episode41 『王と悟り』
episode41

無事川を越えた。
マーディラスはここから南西に下っていった先にある。
それ以外の町はどの方角にあるのだ?残念ながらそれは北西だという。それぞれの目的地を貫くには、これ以上先は同行できない。
「じゃぁね」だ。
マーニャは驚くほどあっさりと、南西へと馬車を走らせた。
寂しさを増長しないためにはどうすればいいか、彼女はよくわかっている。そうでないと何年も旅などできないのだ。
とにかくソロにとって、5日歩かなければならない距離を馬車で稼げたことはありがたかった。大きな休息やリフレッシュを兼ねられた。なるべく歩いて地球を踏みしめたいと思っているが、同時に馬車など活用しながら上手に先に進んでいきたいものだ。
1人になって2日を歩くと、やがて大きな街に到着した。

トウキョの街だ。
城壁を持つ街だった。城壁街は、門をくぐったときに誕生日プレゼントを開けたような驚きを味わえるから楽しい。
ソ「わぁお、カッコイイ!」
トウキョの街は、オートモービルの行き交う文明的な街であった。車のことだ。私たちの世界の言葉で言うなら、100年前のクラシックカーが華やかに街を行き交っているのだった。馬車ではない、モーター車の走る街だ。
オートモービルはテクニカルであるだけでなく洒落てもいる。メトン川の地域の人々には創れそうにないセンスである。そしてそれに乗る人々もまた、黒いスマートなスーツに身を包み、ぴんと背を伸ばして、美意識の高さを感じさせる。女たちはドレスを着てかしこまっている。王都ではないようだが、王宮貴族のような佇まいだ。
キョロキョロしながら歩いていると、プップーと音がした。音のほうを見る。
男「乗っていくか?」男はソロを見て笑っている。
ソ「カッコいい車ですね!」ソロは愛想よく返した。
男「余所者だろう?どこに行くんだ?」
ソ「えぇと、特に決まっていないんですよ。まず安宿を探そうかなというとこで」
男「シティーホテルまでか?30ゴールドだ」
男は要するにタクシー運転手であり、ソロと会話したいのではなく客として引き込みたいのだった。
ソ「シティーホテル?なんか高そうですね。宿まで3,000円っていうのも僕の金銭感覚からすると・・・。
あのう、もう少し安い宿、ご存じないですか?相部屋でいいので、3ゴールドくらいの」
男「3ゴールド?そんなのねぇよ!」
ソ「じゃぁ7ゴールドは?」
男「7ゴールドの宿もねぇだろ!」
ソ「でもサマンオサはそれくらいでしたよ?」
男「知らねぇよ!トウキョにはそんな安宿はねぇだろ」
ソ「そうですか、ありがとうございます」この人と話してもこちらの欲しい情報にはあり付けそうにないと察し、ソロは意識的に会話を切った。
男もソロを掴めないことを察知して、舌打ちしながら走り去っていった。
要するに、トウキョの街は文明が発達しているかわりに物価が高いのだろう。
メトン川流域やサマンオサの物価感では滞在できないことを、ソロは覚悟した。それにしても安い宿を見つけたいが。
歩いているうちに両替え屋を見つける。2軒並んでいるので両方で値段を聞いたが、手持ちの宝石は2,000ゴールドほどに達していた。高いほうの店で交換をする。
ソ「僕みたいな貧乏人が好みそうな安宿は幾らくらいですかね?相部屋でいいんですけど」
両「20ゴールドくらいだろう。あまり多くないぞ?」
すると、横から声が飛んできた。
男「冒険者だろ?すぐ次の町に行ったらどうだ?物価の安い町にさ。
私の馬車に乗せてやるよ。50ゴールドでどうだ?」
面白い意見だが、この人も結局は商売をしたいようだ。
ソ「あなたは?」一応話を聞く。
男「私は商人だよ。取引でこの街まで来てるのさ。
私なら冒険者の気持ちもわかってやれる!ふふん」
ソ「へぇ。速くて立派なオートモービルが栄えているのに、馬車で行き来しているんですか?」
男「オートモービルはまだ土の道を走れないじゃないか!街の外には出れんよ」
ソ「そうなんですか?」
男「そうだよ。オートモービルは土の道を走ると、砂を巻き込んじまってすぐエンジンが壊れちまう。だから石畳ばっかりのこの街の中だけ走ってるんだ」
ソ「なるほど!だからあんなすごい車なのに、サマンオサや他所では見かけなかったのか。なんで輸出しないのかなって思ってました」
都会の喧騒の中に安い宿は見つからないように思えた。それに、オートモービルの排気ガスが臭くてなんだか気分が悪くなってくる。
どっちに行けばよいのだ?よくわからない。
この街には、真ん中であろう辺りに大きな塔が建っていた。それを中心に街が栄えているような気がする。
歩いていると、たびたびタクシーが声を掛けてくる。
「バブルの塔に行きたいのか?20ゴールドでいいよ」
大体そんなことを言っている。中心の大きな塔のことなのだろう。
見た感じ、歩いても30分で行けそうな距離だが、そのために20ゴールド(約2,000円)も払って車に乗る気にはなれない。この国の人々はそれが普通なのだろうか。価値観の違いを感じる。
バブルの塔とやらから離れたほうがよいのだろうな、と察した。きっとそのほうが庶民的なエリアだ。
やがて、建物の密度が落ち着き、車の往来も排気ガスの臭いも落ち着いてきた。そうそう。このほうがいい。
そして噴水の広場があり、大きな教会があった。
ソロは1つ思いついた。教会のそばまで歩く。
ソ「素朴な巡礼者が泊まる宿はこの辺にありませんか?」教会のそばで掃除に励むシスターに尋ねる。
巡礼者もまた、安い宿に泊まる層がいることをこれまでの旅で学習したからだ。そして巡礼者をもてなす安宿は、良心的な傾向にあると思われる。
ソロは教会や神父が好きではないが、「教会関連の何か」とはやや親和性があるようだった。そしてそれを上手く活用したい。こうした微妙な感覚は、旅をしないと理解できないものだろう。
案の定、教会の近くに20ゴールドで泊まれる宿を見つけられた。
ソ「1泊お願いします。ひょっとしたら数泊するかもしれませんが」カウンターの若者に声を掛ける。
女「おや?まだ礼拝の時間なのに気分でもすぐれませんか?」
利発な若い女性は、来客に愛想を掛ける前に驚いた顔をしている。
ソ「え!いや、僕は礼拝とかしない人間なのですが・・・。メシア教の巡礼者でないと泊めてもらえないのでしょうか?」
女「あ、違うのですか!いや巡礼者じゃなくても泊めて差し上げられますけどね。もっぱら巡礼者なんですよウチの宿は。神は誰にでも手を差し伸べるのです。
・・・あぁ、気分が優れないってわけじゃないんですね?」
ソ「えぇ、大丈夫です」
信心深い、または献身的な若者であるようだった。困りごとがあったときに頼りになりそうだ。ひょっとすると少々お節介かもしれないが、こういう人間を邪険にしてはいけない。
新しい街に着いて、手頃な宿を見つけるまでの模索はなかなかに面白い。それは様々な知恵や機転が試される。



