episode39 『王と悟り』
episode39

カッカッカッカッカッカ・・・馬車は小気味よく走っていく。
ソ「メトン川のあたりの素朴な人たちは、セックスに中毒している気配もありませんでしたよ。一部を除いては」
マ「快楽としてのセックスをまだ知らないんだろうよ。子供を生むためのセックスしか知らない文化なんじゃないか?」
ソ「そうかもしれないです」
マ「この街とか、先進国はどこでもそうだけどさ。快楽としてのセックスを知ってしまったらもう禁止は無理だと思うよ。禁止!って言っても隠れて悪さするだけさ。それより『上手にやんなさい』って言わないと」
ソ「そうですね」その通りのような気がする。
マ「ママはそれを教えてくれたってワケさ」
ソ「へぇ」ママはもう死んでしまったのだろうか。
色々と話を聞きたいが、優先順位がある。
ソ「テムール川?でしたっけ。川までどれくらいかかるんでしょうかね?」
マ「2日くらいかかるよ」
ソ「そんなに遠いんだ!」
マ「馬車で2日だろう。歩いたら5日かな。アンタ馬車をヒッチハイクして正解だったと思うぜ?はっはは」
ソ「良かったぁ!ツイてました」
マ「なんで広場にあたいの馬車がいるってわかったの?」
ソ「わかりません。なんとなく目が覚めちゃっただけなんですよ。それで朝食も食べずに出るかぁって思ったんです」
マ「ふうん。カンがいいんだな。
まぁそのうち腐るほど馬車が行き交うんだろうけど。あの工事が始まったら、さ」
ソ「あぁ、送迎もあるんですか」
マ「商人たちの馬車も総動員されてさ。商人たちも国からがっぽり貰って稼ぐのさ」
ソ「あぁ、そういう話はもうお腹いっぱいです!」
癒着、かな。色々と裏で取引がなされている。
たまには馬車の中を見やる。すると、短剣だとか色々と、武器が並べられている。
ソ「マーニャさんも戦うんですか!」
マ「マーニャでいいよ。あたいも戦うさ。旅するなら戦えなきゃ始まらないから」
そうだ。幌馬車があったって家馬車があったって、少なくとも御者は強くないと遠くへは行けない。
ソ「商人も、善い人もいるんですよ」トルネコを思い出しながら言った。あの人何してるかな。
マ「そうだろね」
マーニャも色んな人に会ってきたのだろう。
ソ「マーニャさんは?職業は何なのですか?盗賊?」
マ「だからジプシーだよ。うーん、踊り子だな。いや最初は魔法使いだったんだ」
ソ「えぇ!?」意味がわからないぞ。
マ「ママに連れられて旅立った頃は、最初は短剣とかムチとか持って魔物に歯向かってたよ。それは何だ?戦士かな。
何年か前にサマンオサに来て、そんでママはあたいを魔法学校に放り込んだんだ」
ソ「あぁカルベローナの!?」
マ「ううんそれじゃない。もっと小さくて安いやつさ。
なんかこの街の影響受けて、娘は魔法使いにしといたほうがいいかなって思ったようだよ」
ソ「へぇ」
マ「少しは魔法の訓練を受けたけどね。でもあたい、学校でおとなしくしてるの嫌でさ。色々浮くし」
ソ「そうか」今の様子を見ればなんとなく想像は出来る。
マ「あたいは魔法使いよりも、踊り子になっておひねり稼げばいいと思ったんだ。ママもそれに近いとこあったし。
ママは娘をそうしたくなかったみたいだけど、結局あたいはそれが気持ちいいんだよ。踊るって楽しいだろ?」
ソ「へぇ!」
マ「そこに扇があるだろ?」
ソ「あ、はい」鉄製なのか?キラキラ光る立派な扇がある。
マ「それ、踊りの小道具じゃなくて武器なんだ。ふふふ。
鉄で出来た扇なんだ。踊りのテンションで動き回りながら敵を切り裂きぃぃ、ひっぱたく!」
ソ「武器なんですかこれ!」
マ「踊りの小道具でもあるよ。それにセクハラ客はそれでひっぱたく!」
ソ「あっはっはっは!トラブルになりませんか?」
マ「偶然のフリするんだよ!」
ソ「あっはっは!」したたかだ。
マ「あたいなんか嘘ばっかり付いて生きてるよ。だから近寄らないほうがいい」
ソ「へぇ・・・。ジプシーっていうのも嘘かな?」
マ「はっはっは!上手いねアンタ!コメディアンになれるよ」
ソ「作家と言ってくださいよ。
・・・つまり、戦闘スタイルとしての職業も踊り子で、お金を稼ぐ職としても踊り子、ということ?」
マ「そういうことになるんじゃないか?よくわかんないけど。普段はジプシーって自認してるけど」
まったくこれまでに出会ったことのない人種だ!興味深い。カレンで言えば芸能人が近いのか?しかし芸能人は戦わない。芸能人は芸能界に依存して生きているが、ジプシーは何にも依存せず蝶のように舞っている。
不意に目の前を巨大な蝶のような魔物が通った。
マ「《メラ》!」マーニャはそれを炎の魔法でやっつけた。
ソ「魔法も使えるんだ!」
マ「時々は魔物も襲ってくるんだよ。馬車に乗ってても」
ソ「ジプシーって?何をするんですか?盗みや詐欺をする人のことなの?」
マ「ジプシーにも色々いるんだよ。
基本としては、踊り子しながらさすらう人と、あとは薬草を売りながらさすらう人と。かな。あとは占い師する奴とか。それを組み合わせる奴とか。ママは占い師だったんだ。霊能者っていうのかな。ちょっと変わったジプシーだよ。でも踊りも出来たし野草を摘んで調合するのも出来た。出来のいい女だ。
正攻法でお金稼げるジプシーはあんまり詐欺とか盗みとかやらないよ」
ソ「なるほど!マーニャの親子は善のジプシーだ!」
マ「でもジプシー全体が悪い猫だと思われてるから、あたいたちもいつも悪者扱いされてたさ」
ソ「肩身が狭いのに、それでもそういう稼業するの?」
マ「定職就いて1つの町で生きるより、旅するのが楽しい人間もいるんだよ。へへへ」
ソ「それはわかる!」信頼よりも自由が欲しい、そういうことだろう。
マ「だろ?嬉しいなぁ!
それにさ、どうせ大衆と価値観が合わないんだ。奴らに好かれて生きても意味ないよ。自分を押し殺して仲良しごっこしても、マイペースに生きて嫌われてても、あんま変わらない気がするよ」
ソ「なるほど・・・!厭世的な人なんだ。元から」
マ「大衆は愚かだと思ってるからさ、国会議員を騙してカネ取ったって別にいいだろって思ってたりする」
ソ「・・・必要悪!?」
マ「あははは!必要悪とか厭世的とか、そんな哲学もないヤツもいっぱいいるんだ!何も考えてない、働きたくない、悪いジプシーはいっぱいいる。ジプシーなんて要注意人物だよ。
あたいはジプシーともあんまつるまないな」
なんとなく、わかる。社会常識人でもなく、悪人でもなく。どの派閥にも合わないので、派閥ではなく個人を見極めながら付き合って生きていくしかない。
ソ「でも面白い人生ですね。楽しそう!」
マ「あんたが旅好きだから、そう言ってくれるんだろうな」



