top of page

episode40 『王と悟り』

3 時間前
読了時間: 7分

episode40

マーニャ 『王と悟り』
マーニャ

マーニャと走る馬車の上だ。テムール川への行脚は順調に進んでいる。

ソ「まだまだ聞いてもいいですか?」

マ「え?いいよ」マーニャにとってもこの会話は面白かった。とても。相手がどういう相槌を打ち、どういう見解を挟み、どういう表情でいてくれるか。何を笑ってくれるのか。何を許してくれるのか。同じような話題をしていても、相手の反応によって面白さの度合いは変わってくるのだ。マーニャにとってソロは、良い聞き手だった。

ソ「マーニャのママは、なんでさすらってたんでしょう?どこかペトラ遺跡とか、行きたい場所があったんですかね?」

マ「うーん、ママのママもジプシーだった、ていうのが一番大きい理由かなとは思うよ。旅行とはちょっと違うんだ。どこに何があるか知らないし。昔はなおさらそういう情報なかったし。

 1つの所に留まらずに生きていたい、そうする以外にない、て人たちがジプシーやってる。

 ママがそう育って、自分も辞めたくなかったからあたいを産んでもジプシーやってた。でもだんだん感じ方が変わったんだろうね。魔法学校に入れたりしたのはね。

 どっか遠い町から、この辺まで来たんだ。目的地なんかないんだと思うよ。少なくともママは、どこに行きたいとか別に言ってなかったな」

ソロは1年や2年を掛けてあてもなくさすらいたいと思っていたが、マーニャのママはそれを何年も掛けてやっていたわけだ。ジプシーたちは。すさまじくスケールが大きい。

ソ「じゃぁマーニャは?」

マ「え?」


ソ「マーニャはどこを目指してるの?または、何を求めてるの?」

マ「うーん、色々心境の変化はあるよ。

 何年か前にママが死んじまって、それでもまぁ快適な馬車はあるから一人でさすらって生きていこうと思ってた。でも最近は、『もういいかな』って思ってるんだ」

ソ「えぇー?」

マ「そろそろ流浪を辞めて、1つの町に生きようかなって思ってるよ」

ソ「そうなんだ!」

マ「あはは。ちょっと寂しいなとか思ってる。

 あたいはママほどは孤独に強くないかもしれないよ」

ソ「でも・・・」

マ「そうさ。あたいが定住できる場所なんて限られてる。だからのらりくらりさすらってるけどさ。

 なんでも、ずーっと西のマイエラって港の近くに、ジプシーに寛大な村があるらしいよ。ルラフェンとか言ったかな。

 ジプシーだから卑下するんじゃなくて、ちゃんと中身を見てくれるんだって。いいヤツなら村に暮らさせてくれるんだって」

ソ「へぇ!マイエラって僕、通ってきましたよ!

 トルネコさんって商人にお世話になったんです」

マ「そう!トルネコだよ!

 そのトルネコって人が旅人に寛大らしくて、だからそのルラフェンも旅人に寛大なんだ」

ソ「わははは!こんなところで繋がるなんて!

 もしマイエラやそのルラフェンでトルネコさんに会ったら、ソロの名前を告げてください!きっと懐かしんでくれるから!僕、トルネコさんにいっぱい助けてもらったんですよ!」

マ「あははは、そりゃいいな!元気にしてたって伝えておくよ」

思いがけずマーニャの役に立てたらしい。それはソロにとってとても嬉しかった。

ソ「その村で、いい人って認められる自信があるから行くんでしょう?」

マ「えぇ?まぁ、どうかわからないけど」

ソ「じゃぁマーニャはいい人なんですよ。

 ジプシーだろうが、そこらの大司教や僧侶や魔法使いよりもいい人なんだ。

 立派な肩書きを持ってる人よりも、自分で自分をいい人って思えてる人のほうが、多分いい人なんです。変わってるけど、いい人なんです」

マ「あんた深いこと言うなぁ!」

ソ「こういう人を見つけながら旅するのが、僕は面白いのかもしれない」

マ「へへっ」



翌日もまだ馬車の旅は続く。

ソ「あぁ、ジプシーって男はいないんですか?」

マ「あんたいつまで敬語使うんだい?」

ソ「え?僕らの国ではこんな感じなんです」

マ「ふうん。敬語ってなんかムズムズするんだよ」

ソ「敬語を辞めるっていうのもなかなか難しいんですよ。はは」

マ「それで、男のジプシーはいないのかって?

 居ないと思うな。会ったことないよ。

 ジプシーって、男は無理だと思う」

ソ「どうして?」

マ「なんていうか、色気がないとやってけないと思うよ。

 色気を毛嫌いする女もジプシーはできない」

ソ「やっぱり芸能人に近いとこあるのかな」

マ「変わった職業を生きる人間は、同属の人間と恋愛して結婚して生きるだろうけど、ジプシー女にそれは無理ってことだね」

ソ「でも、マーニャのママはマーニャを産んだ・・・」

マ「ジプシーは時々男を口説くよ。道行く先でさ。

 そいつがもう遥か遠く離れちまった頃に、赤ちゃん身ごもったりするんだ。

 そのままパパ無しで育てていくんだ」

ソ「女手一人で?」

マ「そうだ。まぁ家馬車はあるしね。

 4人も娘連れてる大所帯とかいるしね」

ソ「産んだ子供が男の子だったら?」

マ「それが・・・よく知らないけど、ジプシーの子に男の子っていないんだよな。

 女ばっかり生まれるようになってるのか・・・はたまた男が生まれたら殺しちまうのかもしれない」

ソ「殺すの?」

マ「だって、1億人のジプシーの子がぜんぶ女って、考えられるかい?赤ちゃんの半分は男になるって計算なんだよ。それなのに?」

ソ「どうなってるんだろう!?」

マ「他人の家庭のことなんてわかりゃしないんだ。だから男の子は殺してるのかもしれないよ。

 でも、女しか生まれないのかもな!へっへっへ」

ジプシーとは、ちょっと不思議な生き物なのか?



カッカッカッカッカッカ・・・馬車は小気味よく走っていく。

ソ「そういえばこの馬、ちょっと小さくないですか?」

マ「だって馬じゃないもん」

ソ「馬じゃないの?」

マ「ロバだよこの子は。かわいいだろ?」

ソ「ロバかぁ。ロバってもっとか弱い生き物かと思ってた。馬車も引けるんだな」

マ「厳密に言えば、安いからロバを選んでるんだ。

 馬は高くてさ。ロバは安いんだ。

 ロバなんてからかわれたりもするけどね。でもいいんだ」

からかわれる者を守りたいような気持ちも、あるのだろうか。



3日目の昼、馬車は無事にテムール川に到着した。

テムール川 『王と悟り』
挿絵 by 生成AI

マ「まぁ道があるからね。簡単なモンさ」

広い川だ。メトン川と同じくらい広い。しかしメトン川のように茶色く濁っていたりはしない。だからあの川とダブることはない。

ところどころ船が浮かんでいるが、その様子も違う。メトン川の船たちよりも立派である。

ソ「馬車ごと渡れそうだ」

ソロは川に浮かぶ船のうち、とても大きなものを見つけて言った。

マ「そうだね。馬車ごと乗れるよ」

それは渡し船だ。奇妙な形をしている。船は普通、両端かまたは先端だけでも尖った形をしているものだが、それはイカダのように長四角なのだった。着岸する面積が広く、だから馬車や色々なものが容易に船に乗り移れる。文明が生んだ効率化の知恵、という感じがする。

馬車だけでなく、異国からの積み荷などたくさん載せて、悠々と川を渡っている。

ソ「どっかのお婆ちゃんが、『橋を掛けなくても事足りる』って言ってました」

マ「そうかもしれないね」

しばらくぼーっと川を眺めていた。


マ「工事を、手伝うのか?」マーニャはソロに尋ねた。

ソ「善し悪しにかかわらず、効率の良い金策のために手伝うのもいいかなって思ってたけど・・・ここまで来たら、また引き返して応募するのはなんか面倒くさいですね」

マ「まだ先まで乗ってくかい?」

ソ「えぇ、可能ならお願いしたいです」

2人は馬車を渡し船に載せた。


渡し船はオールを持つ船頭などいない。それなのにずいずいと川を渡っていく。

ソ「オールも何もないけど、これ魔法で動いてるのですか?」

マ「魔法じゃないよ!モーターだろ?モーターくらい他の国でも見るんじゃないのか?」

ソ「あぁそうか。

 こんなに魔法の盛んな国だったら、魔法で動かせばいいのに?」

マ「どうなんだろうね。

 船や車を魔法で動かす国って聞いたことないよ」

ソ「どうしてでしょう?」

マ「魔法使いには女が多いんだけど・・・女ってインフラ仕事みたいのを毎日コツコツやりたがる奴少ないんだろうな。魔法使いには特に」

ソ「魔法使いはインフラ仕事をやりたがらない?」

マ「うん。魔法使いって自分を特権階級だと思ってるとこあると思うよ。

 たまに魔法で船を動かして、人助けして名声を得る、みたいなことはやるんだろうけど、毎日毎日こうやっておっさんとか、馬車とか載せて働くのは嫌なんだよ。すると従業員が足りなくて成立しないんじゃないか?」

ソ「魔法使いが生活インフラに従事したら、暮らしの様子がちょっと変わる?」

マ「かもね。それこそ巨大な橋なんか必要ないかもしれないし。

 魔法って、なんか持て余してる気がするよ。つちわらし倒すためだけにあるのか?」

bottom of page