な溜息である。緊張と、それが解けた安堵と、もったいないことをしたなというためらいと、回答がわからない問題の苦悩と・・・。
旅先で不意に女に口説かれることは、このうえない幸せだ。
しかし、だからといって浮かれるわけにはいかない。慎重にならなければいけない。
女と深く交わることにはリスクもある。「私のためにこの街に骨を埋めて!」と言われるわけにはいかない。病気を移されるわけにもいかない。
ソロはまだ動き続けるつもりでいる。少なくとも今はまだそのフェーズだと感じている。余計な重荷を背負うわけにはいかない。
彼女には、ソロと一夜をともにするチャンスはあった。
彼女は言葉が足らなかったのだ。
「ソロに口説かせる」のではなく、自分からソロを口説けば良かった。そして「一晩でいいのよ」と先に言えば良かった。「あなたの人生を邪魔しないわ」と。そう素直に口説けば、彼女にチャンスはあった。二晩も可能だったかもしれない。
この僧侶とカルベローナのターニアは、話すテンションとしては似ている。しかし何かが決定的に違う。
女は、明るくて素直なのは可愛い。しかしもう1つ何かが欲しい。



